特集 Feature Vol.18-2 未知なる脅威、ハードウェア・トロイに挑む(全4回配信)

IoT・情報通信技術研究者
戸川 望(とがわ のぞむ)/理工学術院教授

「いまここ」が直感で頭に入ってくる地図

基幹理工学部の戸川望教授が研究テーマのひとつにしているのは、「地理情報システム」の開発。私たちにとっての便利ツール「地図」を、いくつもの情報通信技術を駆使して、さらにもっと便利なものにしようとしています。たとえば「現実世界の自分」と「地図上の自分」が直感的に結びつくような地図情報サービス。いったい、どんな方法でそれを実現しようとしているのでしょうか。
(取材日:2017年9月7日)

地図の情報処理サービス

写真:IoTにより地図の使い方が大きく変わろうとしている

私たちの研究室では、地図そのものや、地図を使った情報処理サービスに関する研究も行っています。この研究も、第1回で取り上げた「モノのインターネット」(IoT:Internet of Things)によって実現する技術や製品を対象とするものです。地図は、人類が昔から利用してきた生活必需品です。地図を使うときを思い出してみてください。私たちは、自分が見ている景色を見つつも、同時に見ている地図のどこに自分がいるかを把握しようとします。つまり、自分のいる現実世界と、地図内の世界を結びつけようとするわけです。こうした作業を、難なくおこなえる人もいますが、一方で、何度も地図を見るのにどうしても道に迷う人もいます。より直感的に、現実世界と地図を結びつけることができれば、地図を使った情報処理サービスは、もっと人にやさしくて便利なツールになるはずです。そこで私たちの研究室では、具体的にいくつかの製品・サービスをイメージして研究に取り組んでいます。

わかりやすい歩行経路情報

まず、スマートグラスという眼鏡型のウェアラブルデバイスを使った歩行者ナビゲーションサービスについて紹介します。

自分が地図上のどこにいるのかを直感的に理解するための効果的な方法として、「地図上に自分のいる位置を表示する」ということがあります。この方法は、実際にスマートフォンの地図アプリなどで、みなさんも日常的に使っているものです。また、運転する人はカーナビゲーションシステムを使っていることと思います。こうした地図情報提供サービスにおいて、使用者の位置を地図上に示すための簡単な方法は、GPS(Global Positioning System、全地球無線測位システム)を利用するという方法です。しかし、GPSによる情報だけでは、地図上の位置が狂ってしまうことがあります。また、電波の届かない地下空間ではGPSを使えなかったり、複数階あるビルのなかでは使用者が何階にいるのかまでは平面地図上でわからないといった、使用するにあたっての限界もあります。

そこで、私たちの研究室では、ウェアラブルデバイスとAR(Augmented Reality、拡張現実)を駆使して、歩行者に目的地までの歩行経路を示してナビゲートするシステムの開発に向けた研究をしています。それが、スマートグラスを利用した歩行者ナビゲーションシステムです。このシステムでもGPSと同様、自分のいる位置を把握することが重要となります。より正確に位置を把握するにはどうすればよいか。そのひとつの方法として、PDR(Pedestrian Dead Reckoning、歩行者自律航法)とよばれる技術の利用があります。PDRとは、端末機器に備えらた加速度センサ、傾き検出センサ、向き検出センサなどの各種センサが検知したデータを組み合わせて、自分が元々いた位置から、どの方向にどのくらいの距離を移動したかを計算し、推定する技術をいいます。

PDRでは、「人は直線的な道があれば、曲がったりせず真っ直ぐ進むものである」といった歩行の原理も、位置の正確性を高めるために活用することができます。私の研究室では、このPDRのための各種センサをスマートグラスに装備しました。スマートグラスには、道案内のための視覚的画像が映されます。現実の景色に、仮想の画像を付加するARによって、わかりやすい歩行経路情報の提供を目指しているのです。

図:PDR(歩行者自律航法)のしくみ。端末機器に備えられた各種センサで、歩行動作の検出や、移動角度の推定などをおこない、相対移動量を算出する(出典:戸川研究室)

図:ARを使った歩行者ナビゲーションシステムのイメージ。ウェアラブルデバイスを装着すると、街なかの目印となる建物の情報や、目的地に向かう矢印などの情報を視覚的に得ることができる(出典:戸川研究室)

