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「特集 Feature」 Vol.14-3 流体と構造物のせめぎあいを解き明かす、シミュレーションの妙技(全3回配信)

流体構造連成応用力学 研究者
滝沢 研二(たきざわ けんじ)/理工学術院 創造理工学部 総合機械工学科

タイヤのミリスケールから世界へ

takizawasennsei3-1滝沢准教授の功績が認められ、近年では、2015年文部科学大臣表彰(若手科学者賞)や、2016年度トムソン・ロイター社の「リサーチフロントアワード」、科学技術・学術政策研究所の「科学技術への顕著な貢献2016 ナイスステップな研究者」等にも選出されています。この回では「生体内の血液解析」と同様、滝沢准教授の主要な研究テーマ「自動車のタイヤ周辺の空気の流れの解析」について伺いました。

(取材日:2016年12月14日)

タイヤを取り巻くミリスケールの空気の流れ

「生体内の血流解析」と併せて、ここ数年、力を入れて取り組んでいる研究が、「自動車のタイヤ周辺の空気の流れ」の解析です。本学は自動車業界との共同研究事例が多く、自動車関連の研究テーマを探していました。タイヤメーカーの方から、メーカーの研究開発はゴムの物性研究がメインで、空気の流れの影響までは解明できていないとお聞きして、「ST法」を使えばこの分野への貢献ができるのではと、メーカーとの共同研究を始めました。解析手法には、血流解析と同じく、「ST法」を発展させた「ST-SI-TC法」を採用しています。

タイヤのゴムの弾性は、温度の影響を強く受けます。タイヤは、地面との接触で変形し、その変形により、タイヤそのものが熱くなります。タイヤが熱くなりすぎないのは、周囲の流体がこの熱を奪うからです。こうした変形がタイヤ周辺の空気の流れにどう影響するか、空気の流れによってタイヤの熱がどう冷やされるのか。こうしたことを解析するのが研究の当面の目標です。

研究の過程で、熱せられたタイヤは表面部分から急激に冷えることが、分かってきました。その領域はタイヤ表面のおよそ1 mm幅です。対して、タイヤに掘られている溝は数mmの幅があります。それが意味するのは、タイヤの温度に与える空気の流れの影響を見るうえで、溝は大きなファクターとして捉える必要があるということです。タイヤ周辺の空気がタイヤの溝をどのように流れるかも考慮に入れ、空気の流れがタイヤの熱に与える影響を評価しているところです。

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図:重量車の熱流体解析。後輪近傍の熱の移動に注目(出典:滝沢研究室)

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図:タイヤと路面(出典:滝沢研究室)

この研究においても、「TC法」と「SI法」は、高精度のシミュレーションのために欠かせません。タイヤの前方では、溝ではない部分が地面に接触し、それまで存在していた空間がなくなっています。対して後方では、タイヤが地面から離れることで、空間が新たに出現します。こうしたトポロジー変化(Topology Change)を表現するために、「TC法」が大きな役割を果たしています。

タイヤの接地面近くの空気の流れを表現するためには、「SI法」が重要な役割を果たします。タイヤ周辺の空気は、タイヤに引っ張られるように一緒に動きますが、タイヤの接地面は、相対的には動くことはありません。つまり、接地面近くを局所スケールで見ると、動的な領域と静的な領域が併存しています。その状態を表現するため、両者の境に仮想的な界面(interface)を設け、そこを滑る(slip)ように空気の動きを表現しています。

「ST-SI-TC法」を用いた解析により、次のようなことが明らかになってきました。タイヤの前方では、タイヤが空気を押しつぶすため、空気が前方に向かって放射状に流れていきます。特にタイヤの接地面の近くでは、周囲の空気の流れよりも速いジェット流のようなものが起きています。一方、タイヤの後方ではタイヤが離れることで出現した空間に、空気が流れ込んでいます。
今後も研究を積み重ね、将来的にはシミュレーションで実際の商品開発に貢献できるようになるのを目指しています。

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図:Flow Analysis Around a Tire With Road Contact and Deformation ①(出典:滝沢研究室)

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図:Flow Analysis Around a Tire With Road Contact and Deformation ②(出典:滝沢研究室)

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図:Flow Analysis Around a Tire With Road Contact and Deformation ③(出典:滝沢研究室)

数値解析の魅力は、自然現象をコンピュータ上で再現することで、自然界で目に見える現象を単に再現するのではなく、想定した支配方程式に従っていることを確認することができ、すなわち現象の背後まで理解できた気分を味わえるところにあります。数値解析やシミュレーションは、コンピュータがあればできそうに思われがちですが、実際の研究は、複数の人との関わり合いのなかで進みます。シミュレーションは、現実に起きている事象の理解や定量的な評価のために行っています。そのため計算条件や結果の理解のためには、該当分野の専門家の知見が不可欠で、共同で研究を進める必要があるのです。

また、研究に限らずあらゆる分野に共通することでしょうが、大きな成果を残すには、始まりと終わりが肝心です。研究テーマに対してどのようなアプローチで取り組むか、そして、研究を通じて得られた結果をどのように意味づけるのか。数値解析の分野に当てはめれば、解析対象に最も適した計算手法を選択すること、そして、導き出された結果を正しく解釈することが重要です。

