• ニュース
  • 「都市の日常を「インフラ」という視点から考える」文化構想学部 田中大介教授(新任教員紹介)

「都市の日常を「インフラ」という視点から考える」文化構想学部 田中大介教授(新任教員紹介)

「都市の日常を「インフラ」という視点から考える」文化構想学部 田中大介教授(新任教員紹介)
Posted
Fri, 01 May 2026

 

自己紹介

早稲田駅を利用している学生のみなさんも多いと思いますが、東西線は混みますよね。私も高校生のころから東京で電車通学をしていましたが、満員電車はつらく、細かな鉄道マナーに気をつかう日々に、少しうんざりすることもありました。小学生のときに東京に引っ越してきた私にとって、このような電車生活は都市の原体験になっています。

とはいえ、こうした状況を「当たり前」のこととして受け入れなければ、生きにくいのが都市生活の世知辛いところ。私は、こうした通勤通学に代表される都市の日常を、インフラという視点から研究しています。もう少しかたくいえば、公共交通、消費施設、情報環境などを主な対象とした、都市インフラの社会学的研究です。

インフラの研究といっても工学系の研究とは異なります。私自身、生粋の文系で、鉄道オタクですらありません。ここでいうインフラとは(良くも悪くも)人びとの「普通」を形づくる制度や装置を、ゆるやかに指しています。自分の研究をそのように表現するようになったのはここ10年くらいですが、同時期に人文社会系のインフラ研究も活発化してきました。

このような研究をしはじめたきっかけは、二つあります。大学のときに海外貧乏旅行をするバックパッカーのようなことをしていたこと。そして、社会学のゼミに入り、旅行で訪れたチベットのラサという都市について卒論を書いたことです。そこで「当たり前」は当たり前ではなく、「普通」もまた普通ではないと考えるやりかたを覚えたように思います。海外と比較すれば別の当たり前があり、歴史をさかのぼれば、また異なる普通が存在します。

私の専門分野、ここが面白い!

最近、シンガポールで電車に乗る機会があったのですが、スピーカーで音楽を聴いたり、通話したりしている人がいて、少し驚きました。マナー掲示に「The Phone DJ」というものがあり、望ましい行為とはされていませんが、掲示があるということは、実際にそのような人がいるからでしょう。日本ではイヤフォンの音漏れすら嫌がられるのに。

シンガポールの地下鉄通路で見かけたマナー掲示

また、シンガポールではドリアンの持ち込みが禁止されています。知識としては知ってはいたのですが、「No Durians」の掲示を見たときに、「ほんとうにあった!」とすこし感動しました。タイの鉄道も、またちょっと違っていて、優先席にお坊さんのマークがあったりします。同じ鉄道というインフラでも、前提とされる「当たり前」はかなり異なるのです。

シンガポールの「No durians」

タイの鉄道の優先席

違いは国境だけにとどまりません。冒頭でみたように都市経験は地方出身者と都市出身者とで異なりますし、都市出身者であっても、性別により経験のされ方が違うことがあります。前任校の女子大学に15年間勤務していましたが、共学出身の私にとっては、それ自体が一つの異文化体験でした。さらに別の社会的属性から眺めれば、また異なる都市の風景が見えてくるでしょう。「社会は細部に宿る」ということばを教えてくれたのは学部時代のゼミの先生でしたが、身近な都市生活を異文化のように見ることを通して、それぞれの「社会」の構成を見渡すことができる点に、自分の専門分野の魅力を感じています。

崇高でも、遠大でも、深淵でもないかもしれないけれど、平凡な都市生活を支え、普段は背景化しているインフラから考える。非凡で、群を抜く学生や教員が本当にたくさんいるのが早稲田の魅力のひとつですが、「社会」は多くの――私のような――凡人たちで構成されています。非凡な人びとが切り開く高みの景色がある一方で、平凡な人びとがつくるありきたりにみえる世界にも、それなりの精妙さと奥行きがあります。私たちの「当たり前」は、グローバル化やメディア化が進む世界とのつながりのなかにあり、かなり長い歴史的な蓄積のうえにあるからです。

民俗学者の柳田國男に「平凡と非凡」という戦前の講演をまとめた論考があります。柳田はそこで、近代教育が成績を競わせ、抜きん出た存在を選抜する「非凡教育」に偏り、人びとの日常生活の経験・慣習を培う「平凡教育」が疎かにされている、と指摘しています。非凡な人びとも、平凡な生活を送る必要があることを考えれば、これは単純な二項対立ではありません。

いまは柳田の時代よりもずっと高度なテクノロジーが生活を支えるインフラとなり、それらは多様な専門家によって担われています。だからこそ、非凡な専門家に敬意をもち、委ねるべきところは委ねつつ、それらの人びとも生きる平凡な生活の側からインフラへとまなざしを送り返すような社会学でありたいと思っています。

 

プロフィール

たなか だいすけ。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。筑波大学大学院人文社会科学研究科社会科学専攻社会学分野修了。博士(社会学)。日本女子大学人間社会学部専任講師、准教授、教授を経て2026年4月より現職。著書『電車で怒られた! 「社会の縮図」としての鉄道マナー史(光文社、2024年)、編著『ガールズ・アーバン・スタディーズ』(法律文化社、2023年)、『ネットワークシティ 現代インフラの社会学』(北樹出版、2017年)など。

(2026年5月作成)