【特別取材】輝く校友~絵本で結ばれた日中の文化的なつながり~

唐亜明さん近影

唐亜明さんプロフィール

1983年に福音館書店の松居直社長(当時)に招かれ、児童書出版社の代表格である福音館書店に初の外国籍編集者として入社。翌年、憧れの早稲田大学に入学し、仕事の傍ら勉学に励む。1988年早稲田大学第二文学部卒業後、絵本の編集、翻訳、創作活動に没頭し、数多くのヒット作を世に送り出している。その後、福音館書店の編集長に就任し、日本での創作活動のほか、中国における絵本の普及活動にも精力的に取り組む。現在は活字文化出版社『小活字』編集長を務め、中国語の絵本の創作、日本への逆輸入等の活動を展開し、良質の絵本が多く上梓されている。

苦難の青少年時代から予期せぬ日本への旅

福音館書店の編集長を務めた唐亜明さん。日本の出版業界で日本語が母語でない初めての編集者、初めての外国籍編集長、初めての中国人絵本作家、数々の初で彩られた人生ドラマがあった。中国のインテリ家庭で生まれ育った唐さんは幼少期から好きだった音楽に感化され、高い教養力を身につけた。

唐亜明さん(右一)とお父さん

しかし、青少年期に家庭事情の激変により、中ソ国境地帯で重労働させられた苦難の過去を持つ。果敢に困難に立ち向かう強靭な精神力をもって苦境を脱し、日中国交正常化の激動期に中国音楽家協会で翻訳の仕事を得た。当時日本で流行した曲を次々に中国に紹介し、唐さんが翻訳した歌詞でリメイクした歌は中国の大歌手によって歌われ、空前の日本ブームを引き起こし、一世を風靡した。

日中両国の歌手と一緒に歌を収録する唐亜明さん(左二)

順風満帆の人生を歩み始め、天職を手に入れた唐さんに新たな転機が訪れた。日本から派遣された日本児童読み物代表団の団員の一人として訪中した福音館書店の松居直社長との出会いであった。唐さんの深い教養および優れた文化的なセンスを見抜き、その将来性に大きな可能性を感じた松居さんは突如福音館書店への就職を唐さんに打診した。当初半信半疑だった唐さんはそのチャレンジ精神に駆られて、日本に行くことを決意し、1983年に晴れて来日し、福音館書店の正社員としての再スタートを切った。

憧れの早稲田大学に進学、学び取ったもの

来日した頃の唐亜明さん

福音館書店で目にしたすべてのものはとても新鮮であった。良質な紙で綺麗に製本され、美しい挿絵いっぱいの図書をみて、日本の子供たちがこんな素晴らしい本を読んでいるんだと素直に驚いたと述懐する。中国の大学で勉強する機会に恵まれなかった唐さんは中国で最も有名な日本の大学として広く知られる早稲田大学を目指すことになり、当時夜間コースがある早稲田大学第二文学部に唯一の外国人学生として入学する。早稲田大学での4年間を振り返って、自由闊達な校風にユーモアのセンスがある教員に親近感を覚え、生真面目で一方的な講義を展開する中国の教育スタイルとの大きな違いに戸惑いながらも、ロシア語やロシア文学を中心にがむしゃらに勉学に励んだ。早稲田で感じた人間同士のつながりと温かみは人生の宝物になったという。

独創的な発想でヒット作を生み出し、日中の文化交流の担い手へ

自分を育んだ文化的なバックグランドを最大限に利用し、日本にはない独特な発想で絵本の編集に明け暮れた。『富士山のうたごよみ』に代表されるような数々のヒット作を編集した。日本の神聖の地として崇められている富士山、その美しい四季の移り変わりに着目し、中国の二十四節気をテーマに作られた名作で、唐さんならではの発想力の結晶であった。複数の文化的な要素を組み合わせることで新たな絵本を創作し、多忙を極めながらも、松居さんと数十回中国にわたり、中国での絵本の普及に奔走した。しかし、最初文字数が少なく、高価な絵本の真価は実用性や即時性を求めたがる中国の人たちに認めてもらえなかった。その後、中国は目覚ましい経済発展を遂げ、児童書や絵本の市場が大きくなるのを好機に、唐さんは中国での絵本普及活動を再開し、日本の数々の名作を中国語に翻訳し、中国の子供たちに届けた。現在、日中の作者たちと協力して中国オリジナルの絵本製作に精を出している。直近の新作『麒麟の航海』は中国で大ヒット中という。

唐亜明さん(右)と『麒麟の航海』の作家小林豊さん

必ずしも綿密に計画された人生ではないが、置かれた場所で花を咲かせてきた唐さんから早稲田の後輩たちに贈る言葉を頂いた。「自分を愛し、他人を愛するようにしよう」、「金銭や地位を目標にするのではなく、目の前の仕事に励め」。どちらも胸に刺さる重みのある言葉である。若い時の苦労、松居さんへの感謝の気持ち、中国人としてのプライドはすべての原動力だそうだ。

松居さんという伯楽に出会って、自らの努力で周りに認められた千里の馬、唐亜明さん。

いまでも恩人松居さんの言葉「お金を追いかけるのではない。いい仕事をすれば、金銭も地位も自ずと転がってくるのだ」を忘れないという。

唐亜明さん(右一)と福音館書店の松居直社長(当時)と御夫人

唐亜明さんがおすすめする図書リスト

『さくらの気持ち パンダの苦悩』
著者:唐亜明
出版社:岩波書店

『鹿よ、おれの兄弟よ』
著者:神沢利子, G・D・パヴリーシン
編集:唐亜明
出版社:株式会社 福音館書店

『富士山うたごよみ』
著者: 俵万智, U.G.サトー
編集:唐亜明
出版社:株式会社 福音館書店

『100万回生きたねこ』
著者:佐野 洋子
中国語版翻訳:唐亜明
出版社:講談社

『子どものマナー図鑑』
著者: 峯村良子
中国語版翻訳:唐亜明ほか
出版社: 偕成社

『はじめまして!10歳からの経済学』
著者:泉美智子
中国語版翻訳:唐亜明
出版社:ゆまに書房

 

取材日:2022年7月19日
取材者:早稲田大学国際部
写真出典:唐亜明さんより御提供

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