「特集 Feature」 Vol.14-2 流体と構造物のせめぎあいを解き明かす、シミュレーションの妙技(全3回配信)

流体構造連成応用力学 研究者
滝沢 研二(たきざわ けんじ)/理工学術院 創造理工学部 総合機械工学科

血管のトポロジーの表現

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滝沢准教授の論文成果が引用されることによって関連する優れた論文が数多く発表されるようになりました。滝沢准教授の領域が、一つの研究領域として注目されるようになり、当該研究分野に大きな影響を及ぼしています。この回ではその中でも特に力を入れているという「生体内の血液解析」の研究について伺います。

(取材日:2016年12月14日)

生体内の「流体構造連成」に挑む

私がいま特に力を入れている研究テーマの一つが、生体内の血流解析です。血液を全身に送るポンプの働きをする心臓や、血液を実際に全身に運ぶ血管は、剛性の低い軟らかい構造物です。それらが血液とどのように相互作用するか、血流解析は「流体構造連成」のシミュレーションにふさわしいテーマです。
この研究テーマも、ライス大学在籍中に取り組み始めたものです。ライス大学のあるテキサス州ヒューストンは、医療研究機関や病院が集積する世界3大メディカルセンターとして知られていて、現地の医師らと共同で、研究をスタートさせました。

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写真:滝沢研究室にて。タイフン・テズドゥヤー教授と解析データについて談義

本学に赴任してからも、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST:Core Research for Evolutional Science and Technology)のプログラムで、同じテーマに引き続き取り組んでいます。岡山大学の水藤寛先生や千葉メディカルセンターの植田琢也先生、東京大学の齊藤宣一先生、広島市立大学の増谷佳孝先生らとの、「臨床医療における数理モデリングの新たな展開」という共同研究プロジェクトです。2011年から5箇年でプロジェクトが始まり、成果をまとめた論文が評価され、2015年から2期目のプロジェクトが進行中です。

③Reuter awards2016

写真:トムソン・ロイター「リサーチフロントアワード2016」受賞式

④NISTEP2016

写真:科学技術・学術政策研究所「ナイスステップな研究者2016」選定記念 文部科学大臣表敬訪問

血流解析の研究を始めた狙いは、動脈瘤が血流に与える影響を評価することにありました。動脈瘤は、動脈の血管壁の一部が膨らんで瘤(こぶ)のようになる症状です。そのなかでも、血管の直径が2 mmほどある太い脳動脈や大動脈にできる動脈瘤が、主な研究対象です。このように太い血管では、瘤ができても破裂するリスクは低いのですが、ときおり破裂に至ります。破裂のリスクがある場合は手術による治療が必要になりますが、手術をするかの判断は医師の経験則に頼っているのが現状です。そのため、エビデンスにもとづいた診断方法を確立することが、臨床現場で課題になっていたのです。

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図:大動脈の構造解析(出典:滝沢研究室)

人体ならではの困難とは

血流解析における一番の課題は、血管のモデル化が容易ではないことです。生体内の血管は、血液による圧力を常に受けている状態にあります。血管が破裂するかどうかのリスクを評価するには、血液がない状態の血管の形状や、血管が血液の圧力をどの程度受けているかの情報が必要ですが、それを客観的に示すデータはどこにもありません。さらには、生体は個人差が大きく、標準的な状態を仮定するのもあまり意味がありません。現状は、MRIやCTの撮影画像をもとに血管の形状を決め、さまざまな仮定を置いてシミュレーションを行っています。その結果を、患者さんから得られたデータと見比べ、シミュレーションの精度を高めていくことを目指しています。

精度を高めるためには、心臓内や血管内にある逆流を防ぐ「弁」が、血流に与えている影響を把握することも必要です。これは、CRESTの第2期プロジェクトの重点テーマのひとつです。

弁の影響評価も、流体解析における難問のひとつです。弁が閉じると、それまでひとつにつながっていた空間が二つに分かれ、閉じていた弁が開くと二つだった空間がひとつにつながります。空間の構造に着目する幾何学を「トポロジー(topology)」と呼びますが、弁の開閉は、心臓や血管内の空間のトポロジーを変化させます。従来の流体解析の手法では、こうしたトポロジー変化を考慮に入れるのは困難でした。

