100万人以上が欧州に移動し、人道的対応が大きく問われた2015年「難民危機」。グローバリゼーション下において「国境」が社会の内外に遍在化し、移動への明確な意志も、安住できる目的地ももたず、移動状態への“宙吊り”を強いられる民がますます増える中、「移動」をどう捉え直し、社会は彼らをどう迎えるべきなのか? 人類学的視点からの刺激的な「移動」論。
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移動民はもはや、移民でも移民労働者でもない。後者にはなお、見出されることがないとしても動機がある。もし移民による労働と移動民との間につながりがあるとしたら、それは偶然のつながりである。
今日の移動民の形象は、別のものである。この形象は、移民労働者の地位よりも不安定であって、多重性を持った「場所」で、複数の繫留装置――それらが仮のものであるとしても――の間で、一つあるいは複数の受け入れ国および通過地の経済の中への部分的で仮りそめの組み込みの間で、形成される。それは「世界への現存」のひとつの形態であり、この形態は、多かれ少なかれ常に境界上に留まり続ける。
この未完了の状態こそを、私はこれから叙述したいと思う。(本文より)
【出版社】藤原書店 出版社Webサイト
【刊行日】2019年7月
【ISBN 】978-4-86578-232-5
※この原書は、2018年度法学部科目「教養演習(フランス語圏)C」で使用したものです。