- 宮城県立宮城第一高等学校 2006年3月卒業
- 早稲田大学国際教養学部 2010年3月卒業
- MA in Human Rights, School of Political Science, University College London
― 現在の仕事について教えてください。
私は現在、UNICEF(国連児童基金)エチオピア事務所で緊急支援担当官として働いています。国内で絶えることのない紛争、自然災害、感染症の蔓延といった緊急事態や人道危機の中で、最も犠牲を強いられる子どもたちに支援を届けるための計画や調整を行ったり、現場で支援を届けたり、繰り返し同じ問題が起きないように予防策を考えていくのが主な仕事です。
UNICEFは世界約190カ国で活動しており、中でもエチオピア事務所は、職員数も展開されている事業の規模も、アフリカ大陸で最大の事務所。現場に出ている時間が長く、時には銃撃戦や誘拐が相次ぐフィールドで過ごしたり、電気や水のない場所に泊まったりすることもありますが、どんなに厳しい状況でも、子どもたちの命と権利を守るという共通の目的のもと、世界各国から集まった同僚たちと日々仕事に励んでいます。一筋縄ではいかないことばかりですが、自分のことだけに目を向けがちな世の中で、少しでも相手のことを意識し、難しいなりにも今できる最善を尽くそうという姿勢で仕事に向き合う同僚たちと仕事ができるのが、この仕事のやりがいです。
― 国際機関で働く中で感じたSILSの良さがあれば教えてください。
国際機関では、国や言語の壁を越えて世界各国から集まった同僚と共に仕事をします。私の属するチームもアルジェリア、スイス、アメリカ、ハイチ、ジンバブエ、モロッコ、エチオピアなど、多国籍なメンバーが勢揃い。複数言語を操って仕事をしている人も珍しくなく、毎日がたくさんの刺激にあふれています。
このような職場環境は、英語をベースに多国籍な仲間と学ぶ、SILSの環境に通じるものがあります。こうした環境に身をおくと、自然と外に目を向け、固定観念に捕らわれずに自分の考え方や価値観を見つめなおすきっかけになります。自分の当たり前が必ずしも相手にとっての当たり前でないことに気が付かされるのです。それに加えてSILSでは、敢えて専攻分野の制限などを設けないからこそ、自分で考え、自身の興味関心に向けて舵をきって成長していける、柔軟性に富んだ環境があると思います。

「国連の日」イベントで様々な国際機関の同僚たちと
また、国際機関で働くには、関連分野での修士号以上の学位が求められることが多く、専門性を持つことが大切とよく言われます。私は、高校生の時からいつか国際機関で働いてみたいと漠然と思ってはいたものの、自分は何を専門にしたいのか、働くためにどんな準備をすべきかがその時には明確にわからず、SILSではもともと興味のあった国際関係論だけでなく、面白そうに感じた考古学や生物学の授業まで、様々な授業を履修しました。いま大学生活を振り返ると、分野に囚われず広く学習した経験は、その先のたくさんの可能性や選択肢を増やしてくれた気がします。
さらに現場では、自分一人の知識だけで物事を解決できることは少なく、それぞれが個々の専門性や知識、考えを出し合ってチームで解決策を見出していきます。また、長期化し複雑化する世界の諸課題に対し、これまでとは違うアプローチを見出すには、イノベイティブ(革新的)またはクリエイティブ(創造性に富んだ)な発想が求められるもの。そのために求められるのは、別の分野や分野の枠を越えて共通する課題を検証したり、相手の意見に耳を傾け理解しようとする姿勢です。私がSILSで受けたリベラルアーツ教育は、国際機関に限らずどの分野の仕事にも求められる、そうした多角的な視点や互いの意見を尊重しあう姿勢の素地となっているはずです。
- コミュニティでの聞き取り調査 / Interview in the local community
- エチオピアの子どもたちと / With children in Ethiopia
― 受験生や在学生に向けてメッセージをお願いします!
高校生や大学生でこれからの進路に迷われている方がいたら、自分がこの先学びたいこと、これから仕事としていきたいことを焦って決めつけ、それを一生の選択にしなくてもよいと思います。実際、私は大学卒業後、NGOや大使館での勤務を経て大学院に入学し、子どもの人権を学びました。学部で広く学ぶ中で興味関心のある分野をみつけたり、一度社会に出て働く中で感じた課題をもとに、修士課程や博士課程で「本当にやりたいこと」を追究しても決して遅くはないと思います。
本当に大切なのは、それまでの学歴や職歴から次に進みたい進路までを、一貫したストーリーとして紡ぎだし、他人にはない自分の個性や強みとしてどのように仕事に生かせるかをアピールする力です。一見関連のない学歴や職歴に思えても、多角的な視点でその仕事に必要な知識や経験をよく分析してみると、必ず何かしらの共通点があるはず。そう思うと、この先の進路やキャリアで周囲の人とは違う道を選択する時がやってきたとしても、少し不安が和らぎませんか?その時の自分が一番よいと思う選択をすれば、それが正解なのだと思います。私自身、日々一喜一憂して人生やキャリアに迷いながら、今日もエチオピアの地で奮闘しています。
新たなSILS卒業生のみなさんと、世界のどこかでお会いできる日を楽しみにしています!
※掲載情報は、取材時点のものになります。