今、研究者としての一番の喜びは、自分が描いた一番高いところを目指せるところです。本当に小さいころから研究者になりたかったので、研究とは自分の人生そのものですね。私は執念深い人間ですので、自分でこういう方法でできると思ったら、それが本当に実現するまでしつこくやり続けるのです。やっぱり研究者として世界でやっていくには、流行のような研究ではなくて、自分が目指しているゴールに対してどれだけ誠実に進んでいけるか、自分なりの目標に立ち向かう力が大事なのではないかと思います。

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写真:幼いころの滝沢准教授

また、革新的な成果を出し続けるためには、国際共同研究が重要です。ライス大学のテズドゥヤー教授が創設した「T*AFSM(Team for Advanced Flow Simulation and Modeling)」の一員として、テズドゥヤー教授と意見やアイデアを交換する体制を築いています。

数値解析やシミュレーションを具体的に進めるうえでも、共同作業は欠かせません。解析プログラムの開発をはじめ、特定事象の解析には膨大な作業が発生します。それをすべてひとりでこなすのは困難で、チームのメンバーと分担・協力しながら研究プロジェクトを前に進めます。私の研究室には、博士課程在籍者5名、修士課程在籍者5名、学部在籍者で20名ほどの学生がおり、ひとつの研究プロジェクトに複数人体制で臨んでいます。

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写真:滝沢研究室にて。ひとりひとりができることを、みんなのために

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写真:先生の魅力は「授業がわかりやすい」「スイーツ好きなところ」と語る研究室の皆さん

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写真:滝沢研究室にて。ずらりと並ぶ表彰状はチームの研究が認められている証

早稲田大学は学生の人数が非常に多いので、このチームワークを持って研究するぞという気持ちが大事です。ですので、自分自身でできることを自分でできるというだけではなくて、さらにそれをチームメンバーと共有して、さらに高めるというような人に来ていただけたら、より私の研究室の研究も先に進めることができると思っています。

私の夢は、もちろん私自身が研究をし続けていきたいということですが、それと同時に今たくさんの優秀な学生をみているので、彼らが一緒に研究をしてくれるような、一人前になってくれることも同じくらい大事な夢です。これまで解明できていなかった物理現象を、チームワークの力で解き明かしたいという学生さんは、ぜひ私の研究室を訪ねてきてほしいと思います。早稲田大学から国際的に通じる計算力学分野の大きなチームをつくって、高いゴールをいっしょに目指していきたいですね。

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プロフィール

takizawasennsei prof滝沢 研二(たきざわ けんじ)

2001年東京工業大学工学部機械宇宙学科卒業、2005年同大学大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻修了、博士(理学)を授与される。2005年より独立行政法人海上技術安全研究所で研究員を、2007年より米国ライス大学でリサーチアソシエイト、リサーチサイティンストを経て、2011年から早稲田大学理工学術院准教授。計算力学を中心に、流体力学、構造力学、生体力学など広範な分野の研究を手がけており、近年は数々の賞を受賞するなど世界的な評価を獲得している。

主な研究業績

論文

  • K. Takizawa, T.E. Tezduyar, T. Terahara, and T. Sasaki, “Heart Valve Flow Computation with the Integrated Space–Time VMS, Slip Interface, Topology Change and Isogeometric Discretization Methods”, Computers & Fluids, published online, DOI: 10.1016/j.compfluid.2016.11.012 (2016)
  • K. Takizawa, “Computational Engineering Analysis with the New-Generation Space–Time Methods”, Computational Mechanics, 54(2014) 193–211, 10.1007/s00466-014-0999-z
  • K. Takizawa, Y. Bazilevs, and T.E. Tezduyar, “Space–Time and ALE-VMS Techniques for Patient-Specific Cardiovascular Fluid–Structure Interaction Modeling”, Archives of Computational Methods in Engineering, 19 (2012) 171–225, 10.1007/s11831-012-9071-3
  • K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Computational Methods for Parachute Fluid–Structure Interactions”, Archives of Computational Methods in Engineering, 19(2012) 125–169, 10.1007/s11831-012-9070-4
  • K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Multiscale Space–Time Fluid–Structure Interaction Techniques”, Computational Mechanics, 48 (2011) 247–267, 10.1007/s00466-011-0571-z

そのほかの論文はこちら

著書

  • Y. Bazilevs, K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Computational Fluid–Structure Interaction: Methods and Applications”, Wiley (2013 年)
  • バズィレヴスユリ (共著),滝沢研二 (共著),テズドゥヤータイフン(共著),“流体-構造連成問題の数値解析”,津川祐美子 (共訳),滝沢研二 (共訳),森北出版(2015年)

主な受賞

  • 2012年Young Investigator Award, International Association for Computational Mechanics
  • 2012年Thomas J.R. Hughes Young Investigator Award, ASME Applied Mechanics Division
  • 2013年Young Investigator Award, Asian Pacific Association for Computational Mechanics
  • 2014年日本機械学会計算力学部門(業績賞)
  • 2014年早稲田大学リサーチアワード (国際研究発信力)
  • 2015年文部科学大臣表彰(若手科学者賞)
  • 2015年Web of Science Highly Cited Researcher (Engineering), Thomson Reuters
  • 2016年Japan Research Front Awards 2016, Thomson Reuters
  • 2016年Web of Science Highly Cited Researcher (Engineering), Thomson Reuters
  • 2016年 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP) 「科学技術への顕著な貢献2016 ナイスステップな研究者」
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