過去の遺産に頼らず、常にアップデートする 株式会社ロフトワーク代表取締役 林千晶さん

第二世紀へのメッセージ 株式会社ロフトワーク代表取締役 林千晶さん

過去の遺産に頼らず、常にアップデートする

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2000年、デザインとITの力で新しいビジネスの創出を支援するデザインコンサルティングを手掛ける株式会社ロフトワークを起業し、年間530件を超えるプロジェクトを手掛ける林千晶さん。学生時代の思い出やその後の軌跡、また、早稲田大学に期待することをお聞きしました。

ゼミで学んだマーケティングが仕事の原点に

──早稲田大学ではどのような学生時代を過ごされましたか。

商学部でしたが、正直なところ印象に残っている講義は、フランス語と哲学と簿記のみ。最も打ち込んだのは、恩藏直人先生のマーケティングのゼミです。当時のヒット商品、例えばリンスインシャンプーのように一つのカテゴリーを越える商品が開発された背景や午後の紅茶がなぜヒットしたのかなど、購買行動に結びつく「人をわくわくさせるもの」「“欲しい”の裏側」を知ることがとにかく面白くて、広義の意味でのマーケティングに夢中になりました。図らずも、現在の仕事の原点になっていると思います。

──学生時代にキャリアについて考えていたことはありましたか。

“何にでもなれる、何にでもチャレンジする、白いパレットだと思ってください”

ありのままの自分を採用してくれる会社で働こうと決めていました。というのも、私が就職活動を迎えた年、突然就職氷河期になり、企業が一気に採用人数を絞ったんです。あちこちで、特別じゃない人間はいりません、とばかりに「あなたは何ができるの?」と言われているようで、それまで普通に生きてきて特別何かができたわけでもなかった私はすごく戸惑いました。面接のマニュアルには、履歴書に書く趣味を「読書」とするのはありふれているからNGだと書いてありましたが、実際の私は読書が好きだし、特技もこれといった資格もなかった。嘘はつきたくなかったので、面接ではそんな自分を「何にでもなれる、何にでもチャレンジする、白いパレットだと思ってください」と自己アピールしたことを覚えています。ですから、私のような特別でない人間でも、働くということにきちんと向き合ったら、うまくいくことがありました、というストーリーを若い人たちにこの取材を通して伝えてほしくて。「“特別”じゃなくたって、心配することないよ」って。

人生の正解は一つじゃない

──卒業後、花王に就職され、留学を経て、共同通信の記者、ロフトワークの起業と転身されてきましたが、その理由をお聞かせください。

花王では、化粧品のマーケティングをしていたのですが、女性がきれいになるためには、化粧品だけでは解決できないこともあって、本質的な女性のニーズに応えることの難しさに直面しました。また、日本の多くの女性が働き方に悩みを抱えていることも感じていました。そこで、女性に向けて新しい働き方を発信する仕事に就きたいと考え、自分で貯めたお金で米国の大学院に留学して、ジャーナリズムを学びました。卒業後は共同通信の経済記者のアシスタントとして1年働き、その後、友人とともにロフトワークを立ち上げました。その間、第一志望だった大学院を諦めたり、希望していた媒体の採用試験に落ちたりとうまくいかないこともありましたが、今振り返ってみると、「絶対にこうでなきゃいけない」とか、ひとつしか正解がないわけじゃないんです。

“どこに行きたいかを決め切らずにプロジェクトを進めていくのですが、そのほうが予想もしない、本質的な価値に出会うことができます”

「どうしても手に入れたい」と思いながら頑張ることも、手に入らなくてもまた別の道で頑張ることも、大切。与えられた道で頑張っていれば、そこからまた、その人らしい面白い人生が始まっていく、と。

クマがうれしくなって踊る森をつくりたい

──ロフトワークは、何をする会社ですか。

ロフトワークは、デザインとITの力で新しいビジネスを作ることを支援するデザインコンサルティング企業ですが、私たちのコンサルティングの特徴は、「答えを知らずに旅に出ること」。どこに行きたいかを決め切らずにプロジェクトを進めていくのですが、そのほうが予想もしない、本質的な価値に出会うことができます。もちろん、私たちには人が何を求めているかを把握するリサーチのノウハウやアイデアを最大限活かして統合させるファシリテーションのノウハウがあり、クライアントをゴールに導くことができます。

──さまざまなプロジェクトを手掛けていらっしゃいますが、今最も興味を持って取り組んでいらっしゃることは何ですか。

今、森に興味があります。昨年、飛騨に「飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)」という会社を設立しました。私自身、実際に森に入り、その恵みを享受した経験を通じて、森が持つ大きな力や日本の林業が抱える課題などを知り、テクノロジーによって木と森と人の良い関係をつくることに挑戦しようと考えたからです。森は飛騨市から提供を受け、地元の家具メーカーや木工職人と連携して、商品開発や材料提供などを行っています。例えば、飛騨の伝統産業である組木の作業工程を3Dプリンタなどのデジタルファブリケーションを活用することで効率化したり、オンラインで木材が購入できるようにしたりしています。

──早稲田大学に期待することをお聞かせください。

過去の遺産を食いつぶすのではなく、アップデートが必要だと思います。昔からの早稲田大学らしさは上位概念として残しつつも、時代に合わせて、変えるべきことを変えていってはいかがでしょうか。そうしなければ、わくわくするようなことは生まれないと思います。

早稲田大学の卒業生の強さは、大学のブランドに頼らずに生きていて、“何にでもなれる”柔軟性があることです。そのニュートラルさを生かして世界とつながり、良きハブとして、どんどんメッセージを発信していってほしいと思います。

プロフィール

1971年生、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科修了。

1994年に花王に入社。マーケティング部門に所属し、日用品・化粧品の商品開発、広告プロモーション、販売計画まで幅広く担当。1997年に退社し米国ボストン大学大学院に留学。大学院修了後は共同通信NY支局に勤務、経済担当として米国IT企業や起業家とのネットワークを構築。2000年に帰国し、ロフトワークを起業。MITメディアラボ 所長補佐、グッドデザイン審査委員、経済産業省 産業構造審議会製造産業分科会委員も務める。

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