高精度な電極触媒活性評価手法を開発

電極触媒の活性を評価する高精度手法を開発

発表のポイント

  • 水の電気分解反応を具体的な対象として、サンプリング時間を短く設定することができる「サンプルドカレントボルタメトリー(SCV)」と呼ばれる方法を開発。
  • 新たな方法は、従来の過渡応答法における過大評価問題を解決し、定常法における所要時間を短縮することができる。
  • 電極触媒の活性をより高精度に評価できるため、電解槽を円滑に実用化することが可能となる。

概要

早稲田大学理工学術院総合研究所センゲニ アナンタラジ次席研究員および理工学術院野田 優(のだ すぐる)教授らは、電極触媒の活性をより高精度に評価するために、一定電位間隔の短時間クロノアンペロメトリー※1に基づく新しい準定常法を開発しました。この新たな手法により、従来の過渡応答法における過大評価の問題と、従来の定常法における所要時間の長さを解決することができ、精度の高いデータを迅速に得ることができます。本手法は、水電解による水素製造や二酸化炭素の電解還元、燃料電池などの電極触媒開発に活用できます。より正確にデータを蓄積することで、これらのデバイスのより正確な設計やエネルギー変換効率の向上を支え、再生可能電力の高効率利用などを通じて次世代エネルギーの確保や低炭素化などの社会課題の解決に繋がることが期待されます。

本研究成果は、米国・電気化学会発行の『Journal of The Electrochemical Society』に、“Worrisome Exaggeration of Activity of Electrocatalysts Destined for Steady-State Water Electrolysis by Polarization Curves from Transient Techniques” として、2022年1月5日(水)にオンラインで公開されました。

上図:Pt電極を用いた1 M水酸化カリウム水溶液の水電解による水素生成反応の各手法による性能比較。時間がかかるが正確な値の得られるCA(クロノアンペロメトリー)と比べ、簡便で一般的に利用されるLSV(リニアスイープボルタンメトリー)は性能が過大評価されるが、本法(SCV)は正確な値が得られる。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

水の電気分解によるH2合成、N2還元によるNH3合成、CO2還元によるCH4合成などの燃料合成反応から、燃料を消費して発電する燃料電池まで、あらゆるエネルギー変換反応には電極触媒が欠かせません。これらの反応に用いられる電極触媒の活性は、従来、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)やサイクリックボルタンメトリー(CV)※2などの過渡応答測定で評価されてきました。これらの技術は、取り扱いが容易で迅速なものの、活性を正確に決定することができません。また、物質移動※3によって律される反応では、電流応答は電位のスキャンレート※4に依存するため、誤差が大きくなります。さらに、実用上はこれらの触媒は定常状態(定電流・定電位)で使用されるため、その活性は過渡応答で決定された値よりもかなり小さくなることがあります。LSVやCVで活性を過大評価する原因には、電気二重層容量、寄生反応、触媒の自己酸化還元反応※5による電流の混入など様々なものがあります。これらの電流は、設定電位や電流を一定に保ち、界面※6が定常状態※7になるのを待つと、一般に観測されなくなります。例えば、クロノアンペロメトリー(CA)がその一例です。しかし、非常に時間のかかるCAを、すべての設定電位に対して行うと、何日もの時間がかかってしまいます。そこで、LSVやCVのように、電極触媒の活性を過大評価せず、CAのように時間をかけることなく、かつ活性を正確に測定できる代替手法を開発することが重要となっています。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究では、サンプルドカレントボルタメトリー(SCV)という先進的な方法を開発しました。SCVは以前からステップポテンシャルボルタメトリー (SPV)という方法名で知られていましたが、あまり使用されず、プロトコルにいくつかの曖昧な点がありました。本手法では、サンプリング時間とその反応の種類や印加電位への依存性を正確に記述しました。

(3)そのために新しく開発した手法

我々は、水の電気分解反応を具体的な対象として、サンプルドカレントボルタメトリー(SCV)と呼ばれる方法を開発しました。これは、基本的に短時間(60〜200秒)のCA測定をいくつかのステップ電位に対して行うものです。最初の数秒で、電気二重層容量と自己酸化還元反応による電流はなくなり、その後に観測される電流が目的の反応によるものになります。さらに数十秒間電位を維持することで、CAにかなり近い活性値を得ることができます。ステップ電位を定期的に上げることで、LSVやCVと同じようなボルタンメトリー電流密度-電圧曲線を、より高い精度で得ることができます。触媒の定常状態への到達の速さに応じて、サンプリング時間を短く設定することができます。

上図:Co(OH)2電極触媒を用いた1 M水酸化カリウム水溶液の水電解による酸素生成反応の測定結果の生データ。一定時間ごとにステップ状に電位を変化させて電流密度を測定。電流密度は電位を変化させた直後に大きく上昇した後、定常に達することがわかる。適切な電位間隔で、適切な待ち時間で電流密度を測定することで、正確性と迅速性を両立できる。

(4)研究の波及効果や社会的影響

多くの電解槽は、スケールアップの際に活性が低下することが商用化の妨げになっています。LSV/CVを使用して実験室で研究された触媒のほとんどは、大規模な運用に移行して定常状態で用いるとより低い性能を示します。これは、触媒自体ではなく、触媒の性能評価方法に起因するものです。本手法は、この問題を解決し、電解槽を円滑に実用化することに貢献します。

(5)今後の課題

今回開発した新たな方法は、従来から使われているLSVやCVよりも比較的精度が高いものの、オーミックドロップ※8の問題があります。今後は、より精度が高く、オーミックドロップの問題がない手法の開発を目指します。

(6)研究者からのコメント

電極触媒の研究開発は、水電解による水素製造、二酸化炭素の電解還元、燃料電池など、多様な分野で日々進められ、毎年数千件もの論文が報告されています。しかしCVやLSVでの評価が一般に用いられ、不正確な値が蓄積されてしまっています。より正確な値を簡易に評価する本方法により、正しいデータが蓄積され、基礎研究から社会実装までより着実に繋がり、エネルギーの有効利用や低炭素化が推進されることを願います。

(7)用語解説

※1 クロノアンペロメトリー
電位をステップ状に変化させて、各電位における電流の時間変化を測定する方法

※2 LSV / CV
印加する電位を一定の速度で変化させて、触媒の性能を評価するための分析法。

※3 物質移動律速
反応物が電極に到達する速度が全体の速度を律して反応速度を決定する状況。

※4 スキャンレート
印加電位が上昇または下降する速度。

※5 Self-redox reaction current
触媒自身の酸化や還元によって生じる電流。

※6 インターフェイス
触媒を保持する固体電極と電解液の接合部

※7 定常状態
電流がほとんど変化を示さなくなった状態

※8 オーミックドロップ
直列の抵抗により界面で発生する電位差の低下。

(8)論文情報

雑誌名:Journal of The Electrochemical Society
論文名:Worrisome Exaggeration of Activity of Electrocatalysts Destined for Steady-State Water Electrolysis by Polarization Curves from Transient Techniques
執筆者名(所属機関名):Sengeni Anantharaj (Waseda University), Subrata Kundu (CSIR -Central Electrochemical Research Institute), and Suguru Noda (Waseda University)
オンライン掲載日時:2022年1月5日(水)
掲載URL:https://iopscience.iop.org/article/10.1149/1945-7111/ac47ec/meta
DOI:10.1149/1945-7111/ac47ec

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