研究室を訪ねて 法学学術院ゲイ・ローリー教授 翻訳とは別世界への「窓」です

「研究室を訪ねて」 第9回目の今回は、法学学術院ゲイ・ローリー教授の研究室にお伺いしました。

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──先生は研究室で普段どんなことをされていますか。

資料を保管したり授業の準備をしたりしていますが、ここで研究は行っていません。たまに本を調べたりしますが、作業は家で行います。家が騒がしいので研究室で作業される先生も多いようですが、私の家は夫と猫しかいないので静かです。今の仕事が好きな一つの理由は、6時に起きてパジャマを着たままでコーヒーを飲みながら働くことができることです。大学の教授としてこういう自由さが一つのメリットです。

──源氏物語の英訳を使いながら日本人学生向けに指導されている「Intensive English」の授業について聞かせていただけませんか。

そうですね。「Intensive English」は学生に一つのテーマについて知識を深める機会を与えることを目標としています。二年生以降の授業はほとんど英語で行われています。ゆっくりと読みながら一文ずつ和訳する「購読」はもう過去の話です。法学部の英語の授業ではどんな内容でも、ピックアップしたテーマを英語で勉強することを狙いとしています。

──日本人学生にとって、日本文学を英語で読むことは重要だと思いますか。

もちろん。村上春樹を除いて、源氏物語は世界的に最も知られている日本の文化遺産です。日本について知らない海外の人たちと面白く話すためにも、日本人として自国のことを知るべきです。当然源氏物語についても知るべきです。源氏物語の名は有名ですが、実際に最初から最後まで読んだことがある学生は少ないです。

源氏物語に関する書籍がたくさん並んだ本棚

源氏物語に関する書籍がたくさん並んだ本棚

──日本文学を英語で読む場合と日本語で読む場合の違いは何でしょうか。

はい。英文は主語を必要とするため、古文より具体的に書かなければなりません。翻訳者にもよりますが、たまにおかしい表現が現れます。たとえば、源氏物語では髭黒という登場人物は正妻と結婚しながら玉鬘という他の妻と結婚します。それを聞いた正妻の父が怒って娘を取り戻す。平安時代においては「離婚」という言葉および手続きはありませんが、サイデンステッカーの英訳を読むと突然「離婚の後」という言葉が出てきます。翻訳者として永遠の問題は、(特に現代から遠い源氏物語のような作品を翻訳する場合)現代の読者も内容を理解できるよう、どれほど内容を調整すべきかということです。

──先生のご視点からの翻訳の意義は何でしょうか。

もし翻訳がなかったら今の私はありません。古文を読めるようになる前に(今日本語で読んでいる)作品は英語で読みました。一流翻訳者のロイヤル・タイラーでさえ、源氏物語を読めなかったから翻訳し始めたといいます。文学の専門家の中でも原本をスムーズに読める人は少ないと思います。全部の読みたい言語を習うことは出来ません。翻訳とは自分が届かない別世界への「窓」です。

先生が祖母から受け継いだというティーカップ

先生が祖母から受け継いだというティーカップ

──先生は日本文学における女性作家を研究していらっしゃいますね。このテーマについて聞かせていただけませんか。

一つの研究テーマは1000年前から今にかけて女性はどういう風に源氏物語を読んできたかということです。私は与謝野晶子から読み始めましたが、年々に過去に遡っています。現在正親町町子(五代将軍徳川綱吉の寵愛を受けた側用人の柳沢吉保の側室)の『松陰日記』を翻訳しています。『松陰日記』は柳沢吉保の伝記のようなもので、吉保が光源氏のように描かれています。それは日本の女性が常に源氏物語から刺激を受けていることの一つの例です。日本の女性は常に源氏の影響を受けており、私は少し羨ましく思います。江戸時代にも女性作家がいましたが、名前はなかなか浮かんでこないですね。女性の作品はどうにか流布していましたが、通常は出版されていなかったようです。

──日本文学を研究しようとしたきかっけは何だったのでしょうか。

1978年に高校の交換留学生として初めて来日しました。次の年にオーストラリアに帰って日本語の勉強を続けようと決心しました。複数の「日本文学を英語で読む」授業を受けて与謝野晶子について卒業論文を書くことに決めました。晶子の『みだれ髪』の歌をどうにか理解しようとしているうちに、どこかでこんな歌を読んだことがある、といった気がしてならなくなりました。もしかしたら、大学三年の時に習い始めた古文の授業で読んだ、小野小町や和泉式部の歌に晶子の『みだれ髪』の歌は似ているのではないだろうかと思い、晶子の「現代性」ではなく本人に影響を与えた過去の文学について研究することにしました。晶子は二つの現代語訳をとおして源氏物語を最初から最後まで読むことが出来る「小説」に仕上げたと言えます。

実際に資料を見せていただきました

実際に資料を見せていただきました

──最後に一言お願いします。

学生には、日本について日本のことを知らない人たちと話せるように日本のことをよく知っておいてほしいです。詳しいことを簡潔に説明するのは意外と難しいです。しかし、海外などで外国人と話す際に日本について説明できるのは重要なことだと思います。

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