国際法の幅の広さ、懐の深さを、大学院の多角的な講義で実感
公法学専攻 博士後期課程 2021年4月入学 長澤 宏さん
法の背景に関心が高まり進学を選択
法学部に入った時点では漠然と法曹の道に興味を持っていました。法律を学ぶにつれて「そもそも法はなぜこのようになっているのか」「法の限界はどこにあるのか」といった背景の方により関心が強まり、こうした問いを追究したいと大学院に進学しました。学部の国際法ゼミでお世話になった古谷修一先生に、大学院でも研究指導を受けています。修士に進む段階から博士後期課程への進学を視野に入れていたため、古谷先生からは、博士論文への発展性を考えて修士論文のテーマを選ぶよう助言をいただきました。
修士論文は「公的資格無関係の原則」をテーマに執筆しました。慣習国際法上、国家元首や外交官は在任期間中に罪を犯しても、刑事訴追を免除されることが認められています。しかし第二次大戦終結以降、公的資格に関わらず、国際犯罪を行った者に対して刑事責任を追及する国際社会の潮流があります。修士論文では1945年から現在に至る国際法の変化の流れを動的に捉え、大局的な視野で描き出すことに努めました。その過程で、国際犯罪という重大な犯罪を前にして個人と国家を峻別すること自体に問題意識を持つようになり、博士後期課程の現在は「個人責任の理論と現実」をテーマに研究を進めています。
オランダ留学で得た視点も活かし論文執筆を完遂したい
早稲田の法学研究科は法律系大学院として国内最大規模で、専修科目の「国際法研究」一つをとっても、複数の先生方による講義が開講されています。そのため各先生方の異なる考え方やアプローチに触れ、学部時代には見えていなかった国際法という法分野の幅の広さや懐の深さを知ることができました。そうした多様な視点や意見を踏まえた上で、自分はどう考えるのか、その理由は何なのかを明確に表明することが求められる点が、学部までとの大きな違いだと感じます。さらに、博士課程での研究はもう一段進み、国際法の全体像や可能性といった哲学的ともいえる観点を提供しながら、より未知の課題を指摘するものです。その道のりは困難を伴いますが、人類の知が蓄積された国際法という法的枠組みの研究に、自分が参加できることに喜びを覚えます。
博士3年目に半年間、オランダのアムステルダム大学に留学し、国際法への考え方や研究スタンスの違いを目の当たりにしたことも貴重な経験になりました。オランダの研究者の「現実的な問題をどう解決するか」「いかに読み手を意識して論を展開するか」という視点を取り入れつつ、日本ならではの緻密な論理展開にも努めながら、博士論文をまとめる考えです。世界各地で戦火が続く国際情勢を受け、国際法に対する世の中の興味関心はかつてないほど高まっていると感じます。国際法の専門家として、法に照らした現状の解説や議論の整理を通して、人々が国際社会をよりよく知るための手助けをできればと考えています。
進学を検討する皆さんへのメッセージ
大学院での研究とは、「なぜ」を考え続けることだと言えます。完全な回答を出せなくても、問題を分析し試行錯誤を重ねながら「自分なりにこう考える」というアウトプットを繰り返していく営みが研究であり、追究したい問いを見失わずに持ち続けられる人が研究に向いていると思います。大学院、特に博士課程への進学は人生の大きな決断ですが、一生のうち数年を費やして一つの問題をとことん考え続ける、その時間はかけがえのないものだと感じています。
法学研究科 2024年3月インタビュー
インタビューに答えてくださった長澤さん、ありがとうございました。