直径100 mの気球で天体からの硬X線の偏光情報を世界初検出

直径100 mの気球で天体からの硬X線の偏光情報を世界初検出

【本研究成果のポイント】

  • 世界で初めて2-16万電子ボルトのX線(硬X線注1)で、天体からの偏光注2を高い信頼性で検出しました。
  • 日本とスウェーデンとの国際共同研究により、硬X線の偏光観測に特化した検出器を開発し、直径100 mの大気球で北極圏の上空40 kmから天体観測を実施した成果です注3。(YouTube動画:「PoGO+ Balloon Launch」で検索 https://www.youtube.com/watch?v=0oxd9-Wl-Qg
  • パルサー星雲「かに星雲」注4において精度の良い偏光情報が得られ注5、パルサー近くでの磁場情報を得ることができました。
  • 今回の研究を発端に、「ひとみ」衛星をはじめ他の観測結果や今後の理論研究により、パルサー星雲の磁場構造が明らかになり、X線からガンマ線を放射するような高エネルギー宇宙線がどのように加速されているかの理解が進むと期待されます。

【概要】

このたび、早稲田大学理工学術院先進理工学研究科片岡淳教授、広島大学大学院理学研究科の高橋弘充助教、宇宙科学センターの水野恒史准教授、東京大学大学院理学系研究科釡江常好名誉教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所田島宏康教授ら、日本とスウェーデンのPoGO+(ポゴプラス)国際共同研究グループは、パルサー星雲である「かに星雲」からの硬X線放射の偏光観測を実施しました。早稲田大学は光センサーの開発を、広島大学と東京大学大学院理学系研究科は検出器の組み上げと大気球の運用を、名古屋大学は読み出し回路を中心となって行いました。
偏光観測は、イメージとして見ることのできない天体の磁場情報や、イメージでは空間分解できないようなミクロな構造・物理を調べることができる強力な手段であり、イメージ、タイミング、エネルギー測定とは相補的なプローブです。しかし、とくにX線やガンマ線の観測では検出器の技術的な困難などから精度の良い偏光観測はほとんど実施できていませんでした。
研究グループでは、直径100mにも膨らむ大気球を2011-2016年の3回にわたってスウェーデンから放球し、検出器の性能を向上させてきました。人工衛星に比べ気球実験は、新規探索のサイエンスに向いている、最先端の技術を利用できる、経験に基づいて改良を加えられるという利点があります。まさにこのメリットを活かし、昨年の3回目のフライトで、硬X線の帯域において世界で初めて信頼性の高い偏光情報を得ることに成功しました。この結果は、これまで観測されていた1桁エネルギーの低いX線の偏光情報とおおむね一致するものでした。
硬X線を放射している宇宙線は、X線の場合に比べてエネルギーを失ってしまう寿命が1/3と短い(3年)ため、「かに星雲」のより中心(パルサー)に近い領域から放射されていると考えられます。今回の偏光の観測結果は、パルサーに近く磁場の向きが整ったままである(偏光度も高い)と予想されていた場所において、すでに磁場の向きが乱れていることを示すものです。今後は、「ひとみ」衛星をはじめ、他の衛星の観測結果や理論研究から、磁場構造などのパルサー星雲の描像が明らかになり、どのように高エネルギー宇宙線が加速されているのか、について理解が進むと期待されます。
またPoGO+グループでは3回目のフライト中に、「かに星雲」に加えブラックホール連星系「はくちょう座X-1」注6の偏光観測も実施しています。この観測結果からも、恒星からブラックホールへ降着する(吸い込まれていく)物質の幾何学的な構造を明らかにすべく、データ解析が進められています。

本研究は、JSPS科研費JP23740193、JP25302003などサポートを受けて行われ、また米国SLAC国立加速器研究所、東京工業大学、宇宙科学研究所(JAXA)からも多大な支援をいただきました。

本研究成果は、ロンドン時間の2017年8月10日(木)10時(日本時間:2017年8月10日18時)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されます。

【論文情報】

  • 掲載雑誌:Scientific Reports
  • URL: http://www.nature.com/articles/s41598-017-07390-7
  • DOI番号:10.1038/s41598-017-07390-7
  • 論文題目:”Shedding new light on the Crab with polarized X-rays” (X線偏光による「かに星雲」の新しい観測結果)
  • 著者:M. Chauvin, H.-G. Florén, M. Friis, M. Jackson, T. Kamae, J. Kataoka, T. Kawano, M. Kiss, V. Mikhalev, T. Mizuno, N. Ohashi, T. Stana, H. Tajima, H. Takahashi, N. Uchida, M. Pearce

【背景】

地球上には宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子が宇宙から降り注いでいます。この宇宙線の生成(高エネルギーまで加速する)現場は、銀河系内の超新星残骸やパルサー星雲、銀河系外の活動銀河核などと考えられていますが、加速するメカニズムには未解明な点があり、その1つが、生成現場における磁場の強度と方向です。
偏光観測は、イメージ、タイミング、エネルギーの測定とは異なり、高エネルギー粒子が放射する光子の偏光(電場の振動方向が偏っている)情報から、磁場の強度と方向を推定することができます。電波や可視光では一般的な手法ですが、X線やガンマ線の帯域では技術的な困難から、これまでに偏光に特化した検出器で精度の高い偏光測定を実施できたのは、1970年代のOSO-8衛星だけでした。そのため最近になって、本格的なX線・ガンマ線偏光検出器の開発が世界中で盛んに行われています。

【研究成果の内容】

今回の研究では、超新星残骸でありパルサー星雲でもある「かに星雲」で生成された高エネルギー粒子(電子、陽電子)が、その場で磁場に巻き付いて放射するシンクロトロン放射から「かに星雲」の磁場情報を観測しました。観測に用いたのは、日本とスウェーデンで共同開発した硬X線の偏光検出器PoGO+で、硬X線による天体からの偏光情報の検出は世界初の成果です。

大気球による成層圏からの観測

天体からのX線やガンマ線は地球の大気で吸収されてしまうため、本研究では直径100 mにも膨らむ大気球で、上空40 kmの成層圏まで総重量2トンもの大型検出器を持ち上げ、観測を実施しています。これまでの3回のフライトの中で、信頼性の高い科学的成果の得られた3回目では、2016年7月12日から18日までの1週間で、打ち上げ場のスウェーデン・キルナ市にあるEsrange気球実験場から、カナダのビクトリア島までフライトし、研究対象である「かに星雲」を毎日3-4時間ずつ計25時間にわたって観測することができました。
人工衛星として打ち上げることができれば、より長い観測時間を得ることができますが、信頼性・確実性が求められるため、世界初を目指す偏光観測のような野心的な検出器を載せるのは難しく、また開発期間も長くなってしまいます。PoGO+は偏光観測に特化した気球実験として開発したことで、複数回のフライトを重ねることで検出器の性能を向上させ、最先端技術の利用しつつ、総重量2トンもの大型の検出器で観測することができました。これの結果が、低コストでありながら、他の人工衛星のミッションに先駆けて信頼性の高い硬X線の偏光観測へと実を結びました。

観測結果の解釈

得られた「かに星雲」の硬X線の偏光情報は、X線の帯域で得られたもの(40年前に一度だけ)と一致していることがわかりました。X線と硬X線は、どちらも高エネルギー粒子(電子、陽電子)が磁場に巻き付いてシンクロトロン放射をしていると考えられています。ただし、放射する高エネルギー粒子のエネルギーは硬X線の方が3倍高く(50兆電子ボルト)、逆に、寿命は1/3短く3年弱と見積もられています。この寿命ではパルサー近傍で加速された高エネルギー粒子は、光速の0.5倍の速度で移動してもパルサー星雲の端まで到達することができず、硬X線はパルサー星雲のより中心に近い場所から放射されています。このため今回の観測結果により、中心から遠ざかるにつれ磁場の向きが徐々に乱されていくという仮説と矛盾している可能性が明らかになりました。

【今後の展開】

X線やガンマ線の偏光データがほとんどなかったことから、偏光研究は手つかずの状況です。今回の研究で新しく硬X線の偏光情報が加わりました。今後、「ひとみ」衛星をはじめ他の観測結果が報告され、偏光観測に特化した人工衛星も打ち上げられる予定です。これら偏光情報から推定される磁場という新しい物理量を踏まえて、パルサー星雲における高エネルギー粒子の加速現象の研究が急速に発展すると期待されます。
PoGO+では、「かに星雲」に加えブラックホール連星系「はくちょう座X-1」の観測を実施しています。この天体は太陽の15倍の質量のブラックホールに相手の恒星から物質が降着し、ブラックホールに吸い込まれる直前で硬X線を放射している状態です。ブラックホール近傍のミクロな構造は、イメージで空間分解することはできませんが、反射や散乱によって生じる偏光情報を観測することで近傍100kmの構造を推定することができます。PoGO+の成果により、ブラックホール連星系の幾何学的な配置が明らかにされることも期待されています。

