2014年度 学部卒業式、芸術学校卒業式ならびに大学院学位授与式 鎌田総長による式辞

2014年度 学部卒業式、芸術学校卒業式ならびに大学院学位授与式 式辞

皆さん、ご卒業、おめでとうございます。

皆さんの新たな門出に対し、早稲田大学を代表して、心からのお祝いを申し上げるとともに、長い間、物心両面から卒業生・修了生の皆さんを支えてこられたご家族・ご友人の皆さまに、衷心よりお慶びを申し上げます。

本年の学部卒業式・大学院学位授与式を迎えられたのは、学部卒業者9,147名、芸術学校卒業者49名、大学院修士課程修了者2,171名、大学院専門職学位課程修了者680名、博士学位受領者198名(課程による博士179名、論文による博士19名)、合計12,245名の多数にのぼります。
そのうち、学士270名、修士393名、専門職学位40名、博士54名、合計757名の方が海外からの留学生です。

学部卒業生の大部分が入学された、2011年には、本学は、4月入学式を行いませんでした。
2011年3月11日の東日本大震災と原子力発電所事故の被災者に思いをいたすとともに、余震が続く状況の下で多くの方々が一堂に会することによる危険を回避し、電力や公共交通機関に対する負荷を可能な限り軽減しなければならないという社会的責任を果たす必要があり、また、数多くの留学生の来日日程を早期に確定させる必要もあることから、本学では、いち早く、卒業式および入学式を中止し、授業の開始も1ヶ月延期することを決定いたしました。その結果、2011年4月入学者の皆さまにとっては、この卒業式が記念会堂における最初の式典ということになりましたが、この記念会堂も、本年8月には改築のために取り壊す予定となっていますので、5年後に予定されているホームカミングデーには新たな記念会堂で再会することになるものと思います。

ところで、東日本大震災は、我々に多くの気づきと教訓を与えました。

ひとつには、福島第一原子力発電所の事故やその後の情報の混乱などによって科学技術や研究者に対する信頼が揺らいだことに対する反省があります。学術会議や科学技術・学術審議会においても、東日本大震災を踏まえた科学技術や学術の在り方について真摯な議論を重ねてまいりました。本学においても、今般、『震災後に考える-東日本大震災と向き合う92の分析と提言』と題する1024ページに及ぶ大著を公刊いたしました。本学教職員の復興・防災等に係る研究やボランティア活動の成果を記した92の論文が掲載されていますので、是非ご参照下さい。

また、この震災を通じて、私たちは、人の力、人の絆の力の重要性を改めて強く感じました。
未曾有の大震災にも拘わらず、被災者の方々の不屈の精神、規律正しさ、そして国内外の人々の助け合いの精神が世界の人々の賞賛を受けたことは、皆さまよくご存じのことと思います。
本学校友の中でも、たとえば、岩手県陸前高田市の石木幹人・県立高田病院長は、本学の理工学部電気通信学科を卒業した後、東北大学医学部へ進んだ方ですが、病院が最上階まで津波に襲われる中、寝たきりの患者を背負って、近隣住民100人以上とともに建物の屋上に避難し、翌日になってようやくヘリコプターで救出されました。
石木さんは、家や職場を失っただけでなく、奥様の行方がわからないままでありましたが、救出後直ちに避難所で診療活動を始めました。震災から3週間後に奥様のご遺体が見つかりますが、それでも石木さんは気持ちを奮い立たせ、診療システムの再構築に全力を尽くされ、見事に県立高田病院を全面再開させました。
「多くの人が家や家族を失った。それでも、みんな生きていかなければなりません」という石木さんの言葉が、私たちの胸に重く響きました。

また、宮城県女川町、佐藤水産の佐藤充(さとう・みつる)専務は、本学法学部の1978年卒業生ですが、震災時に、大連から来ていた20人ほどの中国人研修生全員を高台に避難させた後に、自分の家族を探すため宿舎に引き返し、研修生の目の前で津波にのみ込まれてしまいました。この出来事は、中国国営の新華社通信で大きな感動をもって伝えられ、温家宝首相が現地を訪れて謝意を表されましたし、大連市では佐藤さんの家族と会社を支援するため、佐藤充基金会が設立されました。佐藤さんのご遺志は日中友好のかけ橋として確かに受け継がれ、大きく花開いているのです。

本学の学生諸君も、教職員とともに、募金活動や、がれきの撤去、児童・生徒へのスポーツ・音楽・学習の指導、コミュニティの再生や地場産業の復興などに積極的に協力し続けています。発災から復興の過程を直接に体験した皆さまが、その体験に基づいて、現実の出来事とさまざまな思いを次の世代に語り継いでいっていただきたいと願っています。

皆さまもよくご存じのように、早稲田大学の教旨には、「学問の独立」「学問の活用」と並んで、「模範国民の造就」という理念が謳われています。
「模範国民」というと国家主義的な臭いを感じさせますので、最近では「地球市民」あるいは「世界市民」と読み替えることが多いですが、教旨の起草委員の一人であった高田早苗学長は、これを「ジェントルマン」に相当するものとしています。
大隈重信は、この教旨を公表した際に、「模範国民の造就」という理念の意味するところについて、次のような説明をしています。
「教育は人格の養成を根本とする。ただ専門知識を吸収するのみに汲々として、この点を忘れると、人間は利己的になる。進んで国と世界のために尽くすという犠牲的精神はだんだんと衰えてくるのである。これが文明の恐るべき弊害である。この弊害を避けて、その真の利を収めるのが模範国民たる者の責任である。これが早稲田大学の教旨の最も根本をなす要点である。この理想を実現するためには、われわれは終身努力しなければならぬ。」と。

石木さんも、佐藤さんも、そして被災地域の復興等に尽力してきた本学の学生諸君も、皆この理念を見事に体現していると思います。

早稲田大学の第1回卒業式は、1884年7月に、福沢諭吉、穂積陳重、尾崎行雄、前島密など各界の名士数十名を来賓に迎えて盛大に行われましたが、このときの卒業生は、政治経済学科4名、法律学科7名のわずか11名に過ぎませんでした。

それから130年余を経た今日、12,245名もの卒業生・修了生を送り出す大規模大学に発展いたしました。早稲田大学が、このように大きく発展するについては、早稲田の誇る60万校友が、世界中の至る所で、また、ありとあらゆる分野で目覚ましい活躍をしてきたことが大きく寄与しています。それらの校友たちは、本学出身の7名の内閣総理大臣を初めとして政財界の第1線で活躍している皆さんも、石木さん、佐藤さん、さらには25日第2回目の卒業式でご挨拶をいただいた人間国宝・中村吉右衛門丈も、大学で学んだこと・覚えたことを小出しにすることで高い評価を得たわけではありません。大学を出た後に、あるいは大学に入る前から、不断の学びと精進を重ねることによって自らの能力・人間力を伸ばしていったものと思います。
その上、今日の社会は高度の知識基盤社会となっており、質・量ともに高度の知識・技能・情報処理能力が必要とされていますので、不断に新たな知見を獲得し、自らの能力の限界を次々と突破していくことが求められています。こうした事情を背景として、政府の教育再生実行会議においても、一昨年5月の大学改革に係る第3次提言に引き続き、本年3月のこれからの教育の在り方に係る第6次提言においても、「社会に出た後も学び続けること」の重要性を強調しています。

大隈重信も、卒業生に対する祝辞の中で、繰り返し、社会に出た後に失敗をしても、失敗をしても、勇気をもって経験を重ね続けること、そして、学問を通じて知恵を磨くことの重要性を説いています。ここに、大隈老侯が1909年(明治42年)に卒業生に向かって述べた演説の一部を引用して、皆さんの新たな旅立ちへのはなむけの辞に代えたいと思います。100年以上前の演説ではありますが、今でも新鮮さを失っていないと思われるからです。
「腕力は有限のものである、智は無限である、殆んど絶対無限である、此無限の智恵は何から生ずるかと云ふと、何としても学問が必要である、……凡て物は研究して而して段々進んで来る、我輩老いたりと雖も尚ほ且つ研究的態度を執って居る、凡て物に触れる度毎に始終研究すると自から道理が分って来る、一日も怠ることはならぬ、其志さへあれば如何なる困難にも打勝つことが出来る、……常に困難に試験されて其試験に及第する人間でなければ本当の人間にはなれぬ、……諸君は之れから四囲の境遇が学校とは違うのである。社会の状態は学校とは違うのである、殊に最早日本も島国的ではない、世界的に働かなければならぬ、……こゝに於て之れ迄より中々大なる問題が起るのである、種々の予期すべからざる困難が度々来るのである、其時に始めて人間の智力が之れを解決する、それ故に常に研究的態度を以て、常に学問して死に至って止むと云ふことでなければいかね、此ことを学校を卒業するに当って諸君の脳裡に深き印象を以て刻みつけて、終身忘れぬと云ふことが必らず諸君の大なる希望を充たす基であると思ふ、又それぞれ諸君の父兄に与へられたる所の恩儀に報ゆる所以となる、又早稲田大学の模範的国民を拵へると云ふ大なる理想に副う所以であると信ずるのであります。」

卒業生の皆さんがこれからも不断の学びを続けることによって洋々たる前途を切り拓くことを祈念するとともに、早稲田大学も「何時でも必要なときに必要なことを学びに帰ってくることのできる大学、帰ってきたくなる大学、帰ってくるに値する大学」になるべく、さらなる改革を進めていくことをお約束申し上げて、お祝いと激励のご挨拶とさせていただきます。

皆さん、ご卒業、おめでとうございます。

早稲田大学 総長鎌田 薫

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