もっと身近に3Dプリンティングを 家庭でも高精度フィギュア作成が可能に

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ペン型機構と化学溶剤で3Dプリンティング造形物の外観と強度を改質

早稲田大学理工学術院の梅津信二郎(うめずしんじろう)准教授の研究グループは、3Dプリンティング造形物の表面を化学溶解によってなめらかにする3次元化学溶解仕上げ(3D-Chemical Melting Finishing)機構を開発しました。さらに、表面がなめらかになると造形物の光の反射量が増加することに着目して、造形物を画像化し、その明度によって仕上げの進行具合を評価する新しい手法も考案しました。
現在、3Dプリンティングには多くの方式が存在し、工業分野や医療分野、学術分野などさまざまな分野で活用されています。2007年にはFDM(Fused Deposition Modeling)式3Dプリンティングの基幹技術の特許が切れ、安価な装置の作製が可能になりましたが、一般には普及が進んでいません。その原因の一つとして、造形物に原理上必ず発生する積層痕が挙げられます。積層痕は、造形物の外観と強度を悪化させます。積層痕を取り除く方法として研磨や塗装のほか、主要な造形材料の一つのABS樹脂を溶解する化学溶剤のアセトンを使用する方法がありますが、手間と時間を要することや粉じんの発生、安全面などで問題がありました。
今回開発した手法では、ペン型の機構から必要最小限の量の溶剤を吐出し、造形物の表面を溶解することで積層痕を充填し平滑化します。ペン型構造で積層痕を選択的に除去でき、熱溶解という化学溶解プロセスを用いているため安全かつ安価で粉塵も発生しません。
本研究成果によって、これまで安価にもかかわらずあまり普及してこなかった3Dプリンティングが一般家庭に浸透し、フィギュアやモデル作製分野などの新たなユーザーを獲得することが期待されます。
今回の研究成果は、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌『Scientific Reports』に2017年1月5日に掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

現在、3Dプリンティングには、多くの方式が存在し、工業分野や医療分野、学術分野など様々な分野において活躍の場を広げている。また2007年にFDM(Fused Deposition Modeling)式3Dプリンティングの基幹技術の特許が切れ、安価な装置の作製が可能になった。さらにFDM式3Dプリンティングは、広く用いられている樹脂材料を造形することも可能である。そのため、FDM式3Dプリンタが人々の身近に普及すると考えられていたが現状、普及が進んでいるとは言いがたい。
その原因の一つとして、造形物に発生する積層痕が挙げられる。積層痕は、造形物の外観を悪化させるほか強度も悪化させてしまう。また、FDM式3Dプリンタの造形原理が、熱で溶解した材料を、一層毎に硬化し、造形するという原理であるため、必ず発生する。
現状では、この積層痕を取り除く方法として、研磨と塗装の複合処理が用いられている。しかし、研磨や塗装では手間や時間の観点から、3Dプリンティングの手軽に複雑な造形が可能という利点を失うほか、研磨の特性上、複雑造形に対する処理が困難という問題がある。更に研磨による粉塵も問題である。
そこで主要な造形材料の一つのABS樹脂を溶解する化学溶剤のアセトンを気化させ、その中にFDM造形物を配置し、表面を溶解し、FDM造形物の積層痕を除去する方法も報告されている。ただし、造形物の表面全体に気化した溶剤が触れるため、選択的な処理が不可能なことや、引火しやすいアセトンを気化させて用いるため、安全面での問題がある。
そのため現在、安価で安全にFDM3Dプリンティング造形物の積層痕を選択的に効果的に除去する技術が求められている。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究では、安価で安全にFDM3Dプリンティング造形物の積層痕を選択的に効果的に除去し、3Dプリンティング造形物の用途を拡大する技術を開発することで3Dプリンティングの新たな可能性を広げることを目的とした。安価なFDM3Dプリンティングに安価な改質処理機構を加えることで高精度な造形を可能にする技術の実現によって、これまで安価にもかかわらずあまり一般家庭に広まっていない3Dプリンティングが一般家庭に浸透し、人々の生活に創造を取り入れることが実現されると考えている。

