金泳三元韓国大統領特別講演会 報告

「金泳三元韓国大統領特別講演会」報告

2009年10月27日、金泳三元韓国大統領が来校し、小野記念講堂で講演されました。

氏は、1994年に本学が名誉博士を贈呈して以来、折に触れ講演等で来校されています。以下、本学アジア研究機構長である奥島孝康法学学術院教授の序文とともに、その全文を掲載します。


民主主義韓国における最初の大統領である金泳三閣下は、国の元首として最初の早稲田大学教授(特命教授)でもあります。閣下は昨年もご来校され、次の講演をしていただきました。「韓国と日本は近くて近い国になりつつあります」とのメッセージを込められた金閣下の想いを重く受け止め、早稲田大学としても、韓国との深い交流のための努力を尽くす覚悟を改めて確認すべきでありましょう。

アジア研究機構長 奥島孝康


鳩山政権への期待 東アジア共同体実現へ向けて

金泳三

本日は由緒正しい名門大学、早稲田大学で講演することができ誠に光栄です。

大韓民国は昨年、建国60周年を迎えました。建国の礎を作った先人の中には、早稲田大学の出身者が多く、大韓民国の第2代副大統領 金性洙先生や、初代国会議長 申翼煕先生も早稲田大学で学ばれました。お二人は、李承晩独裁体制が形成されると、野党の道を歩まれ、私もこの流れを受け継ぎ、韓国の野党を率いて苦難に満ちた民主化闘争を展開しました。私が大韓民国大統領に就任した直後に、早稲田大学より名誉法学博士号を授与されたことは、何か不思議な縁を感じます。

さて、私はまず、韓国国民と共に日本国民にお祝いの言葉と尊敬の意をお贈りします。8月30日に行われた総選挙の結果、日本国民のみなさんは54年ぶりに政権交代を実現させました。鳩山総理は「今回の選挙の勝利者はすべての日本国民である」とおっしゃいましたが、まさに日本の政権交代は日本国民の勝利でした。鳩山政権の誕生は、日本の近現代史において画期的な出来事です。近代日本をつくった明治憲法と第2次世界大戦終戦後の平和憲法の制定に匹敵する大きな事件であり、日本国民の声なき叫び、市民の力で歴史を変えた無血の革命となりました。

鳩山総理は9月16日衆参両院で首相に選出された時、「日本の歴史が変わるという、身震いするような感激と大変重い責任を負った」とおっしゃいましたが、その“これから責任を負う政治が始まる”という宣言に私は深い感銘を受けるとともに、1993年2月25日に私が大韓民国の大統領に就任した時の感激を思い出しました。

その時、32年にわたる軍事統治にピリオドを打ち、祖国に文民民主政府を建てる感激を私はこう表現しました。「本日、私たちは、あんなに切実に願った文民民主主義の時代を切り開くため、この場に集まりました。本日を迎えるため30年の歳月を待たなければなりませんでした。ついに国民による国民の政府をこの地に建てました。私は本日、あふれる感慨を抑えることができません。」

早稲田大学の学生のみなさん

日本は変わり始めました。若くなり始めました。偉大な変化が始まっています。全ての古いものから新しいものへ、官僚政治から国民が主人公になる政治へ、先を行く国から尊敬される国へ、欧米重視の国からアジア重視の国へ、格差社会から友愛社会へ、中央集権から地方分権へ、一党支配体制力から国民政権時代へ、偉大な変化が始まりました。

私は鳩山総理が高く大きい目標を掲げ、国民をリードしていこうとする姿勢を尊敬し、総理の強調する「友愛精神」に深い共感を抱いています。国内的には、違いを認めて尊重し、助け合う共同体的な関係を目指し、対外的には自立と共存の原理に基づいた友愛精神の上で、平和で繁栄する東アジア共同体を構築していかなければならないという主張は確かに魅力的です。人間の尊厳を守って、ともに暮らしていく未来に向け献身するという日本の政治的方向転換は、日本はもちろん、世界に大きな変化をもたらすことと私は信じております。私は特に、「日本はこれ以上民族主義の虜にならず、歴史をしっかり直視する勇気を持っている」という鳩山総理の発言に対し、心より敬意を表したいと思います。

過去を直視できるというのは大変な勇気で、誰もができることではありませんが、本当に日本が過去を直視できるならば、韓国をはじめアジア諸国とその国民は温かい隣人となり、共同体を構築することができるでしょう。その時はもう、韓国と日本の間、アジア諸国と日本の間に、障害となるものはないでしょう。鳩山総理は5月に民主党代表に選ばれた後、韓国を真っ先に訪問され、8月30日衆議院総選挙で勝利したときも、鳩山総理に最初に電話した外国の首脳は、他ならぬ韓国の大統領でした。さらに鳩山総理が就任後、最初に訪れた国も韓国でした。もう緯固と日本は近くて近い国になりつつあります。

私は昨年、早稲田大学でこう言いました。「植民地時代に生まれ、子どもの頃から日本を憎んで育ちましたが、私が死ぬときは友人になった日本を心より愛することが出来ることを願っております。」今、その願いが叶おうとしています。

韓国と日本両国はOECD加盟国となり、アジアで国民所得2万ドルを達成し、オリンピック開催国にもなりました。また私が大統領在任中に故橋本元総理とともに開催を決定した、2002サッカーワールドカップも無事共同開催することも出来ました。私は、福岡と釜山で共同開催する「北東アジアオリンピック」という一つの構想を持っておりますが、それはつまり日本と韓国が先ず手を携えて、東アジア共同体に向け進むことを今から始めるべきだということであり、そのことはまさに日本の政権交代に期待することです。

最後になりましたが、与謝蕪村の俳句をもって私の挨拶に代えさせていただきます。

二もとの
梅に遅速を
愛すかな

ご清聴ありがとうございました。

(2009年10月27日小野記念講堂)

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