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「病者・障害者の自己表現を読む」文化構想学部 荒井裕樹教授(新任教員紹介)

「病者・障害者の自己表現を読む」文化構想学部 荒井裕樹教授(新任教員紹介)
Posted
Tue, 09 Jun 2026

自己紹介

病気や障害とともに生きる人たちの自己表現活動(特に文学・アート・社会運動)について興味を持っています。もともとは日本の近現代文学を学んでいたのですが、大学院修士課程に進学した直後の課題で作家・北條民雄(1914‐1937:ハンセン病を患った作家として有名)の報告を担当したのがきっかけで、病気や障害の問題に関心を持つようになりました。

北條民雄が暮らしたのは東京都東村山市にある国立療養所多磨全生園でした。2003年の初夏、北條のことを調べるために初めてここを訪ねました。当時は古い時代の療養所を知る古老たち――中には北條と面識があるという方も!――がご健在で、そうした方々の話をうかがうのが楽しくなってしまい、研究室よりも頻繁に療養所に通っていました。その頃、全生園には入所者自治会が運営している「ハンセン病図書館」という資料室があり、そこの主任を務めていた山下道輔さん(2014年逝去)という方に大変お世話になりました。この方との出会いが、私の人生の転機だったかもしれません。

療養所内で行なわれた山下道輔さん(右)のお話し会を手伝う様子。左が学生時代の荒井(撮影=黒﨑彰)

博士課程進学後は、身体障害者の文学活動にも関心をもち、脳性マヒの作家・俳人・社会運動家の花田春兆さん(2017逝去)の付き人のようなことをしていました。花田さんは日本の障害者運動の最長老格で、業界に顔も広く、各種障害者団体の会議・集会・デモによくお供しました。それまで私は障害者(特に重度の身体障害者)との接点がほとんどなかったので、とにかく知らないことばかりで驚きの連続でした。

博士課程を終える頃からポストドクターの時期には、東京都八王子市にある精神科病院・平川病院で開催されている〈造形教室〉に通うようになりました。精神科病院を舞台に「〈癒し〉としての自己表現」をテーマに活動するアトリエとして全国的にも知られています。ここに参加しながらアート活動のお手伝いしていた時期もあります。

最近では1970年代の女性解放運動(ウーマン・リブ)にも興味があり、当時の運動に参加した人たちに話を聞いたりしています。

日本社会の中には、病気や障害とともに生きる人たちに対する根強い差別が存在しています。差別・迫害・排除を受け、絶望と苦しみの淵に立ちながらも、文学やアートや社会運動を通じて「自分という存在」を表現しようとした人たちがいました。そうした人たちのことを調べたり、広く書き伝えたりするのが、自分の役割なのだろうと思っています。

というのも私自身、実は「自分を表現する」というのがひどく苦手なのです。困難な状況の中でも「自分を表現する」ことに挑んだ人たちの姿に、学術的な興味関心を越えた、ある種、神聖な敬意に近い感情を抱くことがあります。

「ハンセン病図書館」の資料整理を手伝う様子(撮影=黒﨑彰)。学生時代はこうした「紙の山」の中で時間を過ごすのが好きでした。

 

私の専門分野、ここが面白い!

実は「自分の専門分野」について説明するのが得意ではありません。「〇〇学」や「△△研究」といったような、はっきりくっきりした分野に身を置いているわけでなく、むしろそれらの「隙間」に落ちたものを考えてきたからです。

例えば「障害者の文学」というと、それは文学を専門に扱う「文学研究」の領域なのでしょうか。それとも、障害者に関する問題を専門に扱う「福祉学」の領域なのでしょうか。たぶん、両者の学問の隙間に落ちてしまった問題なのだと思います。こうした「見えにくい問題」について考える大切さを、病気や障害とともに生きる人たちから教わってきたように思います。ついでに言えば、私が着任した文化構想学部はまさに「学際」というにふさわしい学びの場です。さまざまな学問が学べる環境だからこそ、隙間に落ちるような問題にも関心を持ってほしいと願っています。

病気や障害とともに生きる人たちに年単位の時間をかけて話を聞いて、時には生活の中にも入り込ませてもらって、その人と一緒に「自分を表現する意味」について考えるのが単純に好きです。教員という立場になってからは、なかなかこうした長期的な取材もできなくなってしまったのですが、若い頃に積んだいくばくかの経験を学生の皆さんに伝えていけたらと思っています。

最近は作家活動(研究内容を一般読者向けに開かれた単行本にまとめること)にも力を入れています。世の中には、どうにも「学術論文」というフォーマットに収まらないテーマがあります。そうした問題について、エッセイ・ノンフィクション・人物評伝のようなかたちで書き記してきました。書き下ろしの単行本という表現形態が自分には一番合っているかもしれません。ちなみに、今、書いていて一番楽しいのは「育児エッセイ」です。

荒井裕樹『無意味なんかじゃない自分―ハンセン病作家・北條民雄を読む』(講談社、2025年)

 

プロフィール

あらい ゆうき。1980年、東京都生まれ。2009年、東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院人文社会系研究科附属次世代人文学開発センター特任研究員、二松学舎大学文学部教授を経て、2026年4月より現職。

著書に『隔離の文学―― ハンセン病療養所の自己表現史』(のちに増補補新装版、書肆アルス)、『障害と文学―― 「しののめ」から「青い芝の会」へ』(現代書館)、『生きていく絵――アートが人を〈癒す〉とき』(亜紀書房、のちにちくま文庫)、『障害者差別を問いなおす』(筑摩書房)、『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)、『凜として灯る』(現代書館)、『無意味なんかじゃない自分―― ハンセン病作家・北條民雄を読む』(講談社)、『たった一人の読者を生きる』(柏書房)などがある。

2022年、第15回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞受賞。
2025年、第47回サントリー学芸賞(芸術・文学部門)受賞。

(2026年6月作成)