Kagami Memorial Research Institute for Materials Science and Technology早稲田大学 各務記念材料技術研究所

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インタビュー 菅原 義之研究員「有機と無機を組み合わせて新しい材料を創出。 深い研究より広い実用を目指す」

有機材料と無機材料を組み合わせることによる、新たな性質を持つ材料――有機-無機ハイブリッド材料の作製と、 ハイブリッドを前駆体としたセラミックス材料の合成について研究する菅原 義之教授。その魅力と可能性を聞いた。

 

──どのような経緯で有機-無機ハイブリッド材料の研究をするように至ったのでしょうか。

元々はセラミックスを研究しており、博士論文では粘土鉱物からセラミックスをつくることがテーマでした。粘土鉱物はケイ素やアルミニウム、酸素などを主要構成元素とする層が積み重なった構造をしており、この粘土層の間に有機高分子を入れた後窒素あるいはアルゴン中で加熱することにより、有機高分子から生じた炭素が酸素を奪い、窒素や炭素がケイ素やアルミニウムと反応し、窒化物や炭化物などの非酸化物セラミックスをつくるというものです。この時学んだ複合化技術を活用し、研究対象を有機材料と無機材料を組み合わせたハイブリッド材料にシフトさせていきました。

無機材料として例えばセラミックスを研究し、有機材料として高分子材料を研究することはこれまでもこれからも、行われていくと思います。それぞれの材料ではカバーできない性質の材料を扱うのが私の研究対象である有機-無機ハイブリッド材料です。研究を始めてしばらくは、無機材料が主役の研究をしていました。十数年ほど前からは、ナノシートやナノ粒子などの無機ナノ材料を作製して、有機高分子と組み合わせる、有機高分子が主役の研究を始めました。有機材料と無機材料はあまり馴染みがよくないため、ここでキーとなるのは、無機ナノ材料の表面を有機化合物でうまく被覆する技術です。この研究が固まってきたので今度は高分子鎖で被覆する研究を始めました。こうした無機材料の表面を被覆した材料は、最近は元素ブロック材料として位置付けられるようになっています。現在は、無機ナノ構造の作製や無機ナノ構造の表面修飾による元素ブロックの作製、さらに、元素ブロックを高分子マトリクスに分散させることによる有機-無機ハイブリッドの作製を中心に研究を展開しています。

様々な製品に使われる可能性がある 有機-無機ハイブリッド材料

──有機材料と無機材料を組み合わせることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

たとえば、汎用高分子材料の屈折率はある範囲の値(約1.3~1.7)に限られています。一方、無機材料にはさらに屈折率の高いものがあります。そこで、高屈折率無機ナノ材料を高分子の中に分散してうまく練り込むことによって、屈折率の高いハイブリッド材料をつくることができます。身近な例である、プラスチックのレンズで説明しましょう。現在使われているプラスチックはとても軽いですが、屈折率は低くなります。そこで、度数を上げようとすると、レンズは厚くなります。しかしレンズの材料を高屈折率ハイブリッド材料にすると、レンズを薄くすることが可能になります。

また、私の主要な研究範囲ではありませんが、汎用有機高分子材料と無機ナノ材料、特にナノシートを組み合わせることで機械的性質、引張り・圧縮・せん断などに対する耐久性を高めることができます。また、高分子材料の欠点である水蒸気などガスの透過を抑制できることからも注目が集まっています。

今や、身の回りのほとんどが高分子材料でできていると言っていいでしょう。したがって、今後も新しい有機-無機ハイブリッド材料が生まれ、それを活用した製品も増えていくと期待されます。

──かなり広範囲に応用され実用性の高い研究なのですね。

企業の研究者も高い関心を持っているようです。例えば、屈折率の高い材料も低い材料も、それぞれ産業界では高いニーズがあります。有機無機の組み合わせは無数にありますし、無機ナノ材料を数%加えるだけで有機高分子材料の性質が変わることもあるところにも魅力があります。ただし、私は合成に特化しているので、物性の評価は他の研究者と連携して行っています。

──もう一つ、前躯体高分子からのセラミックス合成も研究していらっしゃるようですが。

これはMITでポスドクをしていた時のテーマであった「セラミックスを有機化学的につくる研究」が展開したものです。セラミックスは通常、原料粉末を焼き固めて作っていくのですが、セラミックスを構成する元素を含む高分子(無機高分子とよばれます)を前駆体とすることで、様々な形状のセラミックスをつくり出すことを狙って、窒化アルミニウムなどを対象に研究してきました。現在は、ダイヤモンドのように合成に高温・高圧が必要な合成において、出発物質に無機高分子から作製した非晶質物質を用いることで、より温和な条件での合成を目指しています。

有機化学と無機化学の両方の知識・技術を使うのは大変、でも社会に出れば役に立つ

──菅原研究室のスタッフや今の学生を見ていてどう思われますか。

菅原研究室はスタッフも入れて30数名。多くの学生が有機化学も無機化学も使っています。高校や大学の教育では、有機化学と無機化学は別々に教えられてきていますから、両方の知識を使うのは大変です。研究技術としても、有機合成分野の研究者がセラミックスを取り扱うと、固体の取り扱いがわからない、セラミックス分野の研究者には有機合成はハードルが高い、というのが、普通の姿ではないでしょうか。このように知識としても実験技術としても幅広い領域をカバーしなくてはなりませんが、学生は一生懸命に取り組んでいます。幅広い領域を扱っていると、いろいろな分析手法が身につくので、研究室を出た後にはこうした知識と経験が役に立つと聞きます。

──学生の指導はどんな点に注意されていますか。

学生自身が工夫をして道を切り開いていく手伝いをするのが理想形です。こちらからアイデアを出すばかりではなく、学生がもってきたアイデアも、できるだけ活かす、あるいは尊重するようにしています。企業に行ったOBの話では、失敗しても自分で工夫して進めていく経験が将来役に立つようです。

また、難しい実験でも、チャレンジして、原理や技術を自分のものにしてもらいたいと考えています。私自身、MITのポスドクのときは苦労しました。セラミックスの化学合成では世界的なパイオニアに師事したのですが、水や空気を嫌う有機金属化合物合成で必要とされる、窒素などの不活性ガス中での実験に関して、渡米するまで知識も経験もなかったのです。後にフランスの研究室に滞在に半年滞在したときには、ゾルーゲル法をケイ素化学の立場から切り開いた教授のもと、ゾルーゲル法で使える分子を有機化学的につくる技術を身につけました。苦労して身に着けた技術は一生使えますし、こうしたプロセスでの成功体験は次の機会に活きるものです。

──最後に先生の研究室の特徴とPRをお願いします。

私の研究室は、“有機材料” と “無機材料” それぞれの合成を極めてはいないかもしれませんが、両方を「広く」カバーして有機-無機ハイブリッド材料を作製しているのが特徴です。この「広さ」が今後の企業が求める研究姿勢の1つだと思っています。これからは、「有機材料のスペシャリスト」や「無機材料のスペシャリスト」だけではなく、「必要な材料・技術は何でも取り入れられる研究者」も必要なのです。

私の研究室も、「必要な材料・技術は何でも取り入れられる研究室」として、いろいろな合成手法を駆使しながら、無機材料や有機材料のを自在に組み合わせ、「優れた物性を有する有機-無機ハイブリッド材料」を今後も創出していきたいと思います。

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