この度,各務記念材料技術研究所が文部科学省共同利用・共同研究拠点として認定され、「環境整合材料基盤技術共同研究拠点」として新たな事業を進めていくこととなり、3つのキーワードである「省エネルギー」、「長寿命」、「リサイクル」を柱とした、環境整合材料の共同研究が進められていきます。
当研究室では、多種多様な機能性材料のうち、「物質と光の相互作用」に焦点を当てて、原子レベルにおける局所構造評価を基にした機能発現機構の解明と、その知見を基にした新規機能性材料の創製を目指した研究を進めております。具体的な環境整合材料の対象として、1つ目のテーマは、本拠点の3つのキーワードのうちの「省エネルギー」と「長寿命」を目指した、白色LEDの演色性向上のための希土類フリー赤色蛍光体の開発です。従来型の高輝度赤色蛍光体では、発光中心として希土類元素が広く用いられておりますが、希土類元素を用いない(希土類フリー)高輝度赤色蛍光体の開発に取り組んでおります。発光中心としてMn4+を用いた酸化物赤色蛍光体の創製と、種々の条件下における発光強度の増減メカニズムについて、実験と計算の両方面からの研究を進めています。実験的には、試料の合成に始まり、X線回折による結晶構造解析、拡散反射スペクトルや蛍光スペクトルなどの測定を行い、更には、シンクロトロン放射光を用いたX線吸収スペクトル測定による、微量添加Mnの局所環境解析を行っています。一方、計算としては、第一原理計算を用いた電子状態解析を、エストニア、タジキスタンの研究機関との国際共同研究として進めており、従来型の第一原理計算に加えて、高精度な電子状態計算を可能とするハイブリッド汎関数などを用いた計算も進めております。2つ目のテーマとして、本拠点のキーワードの1つである「長寿命」を目指した、次世代太陽電池材料として期待されている、有機無機ハイブリッドペロブスカイトの性能劣化の原因解明に関する研究を進めております。有機無機ハイブリッドペロブスカイトは、無機元素のみで構成する無機ペロブスカイト構造から、一部の無機カチオンが有機カチオン分子で置換されている構造となっています。有機無機ハイブリッドペロブスカイト太陽電池は、現在広く用いられているSi系や化合物半導体系の太陽電池とは異なり、塗布法による低温合成が可能であり、変換効率も年々上昇を続けて、従来の太陽電池と肩を並べる性能を示してきています。しかしながら、長期間の利用における耐久性については、様々な要因により大きく劣化が進んでしまう場合もあり、長寿命化が大きな課題となっています。そこで、様々な環境下での有機無機ハイブリッドペロブスカイトの劣化現象に関する研究を進めており、そのメカニズムの解明を通して高耐久、長寿命で高変換効率をもつ有機無機ハイブリッドペロブスカイト太陽電池の開発を目指しています。このテーマについても、桐蔭横浜大学やJAXA等の国内の研究機関及びロシアの研究機関との共同研究を進めております。また、上記の研究以外にも、近年の発展が著しい情報学的手法を用いた、材料開発及び評価法である材料インフォマティクスの技術を、環境整合材料に応用し、評価因子の確立にも挑戦していきたいと考えております。
以上のような研究テーマを共同研究として遂行していく中で、当拠点の国際化に寄与すべく、早稲田大学とすでに協力関係が構築されているような欧米や東アジア以外の研究拠点を主なターゲットとした国際共同研究を積極的に推進し、当拠点の真の国際的プレゼンスの向上に貢献していきたいと考えております。