2015年度 大学院入学式 総長式辞

2015年度 大学院入学式 式辞

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

早稲田大学を代表いたしまして、新入生の皆様およびご家族・ご関係の皆様に、心よりお祝いを申し上げます。

このたび晴れて早稲田大学大学院に入学されたのは、修士課程2,022名、専門職学位課程539名、博士後期課程307名、合計2,868名に上ります。このうち、修士課程371名、専門職学位課程27名、博士後期課程65名、合計463名(16%)の方が外国からの留学生です。

このほか、昨年9月には、修士課程378名、専門職学位課程78名、博士後期課程87名、合計543名(うち留学生464名=85.5%)の院生が入学していることを申し添えます。

国内はもとより、世界のさまざまな地域から選りすぐられた、研究心に燃える精鋭を数多くお迎えできたことは、本学にとっても大きな喜びであり、また、大いに誇りとするところでもあります。

現代社会は、政治・経済・文化などのあらゆる領域で、新しい知識・情報・技術が飛躍的に重要性を増しており、日々新たな知見を身につけ技能を向上させ続けることが必要になっています。そのため、個人の人格形成の上でも、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上においても、高等教育や職業教育に要する期間の長期化や、繰り返し学び直す機会の確保が強く求められるようになっています。

にもかかわらず、わが国は、人口10万人あたりの修士号取得者は英国の5分の1、博士号取得者でも半分以下であり、特に企業の研究者に占める博士号取得者の割合では、オーストリアやベルギーの4分の1に止まり、台湾やトルコの後塵を排していますし、社会人がより高度な専門的能力を涵養するための学び直しの機会も限られています。

こうした事情を背景として、国は、専門職大学院制度を創設するとともに、大学院教育の充実に向けて「グローバルCOEプログラム」、「組織的な大学院教育改革推進プログラム」、「博士課程教育リーディングプログラム」、「卓越した大学院拠点形成支援補助金」、「スーパーグローバル大学創成支援」などの施策を講じてきました。

本学においても、これらのプログラムも活用して、大学院教育の拡充を図って参りましたが、2012年11月に策定した新たな中長期計画 “Waseda Vision 150”において、本学が創立150周年を迎える2032年までに、大学院生を2012年の約1万人から1万5千人に増やすという数値目標を掲げています。また、本学職員の採用にあたっても、修士以上の学位取得者の数は着実に増やしてきています。

しかし、残念ながら、本年度の大学院入学者数は、昨年度を下回っています。

民間企業への就職状況が好転していることや専門職大学院の定員削減などが影響しているものと思いますが、社会全体の動向としては、皆さんに対する期待はますます高まっていると言って、過言ではないと思います。

本学では、皆さんの大学院における研究・学修を実効性のあるものとするため、研究体制の整備に努めているところです。先日公表された過去5年間の分野別科学研究費新規採択状況では10分野で採択数日本一となり、私立大学では1位、国公立大学を含む研究機関全体でも7位になっていますし、研究論文数も飛躍的に増加しつつあります。2013年度には「研究大学強化促進事業」の支援対象に選定されたのを承けて「研究力強化本部」を設置し、研究戦略センター、研究推進部、全学研究会議等との密接な連携の下、さらに積極的に研究力の強化を図っていますので、是非ともこれらを活用して大きな成果をあげてください。

皆さんがこれから研究を続けていく上で失敗をすることも少なくないだろうと思いますが、本学の創立者・大隈重信は、次のように述べています。

「元来失敗は世の常である、失敗したからとて、悲観する必要も無ければ、煩悶するにも及ばぬ、斯の如きは愚の極である、ナゼ此失敗を恢復するといふ、新らしき第二の希望を起さないのか、此難関を切り抜ける気力がなくてはならぬ、而して此間に処して更らに経験を得て行くとすれば、失敗も見方に依ては、甚だ有益、且つ興味のあるものである、我輩は如何なる困難、如何なる障碍に出逢つても、決して悲観しない、事が困難になり、物が複雑になればなる程、益々大なる勇気と、大なる興味を以て、常に其解決を試みて居る、我輩は自ら是れを名けて快楽主義と云つて居る、失敗も、成功も、何事も常に此快楽的の眼を以て研究して居るから、未だ曾て苦悶したり、愚痴をこぼした事が無い、何時も愉快で、何日も元気である。」と。

