ハイブリッド3Dプリンタ造形技術 開発

金属とプラスチックのハイブリッド3Dプリンタ造形技術を開発

発表のポイント

これまでは、熱溶解式3Dプリンタでは、融点が大幅に異なるため、金属とプラスチックから構成される立体造形物を作製することが実現出来なかった

めっき技術と3Dプリンタ技術を組み合わせた新たな技術を開発することで、融点の問題を解決し、金属とプラスチックで構成される任意形状の立体を簡単に造形出来ることが実証された

AI/IoT用のデバイスやロボット製品等の今後の発展が強く期待される分野において、開発・研究の加速・促進に貢献すると期待されている

図1 プラスチックと金属から構成される立体造形物サンプル
(ABS+PdCl2フィラメントにNiメッキを施し、さらに金メッキを施している)

早稲田大学理工学術院の梅津信二郎(うめずしんじろう)教授、シンガポール南洋理工大学の佐藤裕崇(さとうひろたか)准教授、吉野電化工業株式会社の曽根倫成(そねみちなり)らの研究グループは、3Dプリンタとめっきの技術を統合して利用することで、金属とプラスチックから構成される任意形状の立体を造形する技術の開発に成功いたしました。

本研究成果は、2020年8月24日(月)にオランダELSEVIER社発行のジャーナル『Additive Manufacturing』にオンライン版が掲載されました。

【論文情報】

・掲載誌:Additive Manufacturing
・論文名:Metal-Plastic Hybrid 3D Printing Using Catalyst-Loaded Filament and Electroless Plating
・DOI:10.1016/j.addma.2020.101556

(1)  これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景等)

3Dプリンタの中でも、熱溶解式(通常FDM方式:Fused Deposition Modeling)の3Dプリンタに関する研究開発が近年盛んです。例えば、金属用の3Dプリンタが治具や部品の開発に応用されており、プラスチック用の安価な3Dプリンタが一般家庭に普及してフィギュアやDIYの作製ツールとして使用されています。このように工業製品の製造から身の回りのものの作製まで幅広く熱溶解式の3Dプリンタによって作られています。

一方で、私たちの身の回りには、金属のみの造形物や、プラスチックのみの造形物よりも、エレクトロニクスに代表されるような金属とプラスチックの双方が用いられて構成される造形物が多いです。それにも関わらず、金属とプラスチックでは融点が大きく異なるため、これまでは熱溶解式3Dプリンタで金属とプラスチックの双方が用いられる立体造形物を作製することができませんでした。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

このような問題を解決するにあたり、本共同研究グループは、めっき技術と3Dプリンタ技術を組み合わせることにしました。無電解めっきを施すことが可能なフィラメントを独自に開発することで、めっき部(金属部)とプラスチック部の位置を制御した立体造形物の作製を実現できると考えました。

(3) そのために新しく開発した手法

まず、プラスチック用の3Dプリンタで一般的に使用される材料であるABS樹脂に塩化パラジウムを含有させたABS+PdCl2フィラメントを新たに開発しました。その上で、開発したこのフィラメントとABSフィラメントをデュアルノズルの3Dプリンタによって、二色刷りの要領で、ABS+PdCl2部分とABS部分から構成される立体を3Dプリントします。

図2 作成手順
(ABSフィラメントとABS+PdCl2フィラメントを、マルチノズル3Dプリンタにセットして、3Dプリントする。
無電解めっきを行うことによって、位置選択的で均一に、高い密着性のめっき層(金属部)を設ける。)

3Dプリントされた造形物に対して、無電解めっきを施すことによって、塩化パラジウムの部分に金属が析出します。その結果、金属とプラスチックから構成される立体造形物を作製することができました。

図3 プラスチックと金属から構成される立体造形物の作製
(左:3Dプリント、右:左の立体の上に、無電解めっき実施後、PdCl2部分に金属のNiが析出した
※Niをベースにして、電解めっきをすると、例えばこの部分のみに金をつけることが可能です)

(4) 研究の波及効果や社会的影響

本研究グループは、3Dプリンタ技術とめっき技術を組み合わせることによって、金属とプラスチックから構成される立体造形物を簡単に作製できることを実証しました。金属とプラスチックから構成されるものは、我々の身の回りに溢れています。特に、AI/IoT用のデバイスやロボット製品等への活用はニーズがますます高まりつつある分野ですので、それらの分野の研究の加速に直接的に貢献できると考えています。

(5) 今後の課題

析出した金属膜のプラスチック表面への密着性が予想よりも高く喜ばしい誤算でした。密着性を向上させているメカニズムを解明していきます。

(6) 研究者のコメント

本論文で開発した、金属とプラスチックのハイブリッド3Dプリンタによって、画期的なデバイスやロボットを製造していきたいと考えています。

(7) 論文情報

雑誌名:Additive Manufacturing
論文名:Metal-Plastic Hybrid 3D Printing Using Catalyst-Loaded Filament and Electroless Plating
執筆者名(所属機関名):Jing Zhan (NTU), Takayuki Tamura (Waseda Univ.), Gyotong Ri (Waseda Univ.), Zhenghao Ma (Waseda Univ.), Michinari Sone (Yoshino Denka Kogyo, Inc.), Masahiro Yoshino (Yoshino Denka Kogyo, Inc.), Shinjiro Umezu (Waseda Univ.), Hirotaka Sato (NTU)
オンライン掲載:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214860420309283
DOI https://doi.org/10.1016/j.addma.2020.101556

 (8) 研究助成

研究費名:The Singapore Ministry of Education (grant number: MOE2017-T2-2-067),
研究課題名:Drug Delivery System for Boosting Locomotive Performances in Biological Machine
研究代表者名(所属機関名):Hirotaka Sato (NTU)

研究費名:基盤研究(B) 16H04308
研究課題名:革新的マイクロ3Dプリンタの開発
研究代表者名(所属機関名):梅津信二郎(早稲田大学)

補助金名:文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援事業」
補助事業名:Waseda Ocean 構想(モデル拠点名:ICT・ロボット工学拠点)
拠点リーダー名(所属機関名):菅野重樹(早稲田大学)

補助金名:令和元年埼玉県先端製品開発費補助金
補助事業名:3Dプリンタ用ナノカーボンーPd複合樹脂フィラメントの開発
拠点リーダー名(所属機関名):曽根倫成(吉野電化工業株式会社)

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる