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AI時代の法律家に必要なのは、”複眼的思考”——早稲田大学法学部、大日本印刷株式会社と提携し「AIと法」を開講

AI時代の法律家に必要なのは、”複眼的思考”——早稲田大学法学部、大日本印刷株式会社と提携し「AIと法」を開講
Posted
Thu, 16 Apr 2026

早稲田大学法学部は2026年4月より、大日本印刷株式会社(以下、DNP)からのご支援の下、提携講座「AIと法」を開講します。
新たに開講するにあたり、本提携講座をコーディネートされている担当教員の下山 憲治教授と内藤 識講師へインタビューを行いました。


<写真左側> 下山 憲治(法学学術院 教授)
<写真右側> 内藤 識(法学学術院 講師(任期付))
※本インタビュー記事の掲載写真は、先端科学技術と法コースの教員から提供された写真に対し、古典的手法による背景差し替え等の画像編集を行ったものです。

まず、今回の講座開講の背景を教えてください。

下山教授
2022年11月にChatGPTが一般的にリリースされて以来、生成AIは急速に社会へ浸透し、民間企業や公的機関においてもAIを業務に活用する動きが加速してきています。今後もこの流れがさらに拡大していくと思われます。しかしその一方で、例えば、既存の画像をAIが学習して生成したコンテンツの著作権帰属、購買履歴などを基にアルゴリズムが個人の属性を自動的に推定するプロファイリング、大規模言語モデルに入力された内容についての個人データ・プライバシーの保護、そして自動運転などでAIの出力をベースにした判断に誤りが生じた際の責任の所在など、従来の法制度では想定されていなかった法的課題があることが次々と明らかになっています。
これらは、本学部がディプロマ・ポリシーに掲げる「新たに生起する問題を発見し、法的に適切に解決する力」や「将来に向けた適正な法的ルールを創造する力」が、まさに問われる課題です。法学部として、こうした技術の進展とそれによる社会の変化に正面から向き合う教育が必要だと強く感じていました。

DNPとの提携に至った経緯を教えてください。

内藤講師
DNPさまは、企業として最前線でAIの活用を模索し、現場ならではの課題や現場で獲得された知見を豊富にお持ちです。大学が持つ理論・学術的な視点と、DNPが持っている実務・ビジネスの視点を交差させ、より実践的な学びを学生に提供できると考えました。双方の強みが相乗効果を起こし、より大きな価値を生み出せると感じています。

講座の最大の特長は何でしょうか。

下山教授
大きく二つあります。
一つ目は「文理融合」です。法学を専攻する学生がAIに関する法的課題に取り組むためには、ニューラルネットワークはじめとするアルゴリズムなどの理系的基礎知識が不可欠です。そこで、第一線で活躍される早稲田大学理工学術院やデータ科学センター、他大学の理工系教員も招聘し、技術的背景をしっかり学ぶことができるように設計しています。
二つ目は「理論と実務の架橋」です。法学における既存の議論を深めることと、企業や法律実務担当者から直接お話を伺い、企業等によるAI活用の最前線や悩み、課題とを結びつけることができる構成にしています。

企業や法律実務担当者を講師にお招きする意図は何ですか。

内藤講師
教科書や論文を読むだけでは見えてこない「現場のリアルや最前線」を学生に届けたいからです。AIとマーケティング、AIと法務、AIと人事など、具体的なビジネスシーンを題材にすることで、学生が法的課題のイメージを持ちやすくなると考えています。解決策を法的視点から探る力を、実例を通じて磨いてほしいと思っています。各界をけん引されている講師の方々からお話を伺うことで、本学部がディプロマ・ポリシーとして掲げる「事実を的確に把握し、法的に適切に評価・構成する力」を、実務の文脈で鍛えることができる貴重な機会を提供できると思っております。

担当の下山教授、内藤講師から、学生へのメッセージをお願いします。

下山教授
法律家、理工系の研究者、ビジネスの現場にいる方々は同じ問いをそれぞれ別の場で、違う視点や価値観、基準でとらえることが少なくありません。しかし、AIという共通テーマに向き合うとき、「誰が責任を負うべきか」「何が公正といえるのか」という問題意識を抱くようになってきています。本講座では、こうした多角的な視点が交差する場を意図的につくることで、一つの問題を複眼的に捉える力を身につけてほしいと思っています。

内藤講師
AIが突きつける問いの多くは、法学が長きにわたって向き合ってきた古典的な問いへと立ち返ります。本講座を最先端の技術や規制動向を学びながら、そうした根本的な問いを共に考える場にしたいと考えています。

どのような学生に受講してほしいですか。

下山教授
本講座は、法学部3年生以上を対象としております。「将来、企業法務やテクノロジー分野で働きたい」と考えている学生はもちろんのこと、AIや先端技術に漠然とした興味を持っている学生にもぜひ受講してほしいです。法律の知識だけでなく、技術と社会の両方を含めて見渡せることは、これからの時代に最も求められる資質の1つであると考えております。

2022年に開設した「先端科学技術と法コース」との関係は?

内藤講師
「先端科学技術と法コース」は、先端技術を社会実装する際に生じる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)にリーガル・マインドで取り組むリーダー育成を目的に設けたコースです。そのため、本コースの所属する教員による講義や演習では、いわゆる理系的なテーマに触れることも多くありました。
例えば、肥塚先生の授業では、自動運転における民事上の責任をテーマにすることがあったため、理解を深めるために、自動運転を支えるAIの仕組みの回を1回設定していますし、メタバースの授業においても、AIアバターがテーマになっています。平井先生の授業では、人工知能が引き起こす哲学的問題を考える際、ニューラルネットワーク等の近年の人工知能技術がどのような仕組みで成り立っているのかを大まかにでも知る必要が生じるとの認識のもと、ブール代数と記号論理、線形代数、微分、ベクトル解析などについて、それぞれ簡略にとのことですが、触れたことがあるそうです。原田先生の授業では、医療や創薬分野におけるAI、ゲノム情報に関わる民事上の課題や個人情報保護が扱われたと伺っております。
生成AIの普及により、AIと法に関する問題が身近なものとして意識されるようになってきました。そこで今回の「AIと法」では、本コースのこれまでの取り組みを基礎におきつつ、AIの利用によって生じる具体的な問題についてビジネスを中心として取り上げ、より実践的で学際的な内容を扱う講座としました。

今後の展望をお聞かせください。

下山教授
国内外の技術・規制動向を踏まえ、次年度以降も内容を継続的にアップデートしていきます。また、研究と教育は「車の両輪」であると考えております。そこで、早稲田大学の「先端技術の法・倫理研究所」において「AIと法」に関する研究会の立ち上げも視野に入れております。そして、学内外の研究者・実務家と連携しながら、AIガバナンスや権利保障に関する研究を推進し、その成果を広く社会に発信していきたいと思っております。

(2026年4月)

シラバス紹介

提携講座「AIと法」(2026年度春学期シラバス)
「AIと法」は2026年4月16日(木)より、全14回の講義として開講予定。