新入生の皆さんも、大隈流の「快楽主義」=楽観主義に従って、それぞれの所期の目的を達するために、不断の前進をして下さることを強く期待しています。

とはいえ、研究にあたっては、国際的規範や関係諸法令、学内諸規定とその精神を遵守するとともに、高い倫理観と社会的良識に従って、公正な研究活動を展開することが必要不可欠です。

本学では、2007年に、研究者に係る倫理的な姿勢と行動の規範を謳った「学術研究倫理憲章」を定め、その精神に則り、「学術研究倫理に係るガイドライン」および「研究活動に係る不正防止および不正行為への対応に関する規程」を制定し、これらに基づいて、「学術研究倫理委員会」を設置するとともに、研究者や学生を対象とした研究倫理の研修、教育を実施しています。

にもかかわらず、本学において、近年、博士学位論文に関する研究不正問題が生じ、社会的にも大きな問題となったことを受け、これまでに提出された博士学位論文について自主調査を進め、不適切な論文に対する対応方針を定めるとともに、こうした事態の再発を防止するために、昨年10月に、研究倫理教育のあり方、質の高い研究者を育成する研究指導体制のあり方、厳格な審査体制のあり方等をまとめた「課程博士における博士学位および博士学位論文の質向上のためのガイドライン」も策定いたしました。その精神は、修士学位や専門職学位についても共通のものであります。

このガイドラインに基づいて、各研究科において、それぞれの研究科における研究実態を踏まえた研究指導体制・審査体制を整備し、研究倫理教育の一層の充実を図っているところです。

早稲田大学の建学の精神を謳った「早稲田大学教旨」は、自由で独創的な研究を通じて世界の学問に裨益すること(学問の独立)、学理を学理として究めるとともに、その応用の道を講ずることで社会の発展に貢献すること(学問の活用)、そして、学問の成果を私利私欲や一党一派の利益のために用いるのではなく、学問研究の恩恵を社会全体に及ぼし、広く世界で活躍する人格を養成すること(模範国民の造就)としています。

そして、本学創立者・大隈重信は、この利他的な人格の涵養こそが本学の教育の根本をなすべきであると強調しており、これを具現化した早稲田人の1人として、第二次世界大戦中に、本国からの命令に背いて、「命のビザ」を発給し続け、ナチス・ドイツの迫害から逃れてきたユダヤ人難民6千名以上の命を救った杉原千畝さんが良く知られています。

本学では、杉原さんの没後25年にあたる2011年に、杉原さんが学んだ教育学部が使用している14号館の前に顕彰碑を設置しました。そこには「外交官としてではなく人間として当然の正しい決断をした」という杉原さんの言葉が刻まれています。

昨日の学部入学式において、この「命のビザ」によってホロコーストの危機を脱して日本にたどり着き、後に米国に渡って金融先物商品や電子取引システムの世界を創設して「金融先物市場の父」と称されるに至ったレオ・メラメド シカゴ・マーカンタイル取引所グループ名誉会長から、その体験を踏まえた感動的なお話をいただきました。

第二次世界大戦の終戦後70年にあたる本年にこのような貴重な機会を持てたことは、本学にとっても大変喜ばしいことであったと思います。

この場にいる新入生の皆さんは、最高学府中の最高学府で学ぶものとしての自覚をもって、高い倫理観と社会良識に従って、自由で独創的な研究を進めるとともに、研究者や実務家として独り立ちして社会の第一線で活躍されるようになってからも、人々の先頭に立って、学問・研究の成果を世のため人のために活かす、そうした人格にますます磨きをかけるよう、不断に精進してください。

皆さんのこれからの大学院生活が実り多きものとなることを心から願って、お祝いの挨拶とさせていただきます。

皆さん、ご入学おめでとうございます。

早稲田大学 総長 鎌田 薫

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる