Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology早稲田大学 各務記念材料技術研究所

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インタビュー 川田 宏之研究員「軽量化はイノベーションである─ 複合材料の耐久性を評価し、新しい分野に貢献する」

軽量で高強度・高剛性などいくつもの特性を備えた、炭素繊維強化プラスチックを中心とする複合材料。
今後の可能性とエンジニアリングの本質を聞いた。

60年の歴史ながら宇宙構造物では欠かせない構造材料に

──まず、川田先生の研究分野と内容をやさしく教えてください。

一言で言うと複合材料工学です。複合材料というのは、強化材料とそれを支持する母材という2つの材料を組み合わせて、従来にない特性を発揮させる材料のことです。組み合わせには、金属とセラミックス、金属と金属などいろいろありますが、その中でも一番メジャーな、繊維とプラスチックの組み合わせ(PMC=Polymer Matrix Composite)が私の研究分野となります。
このうち、繊維にガラスを用いるのがGFRP ( Glass-Fiber-Reinforced Plastics=ガラス繊維強化プラスチック)、炭素を用いるのがCFRP(Carbon-Fiber-Reinforced Plastics=炭素繊維強化プラスチック)で、これらの破壊強度を調べて合理的な設計手法を探るのが研究内容です。
破壊にはいろいろな方法があり、一番簡単なのは空中で引っ張って壊す方法です。ほかに、海中で壊す、振動を与えて繰返し荷重をかけ疲労させて壊す、衝撃を与えて壊す、あるいは塩酸の環境で壊すなど。鉄鋼材料はほぼ研究され尽くしていますが、複合材料はまだ60年の歴史なのでわからないことだらけ。材料試験なので地味ですが、エンジニアリングとしては非常に重要です。

──「60年の歴史」というと、1950年代後半にポリアクリロニトリル(PAN)繊維を用いて炭素繊維を発明した進藤昭男博士以来ということでしょうか。

現在では一般的に複合材料というと、ほとんどの場合、CFRPを指すようになりました。炭素繊維を強化材料としてCFRPが作られたのが1970年代。ですから、進藤博士の研究など含めて、およそ60年という意味です。GFRPの歴史はもう少し古く、日本を強襲したB29爆撃機の水タンクに使われていました。私はGFRPで学位を取りましたが、それは私の担当教授である林郁彦先生がGFRPを研究していたから。GFRPはCFRPと比べて、強度が低く、剛性は約3分の1。現在ではGFRPの専門的な研究者は少ないのではないでしょうか。
一方、CFRPの最大の特徴は軽くて強くて硬いこと。積層設計によって異なりますが、鉄との一般比較だと、比重で約4分の1、比強度で数倍~10倍以上、比剛性で数倍といった性質を持ちます。また、疲労強度が高く、100万回の荷重でもなかなか強度が落ちません。

カーボンが構造材料ではなく機能性で使われるようになる

──CFRPの実用化はいつごろからでしょうか。

人工衛星以外の民生品では、1970年代半ばからです。まず、釣り竿やゴルフクラブ、スキー板などに使われ、テニスやバドミントンのラケットといったスポーツ用品分野全般に広がっていきました。その後、80年代に入って航空機の尾翼・主翼をはじめとして、宇宙船や船舶といった大型構造物に使われるようになりました。今後、電気自動車の実用化が進めば、自動車の軽量化には欠かせない材料となるでしょう。さらに、人が乗るドローンが登場すればなおさらです。その意味で、軽さはイノベーションだと言えるでしょう。

──学生時代は何をテーマにしていたのでしょうか。

実は大学3年から、修士、博士、そして現在までずっと研究テーマは同じです。しかも、早稲田で学位を取り、専任講師となり、教授となり、63歳の現在まで早稲田を出たことがありません。ただ、早稲田の教授の宿命とでも言いますか、30年以上続けていると皆さんテーマが変わってきているようで、私の場合、今、積極的に取り組んでいるのが、ナノカーボン材料、それもCNT(カーボンナノチューブ)を糸にする研究です。通常、CNTからは数100ミクロンくらいしか糸にできませんが、何十メートルという長さにして、これを炭素繊維に代わる強化材料にするというもの。炭素繊維もCNTも、同じ炭素ではないかと思われるかもしれませんが、組成が全然違っていて、CNTを強化材料とした場合、50 ~100GPaという鉄鋼材料の数十倍という強度が得られます。
CNTの複合材料利用で、最も注目を集めているのが、地上と静止衛星とをエレベーターでつなぐ宇宙エレベーターです。ほかにも、CNT糸を電気の流れる導線とすることで、モーターに使われる銅の代わりになります。そうなると、特性が格段に向上します。ほかにも、衣服に利用してヒーター機能を付けたり、自動車のボディに使いながらもそこに電気を流すことで、複雑な配線が不要になって軽量化につながります。
これまで、構造材料の中でCFRPを中心に研究してきましたが、これからはCNTを主体にして、カーボンの特性を最大限に活かせる材料を考えていきたいですね。エンジニアリングの世界では、何にでも金属を使ってきました。これがカーボンに置き換わることで、水素社会の実現に少なからず貢献するのではないでしょうか。化石燃料を使ってCO₂をどんどん排出してきたのが、水を排出するだけに変わる。環境負荷が非常に少ないですから、日本やドイツはこれをリードしていかなければならないでしょう。
あと、これは従来の研究テーマの範疇なのですが、CFRPもだんだん進化していって、かつてはエポキシを母材にして固めた熱硬化性ばかりだったのですが、その後、ポリプロピレンやポリカーボネートなどを母材にした熱可塑性(CFRTP)が登場して、将来的には熱可塑性にシフトしていくと考えられています。というのも、熱硬化性は物性は優れていても、リサイクルの点で問題があるからです。炭素ですから非常に安定している分、リサイクルがなかなか難しく、小さいものはそのまま埋める、大きな構造物だと爆破させてコンクリートに混ぜるなどしてきました。これに対して、熱可塑性だと熱硬化性より疲労強度は劣るものの、リサイクル性に優れており、また、成形が容易で短時間でできますから、エネルギー利用の面で環境負荷が減ります。さらに、熱や超音波などで熱可塑性どうしをくっつける(溶着)ことも可能です。

一人前の企業人、そして国際人に育てる教育方針

──川田研究室にはどんな特徴があるのでしょうか。

エンジニアリングの分野ですから、産業や企業との結びつきが強いことが挙げられます。メーカーなどからCFRPの耐久性評価の依頼が多くあって、今も8社とお付き合いしています。このような経緯から、ここ数年の傾向として共同研究として研究費を獲得できるようになり、研究運転資金としての予算に余裕があるようになりました。学生の卒論も“紐付き” でできますし、研究室の学生には国際会議に積極的に行くように言っています。かつては、企業が外部に評価を依頼するのは、自分たちが知らないことを表明しているようなものですから、絶対にやらなかった。しかし、近年、大学にお金を払って、時間がかかって面倒な評価実
験をやってもらうことが当たり前になってきました。

──国際会議に出席させるメリットはありますか。

早稲田の理工を出たら、ほとんどの人が企業人になるでしょう。今、企業が求めている学生像は、世界に伍して物怖じしない人間です。単に英語が話せるだけでなく、ビジネスにおいても国際人であること。その点、国際会議に出席させると、一発で国際人になります。併せて、ものすごく調べないと書けないフルペーパーの論文を私のほうで求めますから、その過程で大変に成長するのです。

──ご自身の教え方ではどんなことに注意されていますか。

毎週火曜日に大学2年生の必修科目である材料力学を教えています。これでもかというくらい学生を鍛えることで、学科で一番の名物授業になっています。恩師の林先生が厳しい教え方をしていて、私はそれを引き継いだ格好ですね。難解な科目であると同時に、エンジニアリングのベースですから、この授業を選択した以上は一生懸命勉強してもらう、というスタンスです。たとえば、16時30分~18時で私が講義をして、そのあと、2コマ続きで18時からTA(ティーチングアシスタント)の協力のもとで演習をやる。そしてその日のうちに採点して翌週に返却します。そうなると、学生の方も気を抜けなくなって、中には、解けるまで帰らないという学生もいます。
今の学生は豊かになったからでしょうか、みな、“いい子” ばかりで素直です。川田研究室にも変な学生は一人も入ってきません。大学院では研究のほかにもTAをやらされるわけで、怠け者では務まらないのです。一方で、博士課程に進む人が極端に少ないのは残念です。研究室では企業との共同研究を数多く行っていて、これをきっかけとして自分の経歴にフィードバックできるような学位を取得して欲しいと思います。

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