Notice大切なお知らせ

繰り返し充放電可能な燃料電池開発

世界初 繰り返し充放電可能な全高分子形燃料電池開発
~水素を可逆的に吸脱着可能なプラスチックシート使用~

発表のポイント

  • 水素を可逆的に吸脱着可能なプラスチックシートを使い、何度でも充放電でき持ち運び可能な全高分子形燃料電池を世界で初めて開発した。
  • 一定電流密度において最長8分程度の発電を、50サイクル繰り返し充放電可能なことを確認した。
  • 発火の危険性がなく軽量で可搬性に優れているため、モバイル機器などへの応用の可能性がある。

山梨大学クリーンエネルギー研究センター・早稲田大学理工学術院の宮武 健治(みやたけ けんじ)教授、山梨大学クリーンエネルギー研究センターの三宅 純平(みやけ じゅんぺい)准教授、早稲田大学理工学術院の小柳津 研一(おやいづ けんいち)教授および岡 弘樹(おか こうき)学振特別研究員(早稲田大学先進理工学研究科一貫制博士課程4年)らの研究グループは、水素を可逆的に吸脱着可能なプラスチックシートを用いた充電式の燃料電池「全高分子形リチャージャブル燃料電池」を世界で初めて開発しました。

固体高分子形燃料電池(以下、PEFC)※1には、自動車用途では高圧水素タンクから、家庭用ではその場で都市ガス(メタン)を水蒸気改質※2して水素を供給していますが、携帯性、安全性、エネルギーコストに課題があります。本研究により、水素タンクや改質反応装置が不要で、安全であり、何度でも充放電して持ち運び可能なPEFCの開発に成功しました。一定電流密度(1mA/cm2)において最長で8分程度の発電が可能で、50サイクル繰り返して充放電が可能です。今後、構成材料の高性能化・最適化や耐久性などを改善することで、携帯電話や小型電子デバイスなどモバイル機器用の電源として応用できる可能性があります。

本研究成果は、2020年10月9日(金)午前10時(英国時間)にNature系列誌『Communications Chemistry』のオンライン版で公開されました。

論文名:Rechargeable proton exchange membrane fuel cell containing an intrinsic hydrogen storage polymer

(1)これまでの研究で分かっていたこと

近年のエネルギー・環境問題を背景に、クリーンで高効率なエネルギー変換デバイスの開発が世界中で進められています。中でもPEFCは、自動車駆動用電源、家庭用電源などに実用化されており、今後他の用途にも普及することが期待されています。

現在のPEFCで使われる水素貯蔵供給システムとして、自動車用途には高圧水素タンク、家庭用には都市ガスを水蒸気改質反応させて水素を製造する装置が用いられていますが、携帯性、安全性、エネルギーコストに課題がありました。そのため、PEFCの応用分野を広げる目的で様々な水素貯蔵材料が検討されてきました。

よく知られる水素貯蔵材料として水素吸蔵合金(LaNi5、Mg2Niなど)がありますが、体積あたりの水素貯蔵量は多い一方で、重量あたりの水素貯蔵量は少ないことが欠点として知られています。有機系材料としては有機ハイドライド(メチルシクロヘキサンなど)があり、体積および重量あたりの水素貯蔵量はいずれも多いですが、揮発性、可燃性、毒性があるために、より安全でしかも貯蔵密度が大きな水素貯蔵材料が必要とされていました。高分子系の水素貯蔵材料として、小柳津教授らは2016年にプラスチックシートとして成型できるケトンポリマーの開発に成功し、水素吸脱着性能を実証しましたNat. Commun. 7, 13032 (2016))。しかし、このプラスチックシートを水素貯蔵供給媒体として用いた燃料電池デバイスの開発は皆無でした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

水素貯蔵供給媒体としてプラスチックシートをセルの内側に組み込んだ全高分子形リチャージャブル燃料電池を設計し、その原理の実証に挑戦しました。

図1:本研究で開発した全高分子形リチャージャブル燃料電池の概念図。ポリケトンから成る水素吸脱着が可能なプラスチックシート(HSP)を内蔵することで、コンパクトかつ安全な充電式燃料電池を構築出来る。

(3)そのために新しく開発した手法

水素吸脱着反応を円滑に進めるためにイリジウム(Ir)系錯体を含侵させたケトンポリマーシートを燃料電池のアノード側に内蔵した燃料電池を設計、作製しました。水素脱着にともなう燃料電池発電と水素吸着(充電に相当)を繰り返し行い、リチャージャブル燃料電池の性能とサイクル特性を評価しました。

プロトン導電性高分子膜(以下、PEM)※3として、ガス透過係数が大きく異なる2種類の材料を用いたリチャージャブル燃料電池を評価・比較することで、PEMのガスバリア性がリチャージャブル燃料電池の性能向上に有効な因子の一つであることを突き止めました。