小さい画面の地図表示

ウェアラブル端末を使った地理情報処理サービスを開発するための研究として、「デフォルメ地図生成」という技術を腕時計型のウェアラブル端末で活用することも目指しています。腕時計型ウェアラブル端末は、腕に付けるためポケットから取り出さずに済み、携行性の高いデバイスだといえます。けれども、画面はスマートフォンに比べると大きくありません。狭い画面の中で、いかに効率よく情報を使用者に伝えられるかが時計型ウェアラブル端末では重要となってきます。たとえば、ウェアラブル端末にアプリとしてインストールされる電子地図では、ビルすべての名前が表示されていたりすると、詳細すぎて使用者にとって逆にわかりづらくなります。

ではどうすればよいか。もし、使用者が目的地まで進んでいく上で重要なポイントなる建物の情報のみが表示されれば、より理解しやすい地図になるでしょう。このように、歩行者にとって経路がわかりやすくなるようポイントを絞って簡略化した地図を作ることを、デフォルメ地図生成と呼びます。

図:AR(拡張現実)を使った歩行者ナビゲーションとデフォルメ地図生成のイメージ。元の地図の情報から余分な情報を取り除いて簡略化することで、腕時計型の携帯端末など使用するときの利便性と高める(出典:戸川研究室)

情報量の多い地図は腕時計型の画面には不向きですが、逆に、地図情報を簡略化しすぎても使用者は不安に感じてしまいます。たとえば、直進すべき道路が500メートル続くような場合、歩行者は「ずっとまっすぐ歩いているが、大丈夫なのだろうか」などと心配になってきます。そこで、曲がり角の目印となる建てものの情報だけでなく、経路中も不安にならない程度に建てものの情報を表示するといった設計も、デフォルメ地図生成では重要になってきます。こうした使い勝手のよさを重視しながら、活用の方法を研究しています。

企業側のニーズ

「理工」と名の付く学部に所属し、モノを作っている以上、社会的に意義のある研究をしたいと私は常に考えています。それを実現するための手段として、私の研究室では企業との共同研究に積極的に取り組んでいます。紹介したような地理情報処理サービスの研究にあたっては、ナビゲーションサービスや地図活用ソリューションを提供している企業と連携をとっています。企業側がどのような社会的ニーズがあるかを伝えてくれるので、私たち大学側がそのニーズに応えられるようなシーズを生み出すことで応える。これが私たちが進めている産学連携の基本形です。

一方、大学の研究者として、未来の社会で使われる技術の萌芽を創り出すための研究も行っています。現在は、企業との連携による研究が8割、未来社会を見据えての萌芽研究が2割ぐらいの比率で研究に取り組んでいるところです。

次回は、「IoTを実現するアプリケーション・システム設計」の研究についてお話いただきます。

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プロフィール

戸川 望(とがわ のぞむ)
1997年早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻博士後期課程修了(博士(工学))。早稲田大学理工学部電子・情報通信学科助手、北九州市立大学国際環境工学部助教授、早稲田大学基幹理工学部情報理工学科准教授などを経て、2009年より早稲田大学理工学術院教授(基幹理工学部)。専門は、集積回路設計とその応用技術、セキュリティ技術。電気通信普及財団テレコムシステム技術賞(2011年)ほか受賞多数。
詳しくは戸川研究室

業績情報

論文

受賞
1994年度 電気通信普及財団第10回テレコムシステム技術学生賞
1995年度 IEEE Asia and South Pacific Design Automation Conference
1995年度 ASP-DAC’95 Best Paper Award
1995年度 早稲田大学平成7年度大川功記念賞
1995年度 早稲田大学平成7年度小野梓記念学術賞
1996年度 電子情報通信学会第8回回路とシステム軽井沢ワークショップ研究奨励賞
1996年度 安藤研究所第9回安藤博記念学術奨励賞
1997年度 丹羽記念会平成9年度(第21回)丹羽記念賞
2001年度 武田計測先端知財団、武田研究奨励賞優秀賞
2009年度 丸文研究交流財団、丸文研究奨励賞
2009年度 船井情報科学振興財団,船井学術賞
2010年度 電気通信普及財団、テレコムシステム技術賞

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