Graduate School of Law早稲田大学 大学院法学研究科

【社会人研究課題】早稲田大学法学研究科で海法を研究をする社会人学生

早稲田大学法学研究科で海法を研究をする社会人学生
-社会人研究課題「国際海事問題の実務と法」-

「国際海事問題の実務と法」は、早稲田大学大学院法学研究科が社会人を対象にした修士課程プログラムで設けている研究課題のひとつ。日本では数少ない海法を専門に研究するもので、これまで海運業界をはじめ、関連業界や海事関連団体など幅広い分野の社会人が受講しています。

島国である日本で海法が持つ意味や、社会人が学ぶ価値などについて、教員と受講生にお話を伺いました。

箱井 崇史 <写真右側>
早稲田大学法学学術院 教授
法学研究科修士課程『国際海事問題の実務と法』では、「商法研究I、II」および「商法特殊研究(2)I、II」を担当。

伊藤 洋平 <写真左側>
受講生
弁護士(専門:海事事件)
2018年3月早稲田大学法学研究科修士課程『国際海事問題の実務と法』を修了。
2022年4月現在、同研究科博士後期課程に在籍。(2023年3月、博士学位取得)

室屋 聖子 <写真中央>
受講生
2022年4月現在、有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部に勤務。
修了時は、海事コンサルティング会社に在籍。
2021年3月早稲田大学法学研究科修士課程『国際海事問題の実務と法』を修了。

学部生時代には学べない海法

-社会人大学院生が、今、国際海事問題を研究する意味とは

島国日本では多くの企業は海法に関わっている

箱井:四方を海に囲まれた日本では、海法は非常に重要な法領域であり、商法というくくりではとらえきれないところがあります。「総合海法」と銘打っているのは、そうした事情があるからです。保険において、船舶に関連するものは全体の数パーセントにすぎないのですが、銀行や商社をはじめ、びっくりするほど多くの企業や人がかかわっていて、日本経済の屋台骨を支えていることがわかります。にもかかわらず、学部で民法から順番に勉強してくると、なかなか海法まで行き着かないし、司法試験科目からも外れているので、社会人を対象にした修士課程で扱いたいと思っていました。

室屋:輸出入のトン数ベースでいうと、99.6%前後を船舶で運んでいるので、海法は日本の死活を左右する非常に重要な分野といえます。

船舶輸送と海法の重要性

箱井:あらゆるものの運搬に船舶は関係します。今後は船舶の自動運航が普及していくと想定されているので、それに対応した国内の法整備や国際的なルールづくりも必要になってくると思います。

室屋:政府は「フェーズ2自動運航船(※陸上からの操船やAI等による行動提案で、最終的な意思決定者である船員をサポートする船舶)」を2025年までに実用化することを当面の目標として掲げています。2025年に予定されている大阪万博で、自動運航の技術がお披露目されることになっていて、社会実装に向けて技術の関係者が今頑張っているところです。

社会人入学制度の開始

箱井:「国際海事問題の実務と法」、通称「海法コース」を始める際には、「受講生が1人でも来たら祝杯だ」などと言われましたが(笑)、初年度は10名の受講生がありました。その後も毎年5名程度の受講生があり、2022年度の14期生も5名が入学する予定です。受講生は海運業界をはじめ、保険、銀行、商社など、さまざまな業界にわたっていて、伊藤さんを含めて、海事専門弁護士事務所所属の弁護士の受講も少なくありません。

室屋:海事のオールスターのような感じで(笑)、本当に面白いと思います。

実際の授業について

-社会人を対象とした授業とはどのようなものか

平日は午後6時15分から

箱井:授業は午後6時15分スタートなので、仕事が忙しい人の出席は難しいかもしれないと当初は案じていましたが、働き方改革があったり、勤務先の理解が進んだりで、現在はみなさん出席できているようです。単位は1年目で22単位程度の取得が目安で、1週間に土曜日を含めて最大4日の出席を想定しています。2年目は週に2日程度の出席で、修士論文に取り組むことを考えています。最初は少し大変だと思いますが、そこは何とか頑張ってほしいですね。

