低温で効率よく二酸化炭素を再資源化することに成功
発表のポイント
- 2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を容易に再資源化できる技術が期待されている。
- 新規材料を用い、従来よりも大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させ、再資源化することに成功した。
- 反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さを実現した。
早稲田大学理工学術院の関根 泰(せきね やすし)教授らの研究グループは、コバルトとインジウムという元素を組み合わせた新規材料を用い、従来に比べて大幅に低温で効率よく二酸化炭素を再資源化することに成功しました。
2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を容易に再資源化できる技術が期待されています。しかし、二酸化炭素の再資源化には700度以上という高温な温度条件が必要であり、その条件を満たしていても、反応を効率良く進めることが難しい現状にありました。
今回研究グループは、新規材料を用い、従来よりも大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させることに成功しました。また、その際の反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さ(材料1kgあたり1日に17.7キログラムの二酸化炭素を転換可能)を実現しました。国内外で数多くの研究が行われている中で、本研究成果は二酸化炭素の再資源化の社会実装に向けて進むきっかけになりえます。
本研究成果は、2022年3月17日(木)にイギリス王立化学会の『Chemical Communications』のオンライン版で公開されました。
論文名:Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide
(1)これまでの研究で分かっていたこと
2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素の再資源化は一つの切り札とされています。二酸化炭素を集めること、ならびにそれを反応させて再資源化させることは、いずれも難しい技術です。特に、化学原料として重要な一酸化炭素を二酸化炭素から作るには、従来700度以上の過酷な条件が必要でした。さらにそのような条件であっても、反応を効率良く進めることは難しく、また高温故に材料選定などにもいろいろな制約が存在しました。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究グループは、高温において二酸化炭素から一酸化炭素を作ることが難しいという問題は、従来の手法の延長では解決できないと考えました。そこで新しい手法を用い、独自に開発した材料によって、高性能化・低温化を実現させようと考えました。この結果、多様な材料を体系的に検討し、コバルトをインジウム酸化物に修飾した新規材料が、本手法のために優れた結果を見出すことを発見しました。この材料は、従来の700度以上必要な条件に比べて、大幅に低温な400~500度においても二酸化炭素の80%以上を反応させられるという画期的な性能を示し、その際の反応速度も工業的な要求を十分に満たせるほどの速さ(材料1kgあたり1日に17.7キログラムの二酸化炭素を転換可能)を実現しました。また、その際の反応メカニズムをSPring-8などの最先端の分光により明らかにしました。

ケミカルループによって二酸化炭素が再資源化されるイメージ
(3)そのために新しく開発した手法
本研究グループは、1.ケミカルルーピング※1という反応場を分ける手法を編み出し、2.そのための優れた材料を生み出し、3.なぜその材料が優れているかを最先端分光などで解析し、これらのPDCAサイクルによって高性能化を実現しました。
(4)研究の波及効果や社会的影響
カーボンニュートラル実現に向けて、化石資源利用からの脱却が期待され、二酸化炭素の再資源化による物質や燃料群の合成技術の開発は待ったなしの状況です。国内外で数多くの研究が行われている中で、このように飛躍的に高い性能・低い温度を実現した本技術は、今後、二酸化炭素の再資源化の社会実装に向けて進むきっかけになりえます。

本手法で従来の化学反応の熱力学平衡(実線)を大きく上回る低温・高性能を実現
(5)今後の課題
ケミカルルーピングという反応場を分ける手法は、まだ産業界ではそう馴染みのある手法ではないため、今後これを実際に運用していくにあたっての課題を見出して解決していく必要があると考えられます。具体的には、反応のサイクルを重ねることによる材料の粉化や劣化をどう抑制するか、などを、今回の共同研究先であるENEOS社と共に検討していきます。
(6)研究者のコメント
国内外で数多く研究されている二酸化炭素再資源化ですが、このような高性能・低温化を実現できたことは非常に喜ばしく、早期に社会実装に向けて共同研究先のENEOS社などの企業とタッグを組んで進めて行きたいと考えています。
(7)用語解説
※1 ケミカルルーピング
材料の酸化と還元を独立した条件で行い、これを繰り返すことで従来の反応に比べて低温化が可能で、生成ガスの分離が不要になる手法。
(8)論文情報
雑誌名:Chemical Communications (イギリス王立化学会)
論文名:Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide
執筆者名(所属機関名):牧浦 淳一郎(早稲田大学)・柿原 聡太(早稲田大学)・比護 拓馬(早稲田大学)・伊藤 直樹(ENEOS)・平野 佑一朗(ENEOS)・関根 泰(早稲田大学)
掲載日(現地時間):2022年3月17日
掲載URL:dx.doi.org/10.1039/d2cc00208f
DOI:10.1039/d2cc00208f