(3)そのために新しく開発した手法

3Dプリンティング造形物に原理上発生する積層痕を化学溶解プロセスによって平滑化する3次元化学溶解仕上げ(3D-Chemical Melting Finishing)機構とそれによる平滑化を画像から取得できる明度によって評価する手法を考案、開発した。
3次元化学溶解仕上げはペン型の機構から必要最小限の量の溶剤を吐出し、表面を溶解し、溶解した材料をペン先で制御し、積層痕を充填し、平滑化して改質処理を行う手法であり、これまで用いられてきた手法と比較するとペン型の構造を用いているため、積層痕を選択的に除去可能であることや化学溶解プロセスを用いているため、粉塵を発生しないことにおいて優れている。
この3次元化学溶解仕上げ処理の進行具合の評価を行う手法として、変位計を用いて表面粗さを測定する手法を用いていたが処理の評価をこの手法で行うと、レーザー変位計を用いて、非接触での評価を行うことは可能であるものの評価に時間がかかるほか、処理と同時に評価を行うことが不可能になっており、より簡易に3次元化学溶解仕上げの処理の進行度合いを測定することが必要であると考えていた。
そこで3次元化学溶解仕上げによって、積層痕が除去されたことにより、造形物の光の反射量が増加すると考え、画像から取得することが可能であり光の反射量に関係する明度を用いて、3次元化学溶解仕上げの進行具合を評価する方法を考案し、開発した。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

熱溶解式3Dプリンティング造形物に発生する積層痕の除去を可能にした。
積層痕の除去を視覚的に確認するだけでなく、レーザー変位計を用いて表面変位を測定し、数値的にも改善されていることを実証した。3Dプリンティング造形物の改質処理機構としての実用化も考慮して、複雑な造形物に対して処理を施し、その有効性を実証した。その際にこれまで用いられてきたFDM3Dプリンティングの改質処理と比較を行い、それらに対する優位性の実証も行った。積層痕が平滑化されることによって破断原因が減少し、造形物の強度が上昇することも実証した。
また処理の度合いの評価を造形物の画像から取得することが可能な明度によって行うことも可能であると実証した。明度と3次元化学溶解仕上げの処理回数の関係と明度と造形物の表面粗さの関係を調査することで、処理が進行するにつれて明度が上昇していることを実証した。

(5)研究の波及効果や社会的影響

本研究によって、熱溶解式3Dプリンティングの問題点である積層痕を除去することとその度合いを評価することが可能であると実証した。
熱溶解式3Dプリンティング造形物から積層痕を効果的に除去することによって、造形物の外観と造形物の強度が改善される。これによって、熱溶解式3Dプリンティング造形物の使用可能範囲が広がると考えられる。
例を挙げるとこれまで積層痕によって外観が悪化するため、フィギュアやモデル作製分野においての熱溶解式3Dプリンティングは、積層痕を目立たなくさせる高い技術を持つユーザーや概形のみを要求するユーザー以外には敬遠されていた。しかし、造形物の外観を3次元化学溶解仕上げによって容易に改善できることによって、新たなユーザーを獲得することにつながり、下火となりつつある3Dプリンティング市場の再燃につながるほか、熱溶解式という安価な手法で高精度な造形物を作製可能になることで3Dプリンタをより手軽に使えるようになり、家庭に3Dプリンタがある時代になると考えられる。
また、効果的な処理と処理を施した造形物の部分的な評価を行うことによって造形物の強度を高めることや意図的に壊れやすい部位を作製することが可能になると考えられ、これまで熱溶解式3Dプリンティング造形物が用いられてこなかった機械部品の分野にも用いられることによって、熱溶解式3Dプリンタの需要自体が高まることが考えられる。

(6)今後の課題

今後の課題として、ここまでの研究では対象としてこなかった3Dプリンティングの方式と材料に対しても処理を行うことが可能なシステムを構築することがあげられる。
ここまでは熱溶解式3Dプリンティング造形物の後処理を対象として、手法を開発してきた。しかし、3Dプリンティングの原理上、他の方式であっても形状や大きさの違いこそあるものの積層痕は発生すると考えられる。
現状では熱溶解式3Dプリンティング材料のABS樹脂に対応した化学溶剤であるアセトンを処理機構に用いているが、今後の研究として金属材料や他の樹脂材料に対応可能な溶剤を用いて処理を行う方法を開発することで、さまざまな3Dプリンティングの方式で3次元化学溶解仕上げを使用可能になると考えられる。
多様な3Dプリンティング方式において多様な材料に対しての3次元化学溶解仕上げ処理を可能にすることでこれまでにない3Dプリンティングの応用法が見いだされ、産業の発展に大きく貢献できると考えられる。

(7)100字程度の概要

もっと身近に3Dプリンティングを!ペン型機構と化学溶剤で3Dプリンティング造形物の外観と強度を改質する処理を施し、3Dプリンティング造形物の可能性を広げる3次元化学溶解仕上げ処理機構の開発に成功しました。

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