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他者の思考に思いを馳せる 判例はまるで”台本”のよう
- Posted
- Thu, 09 Jul 2026
教員からのメッセージ
石田 剛 教授
専門は民法。主にドイツ法を比較法の対象としながら、特にお金・土地・建物など「財産」をめぐるトラブル全般を研究している。流行りものに鈍感だが、歴史好きが高じて「その根源にあるもの」への興味関心が強い。

法律学を学ぶことは、役者が舞台を重ねるなかで、さまざまな役柄を身につけていく営みに少し似ています。そう言うと、意外に思われるかもしれません。
私の専門である民法は、例えば通販サイトやコンビニで買い物をする、電車に乗る、部屋を借りるといった、日常のささやかな場面に広く関わっています。こうした行為の背後にはたいていの場合契約があり、その前提となる財産や家族に関する基本的なルールを定めているのが民法です。
判例に目を向けると、そこには人と人との“言い分”がぶつかり合う、生々しい人間ドラマがあります。まさに、事実は小説よりも奇なりです。ただし大切なのは、裁判所が下した判断は唯一の正解ではなく、数ある選択肢の一つに過ぎないという点です。授業やゼミでは、裁判所の解釈さえも一度疑い、法律の原理原則を踏まえながら「ほかにどのような解釈があり得たのか」を徹底的に探っていきます。特に法律学は、こうした対立を言語によって調整し、議論や対話を通じてより望ましい方向へ導いていく営みです。その精緻なプロセスは、社会のなかで直面するあらゆる“壁”に向き合う力を育てていきます。そうした積み重ねによって、ひとつの問題に対して複数の筋道を論理立てて描けるようになっていきます。同時に、当事者の感情や背景にも目が向くようになり、多角的な想像力が磨かれていきます。判例を通してさまざまな感情や思考の疑似体験を重ねることで、他者の考えを読み解き、自分の意見を秩序立って伝える。その力は、将来どのような進路へ進もうと支えになるはずです。
初めて法律を体系的に学ぶのですから、最初は戸惑うかもしれません。私自身がそうでした。しかし、断片的な知識がつながって景色が変わる瞬間は訪れるものです。その感覚を、味わってほしいと思っています。
(2026年6月時点の情報です)