School of Culture, Media and Society早稲田大学 文化構想学部

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開催報告 国際シンポジウム「人文学の危機とは何か」

国際シンポジウム「人文学の危機とは何か」開催報告

2018年2月3日、「人文学の危機とは何か」と題した国際シンポジウムが開催された。「人文学不要論」まで唱えられる昨今の状況を、世界各国の日本学研究者とともに多角的に考えるシンポジウムである。シンポジウムは2部構成で、発表の部と討論の部から成る。最初に李成市教授(文学学術院)による開会の挨拶と本シンポジウムの趣旨説明があり、その後、まず5人の報告者による発表が行われた。

発表の部の発表者と題目は、以下の通りである。ディヴィッド・ルーリー氏「人文学は誰のためですか」ラインハルト・ツェルナー氏「フンボルトはボロニアまで来なかった」張翔氏「人文学と普遍的価値観————中国の大学の人文学教育のケース」朴俊炯氏「人文学の危機と流行のはざまで」徐興慶氏「台湾における人文学研究の発展とその問題点」

ディヴィッド・ルーリー准教授

ディヴィッド・ルーリー氏(コロンビア大学・本学文学学術院訪問准教授)は、アメリカの現状を取り上げながら、人文学は誰のために行われるべきかを考えた。例えば若手研究者の置かれている状況、研究成果の公表の方法、大学専任教員の研究時間等、人文学を取り巻く種々の問題が指摘された。ラインハルト・ツェルナー氏(ボン大学)からは、ヨーロッパにおける大学の歴史を踏まえて、現在とりまく状況を指摘した。一つには、市場経済や社会政策の要求に対して適応できない人文学という批判がある。また、1999年のボローニャ宣言とその考え方により大学が被った影響(イノベーションの抑制など)の指摘があった。張翔氏(復旦大学)は、文系よりも理系の方が好まれる中国の現況を紹介し、人文学には普遍的価値を求める難しさがありながらも、自然科学の研究者の価値判断を育むものとしての必要性があることを述べた。それは人間の形成にも関係あることであり、また一方で東アジアの平和にも人文学が寄与し得ることと論じた。朴俊炯氏(ソウル市立大学)からは、1997年の「IMF事態」に端を発する韓国の社会的背景がまず示された。政府の支援金への依存度が高い大学は、経済危機を打開するための競争力強化の方針を受け入れざるを得ず、その結果韓国の人文学は危機に瀕している。しかし一方では一般向けの人文書は大流行しているという現況がある。こうした矛盾的現況からの考察がなされた。徐興慶氏(台湾・中国文化大学)の発表では、まず台湾で「人文学は地域社会に何か貢献できるのか」という論証の難しい問いがよくされることの紹介があった。また人文学専攻者の減少を見つつ、人文学の社会的価値や人材育成など、人文学の抱える問題についての指摘があった。

討論の部は李成市教授(文学学術院)が司会となり、まず発表を受けてのコメンテーターの磯前順一氏(国際日本文化研究センター)と、仁藤敦史氏(国立歴史民俗博物館)の発言から始まった。磯前氏からは、危機意識の欠如した現況こそが、真の危機的状況であるとの発言があった。「被害者意識の自己肯定」ともいえる危機的状況は、政府からの支援をいかに得るかに腐心し、国家との対立を考えない態度と、自己に緊張感が欠けているのではないかという視点の欠如から見出されるものであるという。仁藤氏はそもそも人文学といわれる学問分野の枠組みが曖昧であることを述べた上で、人文学の方法自体が理系技術の進歩により近年変容しつつあること、「人文学の危機」の内実は多面的であること(人文学だけでなく、学問全体の問題も含んでいたりなど)が示され、人文学に今求められることへの言及があった。こうしたコメントに対して発表者たちからの応答があり、会場からも質問や意見が提出された。発言者の中には学部学生もおり、広い年代が人文学を取り巻く状況に関心を持っていることが改めて確認された。当初の予定よりも大幅に時間が超過する白熱した会となったが、上野和昭教授(文学学術院)の挨拶をもって、本シンポジウムは盛況のうちに閉会となった。

プログラム
<開会の挨拶・趣旨説明>
13時00分~ 李 成市(早稲田大学教授)
<発表>
13時10分~ ディヴィッド・ルーリー(コロンビア大学准教授)
「人文学は誰のためですか」
13時25分~ ラインハルト・ツェルナー(ボン大学教授)
「フンボルトはボロニアまで来なかった」
13時40分~ 張 翔(復旦大学教授)
「人文・社会科学の価値中立と普遍的価値」(仮題)
13時55分~ 朴 俊炯(ソウル市立大学助教授)
「人文学の流行と危機のはざまで―韓国の場合―」
14時10分~ 徐 興慶(台湾・中国文化大学教授)
「台湾における人文学研究の発展とその問題点」
<討論>
司会:李 成市(早稲田大学教授)
15時00分~15時30分 討論者:磯前順一(国際日本文化研究センター教授)
仁藤敦史(国立歴史民俗博物館教授)
15時30分~17時20分 登壇者全員でのディスカッション(質疑応答を含む)
<閉会の挨拶>
17時20分~ 河野貴美子(早稲田大学教授)
コーディネーター:松本弘毅(早稲田大学)、柳下惠美(早稲田大学)

主催:私立大学戦略的研究基盤形成支援事業
「近代日本の人文学と東アジア文化圏 ―東アジアにおける人文学の危機と再生」
共催:早稲田大学総合人文科学研究センター 研究部門「角田柳作記念国際日本学研究所」
スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点
日時:2018年2月3日(土)13時00分~17時30分
場所:早稲田大学 戸山キャンパス 33号館16階 第10会議室

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