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「特集 Feature」 Vol.14-1 流体と構造物のせめぎあいを解き明かす、シミュレーションの妙技(全3回配信)

流体構造連成応用力学 研究者
滝沢 研二(たきざわ けんじ)/理工学術院 創造理工学部 総合機械工学科

難問「移動境界問題」に挑む

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自然現象は、必ずしも目に見えるわけではありません。それをコンピュータ上で再現し、目で見て分かるようにするのがシミュレーションの醍醐味です。滝沢研二准教授は、気体や液体といった「流体」の動きをシミュレーションで再現し、発表したその成果論文は、世界中で引用されるようになっています。取材では、その滝沢准教授の妙技についてお話を伺いました。

(取材日:2016年12月14日)

流体と構造物の相互作用

私たちは、気体や液体という「流体」に囲まれています。こうした「流体」の物理的特性を解析し、ものづくり、すなわち工学に活かすのが、「流体工学」という機械工学における重要な分野のひとつです。
流体の動きは視覚で捉えることが難しく、解析のためにはコンピュータ(計算機)によるシミュレーションが不可欠です。シミュレーションによる現象解明のことを「計算工学」と言います。私たちは、流体の物理現象をモデル化し、コンピュータを使った数値解析と物理現象の再現を目指します。その結果をものづくりに反映するところまでが、研究の射程に含まれます。

この分野では、「移動境界問題」として知られる難問があります。流体と固体構造物が互いに作用を及ぼし合い、流体と構造物の「境界」が「移動」する物理現象を、どのようにモデル化し数値解析するかという問題です。計算工学には、剛性の高い構造物に力が加わったときの構造物の状態変化や、空気や水の流れなど流体単体の動きを解析する学問分野があります。前者は「構造力学」あるいは「材料力学」と呼ばれる学問分野で、後者が「流体工学(力学)」です。「移動境界問題」は、この両者に跨る知見や技術を必要とするため、精度の高い解析は困難でした。

私はこの「移動境界問題」のなかで、構造物の剛性が低い場合に起こる「流体構造連成」と呼ばれるテーマに主に取り組んでいます。軟らかい構造物が、流体の動きによって変形し、その形状変化が流体の動きに変化を及ぼす。このように相互作用が途切れなく起こる物理現象を、コンピュータ上で精度よく再現することを目指しています。

「流体構造連成」の具体例としてごく身近なものとしては、紙や葉が空気中を舞い落ちる現象や、旗や洗濯物が風に吹かれてはためく現象などが挙げられます。空気の流れによって軟らかい固体が変形を受けつつ、紙や葉、旗などの存在によって空気の流れも影響を受けます。この現象は生体内でも起きています。血液と心臓/血管との関係や、呼気と肺/気管との関係、咀嚼物と胃/食道との関係も、流体と軟らかい構造物が相互作用する「流体構造連成」の好例です。このうち血液の流れについては、後で触れるように、私も力を入れて研究に取り組んでいます。

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写真:滝沢研究室にて。数台のモニターを用いて解析に取り組む

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図:流体解析の例1(出典:滝沢研究室)

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図:流体解析の例2(出典:滝沢研究室)

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図:吹き流し Wind blows a windsock. The half windsock is for visualization only. FSI modeling of a windsock.The main purpose of this computation is to demonstrate a technique for handling a kink propagating from upstream to downstream. See more details T*AFSM.(出典:滝沢研究室)

「流体構造連成」に対しては、これまでにもさまざまなアプローチが試みられてきました。しかし、流体と構造物の境界を精密に表現することが難しかったり、計算を簡単にするため、境界周辺の状態を記述する方法を状況に応じて恣意的に変更したりという制約があり、シミュレーションの精度を高めることが大きな課題でした。

こうした制約・課題を解決する方法を考案したのが、私の共同研究者でもあり、私にとってのメンターでもある米国ライス大学(テキサス州ヒューストン)のタイフン・テズドゥヤー教授です。1992年に、この問題にアプローチする「Space–Time法(ST法)」という定式化手法を論文で発表された、「流体構造連成」研究の先駆者であり世界的権威です。

私は2005年に大学院で博士課程を修了後、2007年から2011年まで、リサーチアソシエイト・リサーチサイエンティストとしてライス大学に赴任していました。その間、テズドゥヤー教授のもとで、「ST法」による「流体構造連成」研究に取り組み、NASA(アメリカ航空宇宙局)との共同研究によるパラシュート降下のシミュレーションにも携わりました。

※Space-Time法(ST法):有限要素法の一種。その最大の特徴は、支配方程式に対して空間・時間方向一体の離散化を行う点にある。それにより、空間の変化という状況を容易にモデル化することができるようになる。

②Takizawa attended the ASME awards ceremony in Houston

米国ヒューストンでおこなわれた2012 ASME AMD YOUNG INVESTIGATOR AWARD授賞式にて。タイフン・テズドゥヤー教授とともに。[ASME:American Society of Mechanical Engineers(アメリカ機械学会)]

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図:火星用パラシュートの解析。圧縮性流れ(出典:滝沢研究室)