本研究により、世界で初めて繰り返して充放電が可能な「全高分子形リチャージャブル燃料電池」を開発しました。一定電流密度(1mA/cm2)において最長で8分程度の発電が可能で、50サイクル繰り返して充放電が可能です。

図2:一定電流密度において、50回繰り返し安定に充放電出来る。PEMとして気体透過係数が小さいSPP-QP膜を用いると、係数が大きなNafion膜を用いた場合よりも高い性能(発電可能時間が長い)が得られる。

(4)研究の波及効果や社会的影響

現行のリチウムイオン二次電池の性能・耐久性は日々向上していますが、リチウム資源は限られており、潜在的には発火の危険性はぬぐいきれません。本研究で開発したリチャージャブル燃料電池は多様な水素源からの水素を用いることができ、安全性のリスクも無いことから、構成材料の高性能化・最適化や耐久性などを改善することで、携帯電話や小型電子デバイスなどモバイル機器用の電源として応用できる可能性があります。

(5)今後の課題

プラスチックシートの水素貯蔵量や水素放出反応速度、PEMのプロトン導電率や安定性を向上させ、高い電流密度でも長時間発電可能な創蓄電デバイスにするための方法を今後明らかにしていきます。

(6)研究者のコメント

現行のPEFCは充電できませんし、二次電池のように気軽に持ち運ぶこともできません。リチウムイオン二次電池は小型軽量で性能も高く便利ですが、発火のリスクが皆無ではなく利用が制限されるケースが散見されます。本手法を突き詰めれば、誰もがどこにでも安全に持ち運びが可能であり、何度でも繰り返し使用可能な創蓄電デバイスになり得ます。今回の成果はまだ発展途上であり、発電時間や電圧ロスの課題がありますが、二次電池と燃料電池の特性を兼ね備えた「全高分子形リチャージャブル燃料電池」の原理実証に成功したという意味で、非常に重要な一歩だと確信しています。今後、各構成材料の高性能化や最適化により、次世代のエネルギーデバイスとしてのリチャージャブル燃料電池の可能性を追求していきたいと思います。

(7)用語解説

※1 固体高分子形燃料電池(PEFC)
プロトン導電性高分子膜(PEM)を電解質として用いる燃料電池。他の燃料電池と比較して、運転温度が低く起動停止が容易、全固体ゆえに安全性が高く保守も容易、出力密度が高くコンパクトかつ軽量などの特徴がある。

※2 水蒸気改質
炭化水素と水蒸気を高温で反応させて水素を製造する反応。家庭用燃料電池には都市ガスの主成分であるメタンから水素を作る改質反応装置が付属している。

※3 プロトン導電性高分子膜(PEM)
プロトン導電性を示す高分子膜。PEFC用途には通常10-30μm程度の厚さの膜で、プロトン導電性、安定性(化学的、機械的、熱的)、ガス(水素、酸素)バリア性などの機能が必要である。

(8)論文情報

雑誌名:Communications Chemistry
論文名:Rechargeable proton exchange membrane fuel cell containing an intrinsic hydrogen storage polymer
執筆者名(所属機関名):Junpei Miyake (三宅 純平)、Yasunari Ogawa (小川 泰誠)、Toshiki Tanaka (田中 俊貴)、Jinju Ahn (アン ジンジュ)、Kouki Oka (岡 弘樹)**Kenichi Oyaizu (小柳津 研一**Kenji Miyatake (宮武 健治)**
*山梨大学 クリーンエネルギー研究センター
**早稲田大学 先進理工学部 応用化学科
掲載日時(英国時間):2020年10月9日(金)午前10時
掲載日時(日本時間):2020年10月9日(金)午後6時
DOI:10.1038/s42004-020-00384-z

(9)研究助成

研究費名:科学研究費補助金 新学術領域研究「ハイドロジェノミクス」(研究領域提案型)
研究課題名:高速移動水素による次世代創蓄電デバイスの設計
研究代表者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)
研究分担者名(所属機関名):小柳津 研一(早稲田大学)

研究費名:科学研究費補助金 基盤研究(B)
研究課題名:多機能性高分子イオニクス材料の創製とエネルギーデバイスへの応用
研究代表者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)

研究費名:科学研究費基金 挑戦的研究(萌芽)
研究課題名:ポリフェニレンイオノマーへの挑戦
研究代表者名(所属機関名):宮武 健治(山梨大学)

研究費名:科学研究費基金 基盤研究(C)
研究課題名:高安定プロトン伝導性芳香族高分子電解質膜の高性能化・高靱性化に関する研究
研究代表者名(所属機関名):三宅 純平(山梨大学)

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