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「特集 Feature」 Vol.7-4 科学でメダルは獲れるのか!? 2020年東京オリンピックに科学で挑む!(全4回配信)

運動生理学・バイオメカニクス研究者
川上泰雄(かわかみやすお)/スポーツ科学学術院 スポーツ科学部 スポーツ科学科 教授

バイオメカニクス研究で、「元気な社会」を実現する

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人間の身体運動のメカニズム解明は、トップアスリートのような特別な人間だけではなく、一般人の暮らしを豊かにすることができるでしょうか?最終回は、「科学でメダルを獲る」という大きな目標を追いかけるスポーツ科学学術院 スポーツ科学部 スポーツ科学科 川上泰雄教授のバイオメカニクス研究が、社会に与えている影響とその可能性について考察します。

 

WHYから社会を変える「しゃきしゃき体操」

私が研究者として最も大切にしているのは「WHY」です。たとえ生理学的・力学的にはすぐに解決できない疑問にぶつかっても、「なぜだろう?」という大元の疑問を持ち続ければ、いつかは光が見えるものです。

たとえば私の研究室で開発した、高齢者の下肢の筋力や全身の柔軟性、バランス能力の向上を目的とした「しゃきしゃき体操」は、科学的な知見の積み重ねから生み出された体操です。「しゃきしゃき笑顔で健康」をキャッチフレーズに、2011年に健康都市宣言を行った人口約20万人の西東京市で、ラジオ体操に代わる健康体操として中高齢者を中心に実施されています。別途、子どもバージョンも作成して、子どもからお年寄りまで笑顔で健康、を目指しているところです。

この体操は、そもそも「高齢者の身体の中で特に筋肉が衰えやすいところがあるのはなぜだろう?」というWHYからスタートしました。私たちは高齢者の身体でもっとも衰えやすい筋肉を調べるために、さまざまな計測や研究を行いました。その結果、それは大腿部、つまり、太ももの部位であることが分かりました。次に、なぜ大腿部が特異的に衰えやすいのか、を調べる必要が出てきます。調べた結果、大腿部は日常生活で大きな活動をする機会がほとんどないことが明らかになりました。こうしたことから、大腿部を鍛えるための最適なトレーニング方法が浮かび上がってきます。

さらに、高齢者の身体能力を低下させないために、特定の部分の可動域を確保したり、転倒を予防するために必要なバランスの維持・向上が図れるようなプログラムを体操にしたものが、このしゃきしゃき体操でした。このように、WHYが分かれば、自ずとHOWは見えてくるものです。

現在、私は西東京市の健康応援団の副団長を担っています。西東京市では健康都市として「自らの健康状態を知る」「運動やスポーツのある生活を楽しむ」ことで生涯にわたる健康づくりを進めています。さらに、しゃきしゃき体操が市の医療費削減にどのように貢献するかなどの効果測定を行うことで、市民の健康からつくる自治体の健康を志向することができるでしょう。

また、内閣府の『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)』採択事業である「高齢者に配慮した時間栄養・運動に基づく次世代型食・運動レシピの開発」においても、早稲田大学先進理工学部、電気・情報生命工学科の柴田重信教授、早稲田大学スポーツ科学学術院の樋口満教授らとともに共同研究を行なっています。

この事業は、遺伝子検査によって、人間の「体内時計」のはたらきを調べ、最適な時間栄養と時間運動を提案することを通して、人の健康に貢献するというものです。さらには総合型地域スポーツクラブなどで運動・食事レシピを活用・事業化してもらう、というスキームで運用される予定です。ゆくゆくは、一般家庭から病院・高齢者福祉施設など、社会での活用を通して日本人の健康寿命の延伸に結びつけていきたいと思っています。

 

研究の交流が生み出す閃きが、自身の研究を加速する

研究者は、どれだけ「WHY」を持ち続けていけるかにかかっていると私は思います。

本当に人間の身体は分からないことだらけで、研究はジグソーパズルのようです。ひとつずつピースを埋めていくのですが、全体像はなかなか見えてこない。見えたと思っても間違っていた、ということもざらにあります。それでも、全体像を想像しながら、ピースをつなぎ合わせる作業をこつこつと続けていけることは、研究者としての大きな資質でしょう。また、研究者というのは、そういった根気のいる小さな仕事の積み重ねが許されている職業でもあります。楽しみながら「WHY」に挑戦し続けることが、研究の醍醐味なのかもしれません。

 

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(写真)所沢キャンパス川上研究室の研究装置の前で

 

そうした点から見ると、早稲田大学は、異なる領域間の垣根が低く、自分の研究が応用されることで新しい楽しさが見つかる瞬間に出会えるという恵まれた環境です。たとえば今、ロボットの研究者と、ランニングをするロボットの開発を共同研究で進めています。私たちは人間のランニングデータを活用して「こうすればロボットも走ることができますよ」という提案をし、ロボット研究者は実際にロボットを開発していく。すると、ある時「なるほど、そうやって人間は速く走っているのか」と、ロボットから教わるということが起こるのです。

