祝辞 澤田 宏太郎 様
株式会社ZOZO代表取締役社長兼CEO
株式会社ZOZO NEXT代表取締役CEO
皆様、早稲田大学への入学、おめでとうございます。
このような伝統あるキャンパスで、新たな学友や将来恩師になるかもしれないに方に囲まれ、新しい人生の節目を迎えること、さぞかし心踊らせていることかと思います。
かく言う私も、久しぶりに大学の雰囲気に触れ、このような場所で皆様とお会いでき、大変嬉しく思っております。
そして、もう1つ皆様におめでとうを申し上げます。
それは、理系人材としてのスタート地点に立てたと言う点です。
ビジネスの最前線にいる立場ですので、よくわかりますが、今後ますます理系人材の活躍が必要になることは間違いありません。
なぜかと言うと、皆さん、ビジネスをやる上で、最も重要なスキルとは何だと思いますか?
それは先を読むということです。当たり前です。未来が分かれば、絶対にビジネスはうまくいきます。その先を読むという力には、様々な情報をインプットし、そこからある法則性を見出すこととイコールです。その能力というのは、まさに理系脳です。
にも関わらず、私は理系出身の経営者ということで、珍しがられることが多いです。それが不思議でしょうがない。
さらに経営者でなくとも、これからの世の中を発展させていく意味では、技術者という人材がより重要であることも間違いありません。
私どもが運営しているZOZOTOWNというサービスは、今や技術の塊です。
皆さんが目にするアプリの画面の裏では、とても複雑なAIのロジックが走っていますし、一方で物流倉庫では、新たなロボティクス技術が次々に導入されています。
このように理系スキルが様々な場面で必要になってきているのが、今の社会環境です。
皆様には、この社会に飛び込んで頂くための準備期間として、僭越ながら早稲田大学の先輩として、大学生活におけるいくつかアドバイスをさせていただければと思います。
まず申し上げたいことは、「学問をコスパで考えない方がよい」ということです。
私が社会に出て30年弱して感じることは、学問というのは、意外と忘れた頃に役にたつということです。
いまだに、”あっこれ学生の時にやった、何となくわかる。” ということが度々あります。
一つ体験した例をあげます。
ZOZOTOWNは平均的に洋服を2点お買い上げされる方が多いです。
一方で、倉庫のキャパシティの関係上、倉庫は複数箇所に分かれています。
お買い上げになった2点のモノが、偶然同じ倉庫に存在していた場合、お客様に届けるまでの手間が最小限で済みます。
手間が最小限ということは、費用がかからないということです。企業としてはこの状況が理想なのです。
ですので、「同時に買われそうなもの想定して極力同じ倉庫に予め置いておく」ということが必要になります。
ここで必要とされるのがオペレーションズリサーチや確率統計の数式なのです。
私はオペレーションズリサーチをそこまで深く理解しないまま卒業をしておりますが、触れたことのある理論なだけに、直面したこの課題が簡単なのか難しいのかぐらいはわかり、すぐに仕事上の判断ができるのです。
学生時代に学んだ知識が何十年か後に、こんな形で偶然活きてくるわけです。
一方で昨今の学問への取り組み方については、すぐ成果を得られるコスパ重視の傾向のように思えます。
「すぐ将来役に立つこと」、「自分のやりたいこと、向いていること」というところにフォーカスされがちで、それに学生さんはせかされているのを感じます。
そのような領域が見つかった人は、それに没頭すればよいですが、そうでない人の方が大半だと思います。
大学というのはせっかく時間があるのです。目の前のコスパやタイパにとらわれずに、将来役に立つかは分からないけど、苦手な分野かもしれないけど、とりあえずかじっとくか、そんな気持ちで取り組むことをお勧めします。
幅広い学問に触れる機会と、許される時間の多さが大学生活における最大の特徴です。それを最大限に活かしてください。
そうすれば、長い人生において、やっといてよかったと思えることが、何度となく現れます。
もう一つアドバイスとして申し上げますと、「情理力を磨く」ということです。
情理力とは聞きなれない言葉だと思います。感情の情と、理解の理です。
これは人の感情を理解する能力です。相対する言葉としては「合理力」です。合理的に考える、ロジカルに考えるという能力のことです。
とかくビジネスにおいては、この合理力の方が必要とされるように思われがちですが、実はそれと同程度、情理力が必要です。
いわゆる空気を読む能力ということですね。「空気を読む」というと、言いたいことは言わずにその場を無難に過ごすという解釈に思われがちですが、私が言いたいのはそうではなくて、その人の感情や置かれた立場を察知・理解した上で、行動変容を促す ことを情理力と言っています。
情理力がなぜ必要か。
社会に出て、物事を進めるにあたっては必ず、人が介在します。そしてその人と気が合うとは限りません。
つまり、そのような人を巻き込みながらも、物事を進めて行く必要が、社会では必要になります。
そのときに合理的な説明をするというのは第一歩ではありますが、多くの場合、人はロジカルな判断だけでは動きません。
その時には、相手が何を考えているのか、どういう感情なのかを理解し、共感、応援、説得などをすることによって、はじめて行動を促すことができます。
皆さんはSNSでとても多くの人と繋がっていると思います。
そして、日常的に文章やスタンプで感情を表現したり、受け取ったりしているかと思います。
しかし、本音を言っていたり、隠したりと色々使い分けしてます。そして相手の本音が分からず、返すのに苦労することも多いはずです。
そう、SNS上で「情理力」を磨くのは、限界があります。
やはり、実際の対面で話すときの情報量の方が圧倒的に多いのです。
仕草、声のトーン、表情など、そのような多面的な情報によって、この人がどういう感情かを読み取ることができるのです。
ですので、ぜひ大学生活において、色々な人と出会ってみて話をしてみてください。
さきほどの学問の話と一緒で、交友関係もコスパの考えを一旦忘れることをお勧めします。
ちょっと苦手かもなぁという人を避けずに、繋がってみてください。SNS上だけでなく。
それが、あなたの社会で生きていく糧になります。
以上、社会に出ている先輩として、いくつかアドバイスをさせて頂きました。
まとめると、学問や交友関係にコスパの概念は捨ててしまってください、長い目で見るとその方が得になります、ということです。
雑多な知識や人を巻き込んで、社会に貢献していく、これはまさしく在野精神ということにもつながると思います。
皆さまが将来それを体現していくことを切に期待しています。
改めまして、本日は、入学おめでとうございました。
以上をもって、私からのお祝いの言葉とさせていただきます。