Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology早稲田大学 各務記念材料技術研究所

News

研究紹介 鈴木 進補研究員「金属の溶融・凝固プロセス研究の新たな展開」

金属の溶融・凝固プロセスの研究開発は、数千年の長い歴史を持つがゆえに未解決の課題も多く、今日においても日々急速に発展しています。いつの時代でも、金属の溶融・凝固プロセスは、社会的課題解決のキーテクノロジーとしての責任を担っているといえます。

最近の話題として、金属用3Dプリンターが挙げられます。また、生産現場では、IoT、AI、数値シミュレーション等の技術を駆使して、人間の経験・勘、実験に頼らず数値データにより最適製造条件を導き、適切な制御により安定した製造を行っていることも着目すべき点です。いずれも従来の概念を大きく変える可能性を秘めており、金属の溶融・凝固プロセスの研究は、新たな展開の時期に来ているといえます。一方で、実験技術、分析技術開発もめざましく、少し前まで不可能であった高度な観察も実現できるようになりました。これにより、従来の生産プロセスがさらに科学的に解明されています。一方で、エネルギー、輸送機器分野での環境負荷低減、省エネルギー化、および安全性の向上を実現する新規の合金も次々に開発されています。新たな合金が開発されると、それに応じた生産プロセスの開発も必要になります。単なる合金成分の調合だけでなく、溶解条件、凝固条件を最適化してミクロ組織を作りこんでいく必要があります。本記事では、溶解・凝固プロセスに関わる動向の例と、他機関との共同研究により進めている我々の研究室の取り組みを紹介します。

最近、一般の人でもインターネットで図面を加工業者に送付すれば、金属用3Dプリンターで造形されたものを入手できるサービスが普及しました。数年前には想像していなかったような 3D プリンターが、一気に身近な道具になりました。金属用 3D プリンターの代表的な方法として、Selective Laser Melting (SLM)や Electron Beam Melting(EBM)が挙げられます。レーザーや電子ビームで金属の粉末床に2D 図形を描き溶融凝固後、その上に新たな粉末床を敷設し、次の2D 図形を積層させていき、最後に粉末を除去して造形体を取り出す方法です。技術が日々進歩し、複雑で精緻に形状の製品まで造形できるようになってきましたが、機械を導入すれば誰でも造形できるというものではありません。金属を短時間の間に高温に加熱して溶解凝固させるため、膨張・収縮や、熱制御が造形品の質に大きく影響します。しかしながら、実際にどのように溶解・凝固し、その後、どのように再加熱されるか、その結果どのような結晶、残留応力状態になるかは、系統的に明らかにされていなく、これまでは実験、経験に基づき検討されてきました。

本研究室では、今後、さらに造形を高度化し、材質を向上させるために必要な溶融・凝固時の挙動の解明と理論構築に取り組んでいます。まず、SLM における,粉末床の温度変化と溶融挙動、組織の関係を調べています。今後、凝固条件や粉末の特性と、凝固組織の関係を明らかにしていきます。

また、このような溶解・凝固挙動の検討、シミュレーション技術の向上には、液体状態での精確な物性値データ・理論値、凝固のその場観察が必要です。しかしながら、液体金属の物性は、固体と比較し未解明の点を多く残しています。これは、雰囲気・容器との反応、対流・沈降、内部の直接観察が困難など実験の困難さによるものと、原子の運動が複雑になるための理論構築の困難さに起因しています。近年、国際宇宙ステーション(ISS)利用実験や、放射光を利用したその場観察が可能になりました。本研究室は、ISS などの微小重力環境を利用して、対流抑制下で輸送現象に関わる物性値測定(拡散係数、ソーレ係数)を行っており、今後理論的検証を進めていきます。凝固のその場観察方法として、最近では、透過X線が利用されています。本研究グループでは、発泡アルミニウムを作製する際の発泡挙動をその場で観察しています。発泡アルミニウムは、スポンジのような構造をもつ金属で多機能軽量材料としての応用が期待されています。本研究グループでは、発泡剤 TiH2の粉末が混ざったアルミニウム合金を半溶融温度まで加熱し、TiH2の分解により発生する H2ガスを取り込ませたシャーベット状(固液共存)のアルミニウム合金をその場観察しました。初晶粒子が存在する半溶融状態では、シャーベット状の膜が安定化し、微細な気孔を保つことができると明らかにしました。

金属材料やその溶解・凝固プロセスの研究開発は、長い歴史の中で強固に確立された基礎的な技術と理論を基に、情報技術、先端的実験技術を取り入れて、大きく飛躍しようとしています。今後、様々な分野の叡智を結集させ、溶解・凝固プロセス発展させることにより、多くの社会的課題を克服することができると考えています。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/fsci/zaiken/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる