事実を読み取る力と情報との接し方

弁護士によるインターネットリテラシー講習会を開催

2022年 3月19日および4月9日、早稲田大学高等学院にて、新入生を対象としたオリエンテーション「インターネットリテラシー講習会」を開催しました。

現在、多くの大学、高等学校、中学校などでは、SNSを通じた不適切投稿や重大事件への発展が深刻な問題となっています。こうした中で自身の心身やキャリアを守るためには、高度なインターネットリテラシーが必要です。そうした背景から、第二東京弁護士会の協力のもと、今回の「インターネットリテラシー講習会」が企画されました。

第1回目の3月19日には、1時間にわたり全体講習会を開催しました。
続く4月9日の第2回目の講習会では、12名の弁護士が講師を担当。高等学院新入生約480名を対象に、講義、ケーススタディー、グループディスカッションの形式で行われました。本記事では高等学院新入生向け講習会の内容を、参加した生徒および弁護士へのインタビューと共にお届けします。

クラスごとに分かれ開催された講習会

一つの事実でも、情報は評価によって大きく変わる

今回の講習会のテーマは「事実を読み取る力、情報の接し方」。始業式の終了後、クラス別に2名ずつの講師により、約1時間行われました。冒頭では、第1回(3月19日)の講習会の内容を改めて整理。担当講師の一人・阿南賢人弁護士は、「表現の自由は重要であるとともに、無制限ではないことも忘れてはならない」と解説を始めます。

「インターネットの登場により、誰もが容易に情報を受け取り、発信できるようになったことで、表現の自由のあり方も変化しつつあります。情報発信時のルールとして、『自分が危険になるようなことはしない』『関係する人にも権利がある』ことを、常に留意しなければなりません」

その後、架空の新聞記事をもとにしたケーススタディが行われました。まず、“国王側近の辞任”というニュースについて、立場の異なる2つの新聞社の記事を比較します。A社は「勇退」「陰ながら国王を支えた」など、側近が忠実であるような文章である一方、B社は「失脚」「国王からの信頼を盾に現在の地位に登りつめた」といった身勝手な人物であるような表現が目立ちます。しかし両記事とも事実に関する部分に誤りはなく、一部の表現に違いがあるのみです。その後、生徒たちに両社の新聞から受けた印象をヒアリングしたところ、結果は大きく異なりました。

このケーススタディから得られる知見は、書き手の主観により、情報の受け取られ方が変化するということ。「ある人がある事実を見るとき、無意識のうちに『評価』(感想・判断)が生じること」が示されています。ケーススタディでは結びとして、「『評価』に惑わされず、『事実』を見抜く力を磨くべき」というメッセージが、講師より共有されました。

情報に隠された発信者の意図を、的確に見極めることが重要

後半では、生徒が5名程度のグループに分かれ、実際に新聞記事を作成する課題に取り組みました。架空の暴行事件から、2パターンの編集方針に沿って原稿をまとめていくもので、手元には事件の基本情報と7人からの取材情報が用意されます。

編集方針のパターンAは、読者に対するインパクトを優先するもの。パターンBは、容疑者が犯人でなかった場合のことを考慮し、読者に誤解を抱かせないことを主旨としています。事実と異なることは書かないというルールが課された上で、見出しや構成は自由です。

グループワークの様子

記事作成後、各グループが内容を発表しました。パターンAに振り分けられたグループは、「取材先のコメントの順番を工夫し、異なる意見を取り入れることで、より強い印象が生まれるようにした」「方針に合わない立場の意見は排除した」「とにかく容疑者を犯人に仕立て上げた」といった点を工夫。一方のパターンBに振り分けられたグループは、「取材先が虚偽のコメントをしている可能性を配慮した」「容疑者を擁護するあまり、被害者の印象が悪化しないようにした」など、それぞれ注意するポイントが異なる結果となりました。

グループワーク終了後、阿南弁護士は「受け手の印象を考えながら情報の取捨をすると、あらゆる情報には発信者の意図が込められることがわかると思います」とコメント。事実に隠された意図を読み解くことはもちろん、一度発信された情報はコントロールできないことが強調されました。

「コロナ禍で色々な情報が出回ったように、誰もがコストをかけることなく発信されるインターネットでは、新聞よりも細心の注意が必要となるでしょう。特にSNSでは、情報が拡散されるリスクもあります。自身が冗談のつもりで発信したことも、それを事実と受け止める人がいることを忘れないでください。他者の名誉を傷つけるだけでなく、自身が批判を浴び、その内容が半永久的に残るなど、さまざまなところに影響が及ぶ可能性があります。ぜひ今回の講習会で得た視点を考慮しながら、SNSやスマートフォンと向き合うようにしましょう」(阿南氏)

講習会終了後、一部の生徒に感想を述べ合ってもらいました。参加者の多くは、中学生よりスマートフォンを所持、高校生よりSNSの使用を開始しています。講習会に参加したことで、「どのように情報が受け取られるかを、投稿する前に見極めなければならない」「情報を受け取る際は、何が事実で、どこからが評価なのかを、区別する視点が必要」といった気づきが得られたようです。またグループワークについては、「完全に中立な立場で事実だけを述べるのは難しく、どこかで印象操作が生じる可能性があることがわかった」「書く側の立場に身を置くとことで、情報の恐ろしさを体感できた」など、新たな発見が語られました。

講習会に参加した生徒 ※撮影時のみマスクを外しています

既存のリテラシーだけでは、変化するネット社会に対応できない

講習会で使用されたプログラムは、第二東京弁護士会の法教育委員会で作成されたもの。現在、多くの教育機関で活用されていると、阿南氏は説明します。

「プログラムは時代と共に改編を行い、提供先の課題に合わせてカスタマイズもします。それは、インターネットを取り巻く問題が、日々刻々と変化するからです。少し前までは、情報の受け手としてのリテラシーを身に付けていれば、大きな問題には発展しませんでした。しかし現在はSNSの普及により、皆が情報の発信者となった時代。ひと口にリテラシーと言っても、双方の視点を俯瞰することが重要です。今回のプログラムでも、そうしたポイントを基軸にしました」(阿南氏)

本業の傍ら、法教育の普及推進に努める阿南弁護士

講習の対象は高校生でしたが、大学生をはじめとした多くの若者が、同様の心構えをしておくべきだと、阿南氏は続けます。

「高校生と比べ、より多くの人と接するのが大学生。自分の情報発信が、思わぬところで拡散され、ネット空間で炎上し、記録として残りつづけるリスクを孕んでいます。その後の人生をも左右するため、軽率な言動は控えるべきでしょう。

表現というのは概ね、それを嫌がる人が存在するものです。それを全て気にしていると、何も発信できない状況に陥ってしまうのも事実。しかしだからこそ、リテラシーを身につけ、普段から自分自身で適切な判断を下していくことが大切なのではないでしょうか」

今重要になるのは、情報を取り巻く事情が変化する中で、自ら最新の知見を摂取し、リテラシーそのものをアップデートすることだと考えられます。本学でも引き続き、インターネットやSNSとの向き合い方を学生・生徒に伝えていきます。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる