有機分子集合体による近赤外光吸収を実現 太陽電池やセンサー、医療分野における検査技術の開発への貢献に期待

有機分子集合体による近赤外光吸収を実現
太陽電池やセンサー、医療分野における検査技術の開発への貢献に期待

早稲田大学理工学術院の中井浩巳(なかいひろみ)教授愛知工業大学工学部の森田靖(もりたやすし)教授の研究グループは、有機分子集合体であるトリオキソトリアンギュレン(TOT)の結晶が、近赤外光を強く吸収することを発見しました。また、独自の手法に基づく量子化学計算(注2)を実行し、光吸収のメカニズムを解明しました。

可視光線より波長が長い近赤外光は、センサーや光通信などの電子デバイスに広く利用されています。これら電子デバイスの材料として、近赤外光を吸収する有機分子が注目を集めています。有機分子からなる材料は軽量で柔軟性があるなどの利点がありますが、通常は波長が短い紫外線や可視光線しか吸収できません。近赤外領域まで吸収波長を伸ばすためには、分子を大きくしたり、特殊な置換基を加えたりする必要がありました。しかし、これらの方法では分子の合成が困難であり、デバイスの作製や機能の制御も難しいという問題がありました。

今回の研究では、森田教授らがTOTに置換基を導入した2種類の誘導体を設計・合成し、この誘導体の結晶が近赤外光を強く吸収することを発見しました。さらに、この結晶構造から抽出した積層構造に対して中井教授らが量子化学計算を行い、TOTが持つ電子が分子間で強く相互作用することにより、近赤外光の吸収が起こることを明らかにしました。

本研究で実現された有機分子集合体の近赤外光吸収は、有機中性ラジカルが持つ奇数個の電子に由来する新しいメカニズムに基づいています。本研究の成果を応用することで、近赤外光を用いた太陽電池やセンサー、医療分野における検査技術の開発への貢献が期待されます。また、量子化学計算を用いた有機電子材料の設計や開発が、今後さらに盛んになると期待されます。

本研究成果は、英国科学誌『npj Quantum Materials』に2017年6月8日(現地時間)に掲載されました。

(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

可視光線より波長が長い近赤外光は、センサーや光通信などの電子デバイスに広く利用されています。これら電子デバイスの材料として、近赤外光を吸収する有機分子が注目を集めています。有機分子からなる材料は軽量で柔軟性があるなどの利点がありますが、通常は波長が短い紫外線や可視光線しか吸収できません。近赤外領域まで吸収波長を伸ばすためには、分子を大きくしたり、特殊な置換基を加える必要がありました。しかし、これらの方法では分子の合成が困難であり、デバイスの作製や機能の制御も難しいという問題がありました。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと

愛知工業大学の森田靖教授の研究グループと、早稲田大学の中井浩巳教授の研究グループは、有機中性ラジカル(注1)の一種であるトリオキソトリアンギュレン(TOT)を集積させることにより、近赤外光吸収の発現を試みました。また、量子化学計算(注2)を用いて実験的に観測された光吸収の再現と、そのメカニズムの解明を目指しました。

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(3) そのために新しく開発した手法

量子化学計算は分子数を多くすると計算量が急激に増大してしまうため、分子の集積によって発現する物性を扱うのは容易ではありません。中井教授らはこの問題を克服するために、分割統治法(注3)と呼ばれる計算手法を開発することで、光吸収波長を求めるために計算する行列の次元を劇的に削減しました。この方法により、多数の分子が集積した構造に対して量子化学計算を用いた光吸収の議論ができるようになりました。

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(4) 今回の研究で得られた結果及び知見

森田靖教授らの研究グループは、TOTに置換基を導入した2種類の誘導体を設計・合成しました。TOTの誘導体は、有機中性ラジカルでありながら通常の有機分子と同程度に安定であり、結晶中では一次元的に積層した構造を形成することが明らかになりました。また、TOT誘導体の結晶は1000 nmから1500 nmの波長領域に吸収帯を持ち、近赤外光を強く吸収することを発見しました。

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中井浩巳教授の研究グループは、TOT誘導体の近赤外光吸収についてメカニズムを明らかにするために、結晶構造から抽出した積層構造に対して量子化学計算を行いました。その結果、TOTが持つ電子が分子間で強く相互作用することにより、近赤外光の吸収が起こることがわかりました。さらに、分子が多く積み重なるにつれて吸収波長は長くなる傾向がみられました。分子数を十分に大きくすると、実験で得られた吸収帯で最も吸収の強い波長に近づき、実験結果の再現に成功しました。

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(5) 研究の波及効果や社会的影響

本研究で実現された有機分子集合体の近赤外光吸収は、有機中性ラジカルが持つ奇数個の電子に由来する新しいメカニズムに基づいています。本研究の成果を応用することで、近赤外光を用いた太陽電池やセンサー、医療分野における検査技術の開発への貢献が期待されます。また、量子化学計算を用いた有機電子材料の設計や開発が、今後さらに盛んになると期待されます。

(6) 今後の課題

本研究で検討したTOT誘導体は、導入する置換基によって積層構造や光吸収波長が大きく異なります。置換基と積層構造、光吸収の関係を調べることで、光吸収の波長や強さを制御できるかもしれません。また、TOTは安定性が高く合成も容易ですので、材料としての応用も積極的に進めたいと考えています。

(7) 100字程度の概要

愛工大の森田靖教授、早大の中井浩巳教授らは、トリオキソトリアンギュレン(TOT)の結晶が、近赤外光を強く吸収することを発見しました。また、独自の手法に基づく量子化学計算を実行し、光吸収のメカニズムを解明しました。

用語解説
  • 注1)有機中性ラジカル:電気的に中性で奇数個の電子をもつ有機分子。一般的に反応性が高く不安定であるが、導電性や磁性などで特有の性質を示すことから、有機電子材料や医療分野など幅広い応用が期待されている。
  • 注2)量子化学計算:分子の構造、反応、物性に関する情報を、シュレーディンガー方程式などの量子力学の方程式を解いて求めること。現在ではコンピュータを用いた計算が普及している。
  • 注3)分割統治法:問題を小さな部分に分割し、それぞれを解いた結果から全体の問題の解を得る方法。量子化学計算に対しては1991年に最初の例が報告され、その後、適用範囲が拡張されている。
論文情報

 

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