また、早稲田大学は平成26年度のスーパーグローバル大学創成支援のタイプA(SGU)に採択され、国際的な交流もますます広がってきています。今年の3月には、SGUを利用して韓国の共同研究者を招聘できましたし、カナダに行ってカルガリー大学とオタワ大学で協調関係の模索もできました。海外のいろんな研究者と出会うたびに早稲田大学のスポーツ科学の期待値の高さを再認識しています。現在は、オーストラリアとのネットワークづくりも検討しています。

今後も、スポーツ科学学術院の教員による英語での授業展開や海外での活躍をますます積極化すべきだと感じます。とはいえ、海外ばかりに目を向けていては足元がおろそかになってしまいます。やはり自分の立ち位置を築くことが必要ですね。私の研究手法である、人間の身体のかたちやはたらきの生体計測に磨きをかけることがあってこそ、海外の研究者との付き合いの意義が出てくると思っています。

様々な研究分野にわたる国内外の研究者、そして社会との交流を通して得た閃きが、私自身の研究の可能性をますます広げてくれています。これからも、こうした環境を活用しながら研究し続けていきたいですね。

 

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 プロフィール

プロフィール

川上泰雄(かわかみやすお)

1988年東京大学教育学部体育学・健康教育学科(体育学コース)卒業。1990年東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。1991年東京大学大学院教育学研究科博士後期課程退学。1991年東京大学教養学部保健体育科 助手。1996年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 助手、1999年には助教授に。2003年早稲田大学スポーツ科学部 助教授。2005年早稲田大学スポーツ科学学術院教授、現在に至る。

 

主な業績
  • 2015~,川上筋腱特性開拓プロジェクト, 人間の筋腱特性とその可塑性に関する包括的研究:身体運動能力との関連性からみた効果的なトレーニング方策の確立に向けて(中核研究者課題)
  • 2012~2015,身体運動のメカニズムと適応性の解明:骨格筋・腱動態の生体計測によるアプローチ(科研費課題)
  • 2009~2011,筋肉痛の発生機序と部位特異性:筋肉痛を抑えながら筋力増強効果を高めるトレーニング(科研費課題)

その他の業績→and more

用語解説
  • 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP):総合科学技術・イノベーション会議が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために新たに創設するプログラム(出典:内閣府WEBサイト)。
  • スーパーグローバル大学創成支援:我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学に対し、制度改革と組み合わせ重点支援を行うことを目的とする(出典:日本学術振興会WEBサイト)。
  • しゃきしゃき体操(出典:西東京市ホームページしゃきしゃき体操紹介ページ

リファレンス
  • Ema, R., Wakahara, T., Yanaka, T., Kanehisa, H., Kawakami, Y. Unique muscularity in cyclists’ thigh and trunk: a cross-sectional and longitudinal study. Scand. J. Med. Sci. Sports, 2015. doi: 10.1111/sms.12511.
  • Miyamoto, N., Kawakami, Y. No graduated pressure profile in compression stockings still reduces muscle fatigue. Int. J. Sports Med. 36: 220-225, 2015. doi: 10.1055/s-0034-1390495.
  • Sakaguchi, M., Shimizu, N., Yanai, T., Stefanyshyn, D., Kawakami, Y. Hip rotation angle is associated with frontal plane knee joint mechanics during running. Gait & Posture 41: 557-561, 2015. doi:10.1016/j.gaitpost.2014.12.014
  • Shishida, F., Sakaguchi, M., Sato, T., Kawakami, Y. Technical principles of Atemi-waza in the first technique of the Itsutsu-no-kata in Judo: from a viewpoint of Jujitsu-like Atemi-waza. Sport Science Research 12: 121-136, 2015.
  • Akagi, R., Iwanuma S., Hashizume, S., Kanehisa, H., Fukunaga, T., Kawakami, Y. Determination of contraction-induced changes in elbow flexor cross-sectional area for evaluating muscle size-strength relationship during contraction. J. Strength Cond. Res. 29: 1741-1747, 2015.
  • Wakahara, T., Ema, R., Miyamoto, N., Kawakami. Y. Increase in vastus lateralis aponeurosis width induced by resistance training: implications for a hypertrophic model of pennate muscle. Eur. J. Appl. Physiol. 115: 309-316, 2015.
  • Sugisaki, N., Wakahara, T., Murata, K., Miyamoto, N., Kawakami, Y., Kanehisa, H., Fukunaga, T. Influence of muscle hypertrophy on the moment arm of the triceps brachii muscle. J. Appl. Biomech. 31: 111-116, 2015. doi: 10.1123/jab.2014-0126.
取材場所

取材場所取材は所沢キャンパスにて行われました。ここには人間科学学術院スポーツ科学学術院があります。

 

 

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