室屋:私の場合、当時の職場から早稲田大学まで移動に約45分かかるので、午後6時15分からの授業がある日は、午後5時の終業と同時に退勤する許可を取っていました。

議論によって、意見や考えを積み重ねる

箱井:実際の授業は、発表者の意見に対してブレインストーミングのような議論を行うというスタイルで進めていきます。授業中に議論が出席者の納得を得る結論にたどり着かないときは、オンラインで議論の続きを行うこともあります。

室屋:受講生はそれぞれの業界に詳しい人ばかりなので、議論に関する補足資料などをお持ちのことも多く、それを授業の後にメールで流していただけてとても助かりました。

伊藤:実際の授業では、箱井先生と意見が分かれることもありましたが、どこまでが共通の理解であり、どこから意見が分かれるのかということを確認しながら議論を進めるので、それぞれの意見や考えといったものを積み上げていくのが授業という印象があります。

箱井:立場を超えて議論することを大切にしています。ただ、議論を続けていると喉が渇いて、ビールが飲みたくなってね(笑)。土曜の午後など、場所を変えて議論の続きということもあります(笑)。

授業以外での課外活動も

箱井:受講生は仕事で日常的に英語を使っている人がほとんどなので、修士論文は、イギリスやアメリカの文献などを使って、比較法研究に挑戦するという学生も増えています。また、海法コースでは、早稲田大学の海法研究所とタイアップして国際交流も進めています。2008年には日中韓の「東アジア海法フォーラム」を設立し、3カ国が持ち回りで毎年シンポジウムを実施しています。伊藤さんも参加した経験がありますね。

伊藤:韓国の高麗大学でのシンポジウムで、日本の債権法改正、特に消滅時効に関する改正が海事実務に与える影響について発表しました。修士論文は外国法を対象とせずに日本法で書き上げたのですが、博士課程では主としてアメリカ法の研究を行っています。仕事ではイギリス法やアメリカ法をかじることはあっても、体系的に勉強することはありません。しかし、外国法をテーマに論文を書くには、その国の法律や判例はもちろん、司法制度や国の成り立ちにまで遡って学ぶ必要があります。そういう作業は仕事では得られない経験でした。

入学のきっかけ、仕事への影響

-早稲田大学大学院の社会人入学制度を選択した理由

日常の業務で海法を体系的に学ぶ必要性を感じ、社会人入学を決意

伊藤:私は海事法律事務所に勤務をしていますが、海事事件を専門にしていても、どうしても強い分野とそうでない分野ができてしまいます。社会人入学を決めたのは、弁護士登録をしてちょうど10年が経過し、自分は何を知っていて、何を知らないのかということが見えてきたことから、海法について幅広く体系的に学びたいと思ったことがきっかけです。

室屋:社会人入学のきっかけになったのは、2008年に海事コンサルティング会社に転職したことから、海事・海運業界を体系的に把握することが求められたことです。早稲田大学に海法関係の社会人入学コースができることも知っていたのですが、当時の私は九州に住んでいて通うことは叶いませんでした。ところが2017年に関東に転勤になって、2018年の商法改正に伴う運送約款改正に関する検討会にアサインされ、また、国際海上物品運送法という非常に特殊な法律に興味を引かれたこともあって、入学するなら今かなと決めました。検討会の座長が社会人コースでも教鞭を執っておられる弁護士の雨宮正啓先生で、ご縁を感じたことも入学の動機になっています。

-仕事への影響、研究と仕事との両立

伊藤:大学院で学んだことは、仕事にももちろん役立っています。たとえば、アメリカには連邦裁判所と各州の裁判所があり、このふたつの裁判所の体系が非常に複雑にからんでいます。このようなアメリカの司法制度についての理解が深まったことは、日常業務においても少なからず役に立っています。

室屋:私の場合は、大学院で学ぶことによって、業務の上でもメリットがあると会社にプレゼンテーションし、当時の会社と上司の理解を得て入学しました。入学してからは、箱井先生をはじめ執筆のサポート、査読をしてくださる先生にも助けていただきました。出張など業務の都合で、どうしても授業を休まざるを得ないことがあり、そうしたときにも発表の順序を配慮していただきました。また、修士論文の執筆では、年末の業務繁忙期と執筆作業の追い込み時期が重なったことから、年末年始の休暇をフルに使って仕上げたことも記憶に残っています。