パラシュートは、軟らかい布地で空気の流れを受け止め、降下速度を遅くするための道具です。布地の部分は空気の流れで形を変え、それによって空気の流れも変化を受ける、典型的な「流体構造連成」の現象です。NASAとの共同研究では、宇宙空間で役目を終えた宇宙船や計測機器などを大気圏から地上に降下させたり、太陽系惑星にそれらを降下させたりするときに、パラシュートをどう配置すると降下を最も安定させられるかを、シミュレーションによって検討しました。2011年に帰国して本学に赴任してからも、NASAとの共同研究は続いています。

「ST法」の最大の特徴は、時間空間一体のモデル化にあります。自然現象は切れ目なく連続した事象ですが、そのままではコンピュータで取り扱うことができません。そのため、コンピュータで数値解析ができるように、解析対象の事象が起こる三次元空間を複数の格子(メッシュ)に分割してモデル化するのが一般的です。ところがモデル化手法では、たとえば心臓弁や血管中の弁のように、構造物の形状そのものが時間とともに変化するような複雑な現象をうまく取り扱うことができません。先ほど触れたように、境界の精密な表現を放棄したり、境界周辺の格子の状態を恣意的に変更したりしなければならないという制約があるからです。

「ST法」では、三次元空間だけでなく時間方向も格子に分割するのが特徴です。それにより、三次元構造物の形状変化を考慮に入れつつ、境界周辺の格子表現の一貫性と境界面の精密な表現を保ったうえで、流体の動きをシミュレーションすることができます。「ST法」によって、「流体構造連成」へのより高精度なアプローチが可能になったのです。

そのようなアプローチが可能になった今、「生体内の血流解析」の研究に力をいれています。血流解析は、心臓など剛性の低い構造物と血液という液体の相互作用をみるもので、シミュレーションの巧技を試されるテーマだと思います。

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図:格子(メッシュ)移動の状況(出典:滝沢研究室)

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図:大動脈弁をおよび大動脈を含む血流解析の一例(詳しくは第2回で!)(出典:滝沢研究室)

次回は、近年、特に力を入れている「生体内の血流解析」の研究についてお話しいただきます。

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プロフィール

takizawasennsei prof滝沢 研二(たきざわ けんじ)

2001年東京工業大学工学部機械宇宙学科卒業、2005年同大学大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻修了、博士(理学)を授与される。2005年より独立行政法人海上技術安全研究所で研究員を、2007年より米国ライス大学でリサーチアソシエイト、リサーチサイティンストを経て、2011年から早稲田大学理工学術院准教授。計算力学を中心に、流体力学、構造力学、生体力学など広範な分野の研究を手がけており、近年は数々の賞を受賞するなど世界的な評価を獲得している。

主な研究業績

論文

  • K. Takizawa, T.E. Tezduyar, T. Terahara, and T. Sasaki, “Heart Valve Flow Computation with the Integrated Space–Time VMS, Slip Interface, Topology Change and Isogeometric Discretization Methods”, Computers & Fluids, published online, DOI: 10.1016/j.compfluid.2016.11.012 (2016)
  • K. Takizawa, “Computational Engineering Analysis with the New-Generation Space–Time Methods”, Computational Mechanics, 54(2014) 193–211, 10.1007/s00466-014-0999-z
  • K. Takizawa, Y. Bazilevs, and T.E. Tezduyar, “Space–Time and ALE-VMS Techniques for Patient-Specific Cardiovascular Fluid–Structure Interaction Modeling”, Archives of Computational Methods in Engineering, 19 (2012) 171–225, 10.1007/s11831-012-9071-3
  • K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Computational Methods for Parachute Fluid–Structure Interactions”, Archives of Computational Methods in Engineering, 19(2012) 125–169, 10.1007/s11831-012-9070-4
  • K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Multiscale Space–Time Fluid–Structure Interaction Techniques”, Computational Mechanics, 48 (2011) 247–267, 10.1007/s00466-011-0571-z

そのほかの論文はこちら

著書

  • Y. Bazilevs, K. Takizawa, and T.E. Tezduyar, “Computational Fluid–Structure Interaction: Methods and Applications”, Wiley (2013 年)
  • バズィレヴスユリ (共著),滝沢研二 (共著),テズドゥヤータイフン(共著),“流体-構造連成問題の数値解析”,津川祐美子 (共訳),滝沢研二 (共訳),森北出版(2015年)

主な受賞

  • 2012年Young Investigator Award, International Association for Computational Mechanics
  • 2012年Thomas J.R. Hughes Young Investigator Award, ASME Applied Mechanics Division
  • 2013年Young Investigator Award, Asian Pacific Association for Computational Mechanics
  • 2014年日本機械学会計算力学部門(業績賞)
  • 2014年早稲田大学リサーチアワード (国際研究発信力)
  • 2015年文部科学大臣表彰(若手科学者賞)
  • 2015年Web of Science Highly Cited Researcher (Engineering), Thomson Reuters
  • 2016年Japan Research Front Awards 2016, Thomson Reuters
  • 2016年Web of Science Highly Cited Researcher (Engineering), Thomson Reuters
  • 2016年 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP) 「科学技術への顕著な貢献2016 ナイスステップな研究者」
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