そこで私たちは、「ST法」を発展させる形で2つの新たな手法を開発し、それらを融合させて空間変化を伴う流体解析に取り組んでいます。手法のひとつは、トポロジーの変化を表現できる計算上の工夫を盛り込んだ「ST-TC法(Space–Time Topology Change法)」と呼ぶものです。もうひとつの手法は、「ST-SI法(Space–Time Slip Interface法)」と名付けたもので、空間内に仮想的な界面(interface)を設け、弁の動きに合わせ、そこを滑る(slip)するように表現しています。これら2つの手法を組み合わせたものを「ST-SI-TC法」と呼び、血流解析のさらなる精度向上に励んでいます。将来的には、臨床現場へのシミュレーションを導入することを目指しています。

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図:脳動脈瘤のシミュレーション(出典:滝沢研究室)

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図:大動脈弁をおよび大動脈を含む血流解析(出典:滝沢研究室)

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図:大動脈弁モデルの流体解析(出典:滝沢研究室)

次回は、近年、もう一つ力を入れている「自動車のタイヤ周辺の空気の流れの解析」についてお話しいただきます。

☞1回目配信はこちら

プロフィール

takizawasennsei prof滝沢 研二(たきざわ けんじ)

2001年東京工業大学工学部機械宇宙学科卒業、2005年同大学大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻修了、博士(理学)を授与される。2005年より独立行政法人海上技術安全研究所で研究員を、2007年より米国ライス大学でリサーチアソシエイト、リサーチサイティンストを経て、2011年から早稲田大学理工学術院准教授。計算力学を中心に、流体力学、構造力学、生体力学など広範な分野の研究を手がけており、近年は数々の賞を受賞するなど世界的な評価を獲得している。

主な研究業績

論文

  • K. Takizawa, T.E. Tezduyar, T. Terahara, and T. Sasaki, “Heart Valve Flow Computation with the Integrated Space–Time VMS, Slip Interface, Topology Change and Isogeometric Discretization Methods”, Computers & Fluids, published online, DOI: 10.1016/j.compfluid.2016.11.012 (2016)
  • K. Takizawa, “Computational Engineering Analysis with the New-Generation Space–Time Methods”, Computational Mechanics, 54(2014) 193–211, 10.1007/s00466-014-0999-z
  • K. Takizawa, Y. Bazilevs, and T.E. Tezduyar, “Space–Time and ALE-VMS Techniques for Patient-Specific Cardiovascular Fluid–Structure Interaction Modeling”, Archives of Computational Methods in Engineering, 19 (2012) 171–225, 10.1007/s11831-012-9071-3
  • K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Computational Methods for Parachute Fluid–Structure Interactions”, Archives of Computational Methods in Engineering, 19(2012) 125–169, 10.1007/s11831-012-9070-4
  • K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Multiscale Space–Time Fluid–Structure Interaction Techniques”, Computational Mechanics, 48 (2011) 247–267, 10.1007/s00466-011-0571-z

そのほかの論文はこちら

著書

  • Y. Bazilevs, K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Computational Fluid–Structure Interaction: Methods and Applications”, Wiley (2013 年)
  • バズィレヴスユリ (共著),滝沢研二 (共著),テズドゥヤータイフン(共著),“流体-構造連成問題の数値解析”,津川祐美子 (共訳),滝沢研二 (共訳),森北出版(2015年)

主な受賞

  • 2012年Young Investigator Award, International Association for Computational Mechanics
  • 2012年Thomas J.R. Hughes Young Investigator Award, ASME Applied Mechanics Division
  • 2013年Young Investigator Award, Asian Pacific Association for Computational Mechanics
  • 2014年日本機械学会計算力学部門(業績賞)
  • 2014年早稲田大学リサーチアワード (国際研究発信力)
  • 2015年文部科学大臣表彰(若手科学者賞)
  • 2015年Web of Science Highly Cited Researcher (Engineering), Thomson Reuters
  • 2016年Japan Research Front Awards 2016, Thomson Reuters
  • 2016年Web of Science Highly Cited Researcher (Engineering), Thomson Reuters
  • 2016年 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP) 「科学技術への顕著な貢献2016 ナイスステップな研究者」
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