箱井:そういう受講生が毎年のようにいて、私には本当に正月がありません(笑)。

早稲田大学法学研究科での高度で充実した「学び」

-早稲田大学で学ぶ魅力やメリット

最先端の知識研究に精通する教員、充実した設備

伊藤:早稲田大学は教授や講師陣が充実していて、海法以外にも取りたい講座が少なくありません。私は、学生時代にしっかりと勉強できなかった倒産法を2年間学びました。倒産法の授業は、夜間や土曜日に行われる海法の授業と違って、平日の昼間に行われるので、事務所に相談して、昼食後に事務所を出て、大学で学んで、また事務所に戻るという生活を2年間送りました。海事関係でも当然倒産事件はあるので、教わった先生方に、業務でまたお世話になることもあるかもしれないと考えています。

室屋:私にとってうれしくて楽しかったのは、研究者しか入れない大学の図書館の書庫に通うことができたことです。社会人コースへの入学は、体力的な負荷はありますが、それを上回る新しい知見を得ることができ、知的好奇心を満たす非常に充実した時間を過ごすことができると思います。

伊藤:図書館といえば、高田早苗研究図書館は感動を覚えますね。圧倒的な蔵書からは、学問の大きさや広がり、携わっている人の多さといったものを実感することができます。学問は自分が目立ちたいためや、名声を得たいために行うものではなく、研究者が知見をつないでいく駅伝のようなものであることを、高田早苗研究図書館は教えてくれます。

電子資料も充実

伊藤:それとともに早稲田大学の研究環境が優れている点として、電子資料の充実が挙げられます。1800年代の英米の判例も、サイテーション(判例引用番号)を入れるとすぐに出てきます。そのおかげで、20年前、30年前の先生方が取り上げていない判例や論文も数多く論文に盛り込むことができました。しかし、それは別に私が優れているからではなく、かつてはなかなか手に入らなかった情報が簡単に手に入るような時代になったからにすぎません。電子資料の恩恵を何とか形に残して、次の世代に引き継ぎたいと思います。

第一線で活躍する分厚い講師陣

箱井:海法のコースで、私が絶対の自信を持っているのが講師の顔ぶれです。政府の商法改正の法制審議会部会メンバーに選ばれた商社マンや海事弁護士をはじめ、経験豊富な専門家の皆さんに引き受けてもらっています。特に海事政策研究では、国土交通省の現役の外航課長や内航課長、船員課長などにお願いしていて、政策に関する担当者の生の声を聞くことができるようにしています。

―入学を検討している方へ

室屋:船舶も自動化を目指そうとする時代です。海運業界だけでなく、慢性的な人手不足の中、自動化された仕事はロボットやAIが担うことになっていくことでしょう。人の仕事という面では、今後もテクノロジーで代替不可能なハイスキル業務の雇用が増えていくと見込まれ、ルーティンワークとの賃金格差もさらに広がる傾向にあります。その結果、付加価値があるがゆえに高賃金の仕事につくには、”教養を高め続けること”が不可欠なアクションであると言えそうです。
また、資格と違い、学位は世界共通、世界で通用するものです。このように考え、行動する社会人が教養を高める場所として検討し選択するには、早稲田の社会人課程はふさわしいところであると自信を持っておすすめいたします。

伊藤:修士課程を修了したことで多くのものを得ましたが、さらに博士の学位を取得することによって、社会人でも研究は可能であるということを示したいと考えています。博士の学位の取得は自分にとっても、早稲田大学の社会人教育にも非常に有意義であり、早稲田大学に脈々と受け継がれてきた「社会人に高度な学びを」という理念を具現化するものと考えています。実際の受講については、室屋さんの発言にあったように、箱井先生をはじめ先生方に理解があるので、社会人は学びやすいと思います。大学院での学びは、日常の業務や収入に必ずしも直結するものではないと思います。しかし、研究テーマに悩み、もがき苦しみながら論文を書き終えたときの充実感は、普段の仕事ではなかなか味わえるものではないので、やってみて損はないと思います。ぜひ一緒に学びましょう。

 

箱井先生、伊藤様、室屋様、ありがとうございました。
2022年4月 法学研究科

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