School of Culture, Media and Society早稲田大学 文化構想学部

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「アラビア哲学:宗教と科学と哲学の対話」文化構想学部 小村優太専任講師 

自己紹介

高校の時の世界史の先生が反米だったため、それにかぶれていた私は、「これからの時代は反アメリカだ!そうなると中国か中東だな」と考え、独学での習得が難しそうなアラビア語を学ぶため東京外国語大学に入りました(その間20年を考えてみると、高校時代の自分はなかなか先見の明があったなと自画自賛)。その後、毎朝7時に起きる暮らしが嫌だった私は大学院に進もうと思ったところ、外大の指導教員から、研究をするなら外大ではなく東大に行った方が良いとアドバイスされ、東京大学大学院の比較文学比較文化に進みました。東大比較ではイスラームとキリスト教の比較研究をしようと思っていたところ、当時の指導教員から「いきなり比較をやっても地に足がつかないから、まずどちらかをマスターしなさい、君はアラビア語ができるんだから、まずはそっちを固めた方が良いんじゃないか」と指導を受け、何だかんだここまでやってきました。好き勝手やっているように思えて、実は要所要所での出会いから大きな影響を受けてきたようです。

私の専門分野、ここが面白い!

私の専門分野は中世哲学、そのなかでもアラビア哲学という分野です。世界史で学んだことを思い出してみましょう。9世紀のアッバース朝では、ギリシアの進んだ文明をアラビア語に翻訳する運動が起こり、大量の哲学、科学文献がアラビア語に訳されます。

写真1:アレクサンドリアの夕焼け

その流れの中で興隆したのがアラビア哲学であり、基本的にはアリストテレス哲学をベースとしています。とはいえ、後期古代と呼ばれる時代の注釈や新プラトン主義といった要素もふんだんに受け継いでおり、実際はきわめて多様性に富んだ哲学思想でした。このアラビア哲学の文献が今度は12世紀半ばにラテン語に翻訳されることになり、ラテン・スコラ哲学の発展に大きな影響を与えました。その後アラビア哲学はイスラーム神学と融和的になり、ラテン・スコラ哲学が「哲学的キリスト教神学」であるのと同じように、「哲学的イスラーム神学」を作り上げていき、また他方で科学的アラビア哲学も同時に発展していきます。神学者ガザーリー(1111歿)による哲学批判がきっかけとなり、イブン・ルシュド/アヴェロエス(1198歿)を最後としてイスラーム地域における哲学は終焉を迎えたという「神話」は、研究の現場においてはすでに時代遅れのものになっています。このような豊かな哲学伝統のなかで私が専門にしているのはその前半、9世紀から12世紀ぐらいまでのアラビア哲学で、これまではとりわけイブン・シーナー/アヴィセンナ(980–1037)の魂論を研究対象にしてきました。

写真2:イブン・シーナー写本のコピー

哲学一般に興味がある人にとっても、中世哲学と言えば「神学の婢」というイメージがすぐ浮かんでくるようで、哲学好きからはいま一つ評判が良くないですね。その原因の大きなものに、デカルトなどの近世哲学者による中世哲学批判があるのですが、現在はそれらの批判がほとんど言いがかりに近いものであったことが分かっています。なかでも私が専門とするアラビア哲学は、宗教と哲学の緊張関係があり、哲学の側が理性的言語で宗教を解釈していこうとしていました。実際にラテン・スコラ哲学を担ったのが多くは修道士だったのに比べて、この時期のアラビア哲学を担ったのは医者、科学者、政治家などでした。(新プラトン主義要素の入った)アリストテレス的科学主義をベースとし、宗教そのものは否定しないけれど、それを理性的言語で読み解いていくという態度は、意外と現代の日本人にも馴染みやすいものではないかと思います。

写真3:イスタンブール、スュレイマニエ文書館

写真4:カイロ、ドミニコ会東洋研究所の中庭

プロフィール

1980年生まれ。石川県金沢市出身。2005年、東京外国語大学外国語学部南西アジア課程アラビア語専攻卒業。2011年、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(比較文学比較文化)博士課程単位取得退学。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員PD、東京大学多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)特任研究員を経て現職。専門はアラビア哲学、中世哲学、魂論。また子どもの哲学、哲学対話などの哲学実践もおこなう。

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