【参考資料】

注1)偏光:
通常の光は色んな方向に電場が振動しています。人工的にはサングラス、自然界では水面での反射などにより、ある特定の方向のみに振動している状況を偏光した光と呼びます。

偏光

注2:X線とガンマ線の間のエネルギーをもつ電磁波

硬X線

注3)PoGO+気球実験

PoGO

40km上空

注4)パルサー星雲「かに星雲」:
藤原定家が明月記のなかで、西暦1054年に急に明るく輝く天体が出現した、と記しています。この天体が「かに星雲」です。恒星が一生の最後に超新星爆発を起こし、非常に明るく輝くとともに、中心にパルサー(高速に回転する中性子星)を残しました。中性子星は、太陽と同程度の質量を持ちながら、半径が約10 kmしかない非常にコンパクトな天体です。「かに星雲」の場合、このパルサーが1秒間に約30回もの高速で自転をしており、周囲に莫大な運動エネルギーを撒き散らしています。パルサー星雲とは、このエネルギーで加速された粒子がパルサー周辺に形成している星雲のことです。
「かに星雲」は、電波からガンマ線の全波長で明るく光っています。X線イメージにおける差し渡しの距離は数光年。中心にパルサーがおり、ドーナツ型のトーラス構造と、細く絞られたジェット構造が見られます。光速の0.5倍もの速度でプラズマが移動していることが分かっており、このプラズマ(高エネルギー粒子)が磁場に巻き付いて放射するシンクロトロン放射で輝いています。硬X線の偏光観測から、磁場の方向を測定できたことが、本研究の成果の1つです。

かに星雲

注5)PoGO+による硬X線の偏光観測の結果
横軸:天体信号が観測された角度、縦軸:天体信号を検出した数
特定の角度に信号が多く検出されていることから、天体からの硬X線が偏った角度に振動している(偏光している)ことが検出されました。

偏光観測

注6)ブラックホール連星系「はくちょう座X-1」:
宇宙で一番初めにブラックホールの存在が提唱された天体です。相手の恒星から、ブラックホールへ物質が降着し、その際に解放される莫大な重力エネルギーにより、X線で明るく輝いています。ブラックホールに物質が吸い込まれる直前(ブラックホール周辺の100 kmのサイズ)は、イメージでは空間分解できません。PoGO+研究チームでは、反射や散乱によって生じる偏光情報から、このミクロな構造を推定しています。

はくちょう座

【内容に関するお問い合わせ先】

早稲田大学 理工学術院先進理工学研究科・物理学及応用物理学専攻 (教授)片岡 淳
〒 169-8555 東京都新宿区大久保 3-4-1
Tel:03-5286-3081 FAX: 03-5286-2948 E-mail:kataoka.jun@waseda.jp

広島大学 大学院理学研究科 物理科学専攻 (助教)高橋 弘充(タカハシ ヒロミツ)
〒739-8526 広島県東広島市鏡山1-3-1
Tel:082-424-7379(もしくは-7378、-7380) FAX:082-424-0717 E-mail:hriotaka@astro.hiroshima-u.ac.jp

宇宙科学センター (准教授)水野 恒史(ミズノ ツネフミ)
〒739-8526 広島県東広島市鏡山1-3-1
Tel:082-424-7379 FAX:082-424-0717 E-mail:mizuno@astro.hiroshima-u.ac.jp

東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 (名誉教授)釜江 常好(カマエ ツネヨシ)
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel:03-5841-4213 FAX:03-5841-8308 E-mail:kamae@slac.stanford.edu E-mail:kono.kuniko@mail.u-tokyo.ac.jp

名古屋大学 宇宙地球環境研究所 (教授)田島 宏康(タジマ ヒロヤス)
〒464−8601 名古屋市千種区不老町
Tel:052−789−4314 FAX:052−789−4313 E-mail:tajima@isee.nagoya-u.ac.jp

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