School of Culture, Media and Society早稲田大学 文化構想学部

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教授に訊く!「“いろんな”を持つ学生であれ」 (重松 清 先生インタビュー)

第一文学部・第二文学部が文化構想学部・文学部に改組されて今年2017年で10年を迎えます。数々の名物教授が揃う戸山キャンパスですが、2016年度から直木賞作家である重松清先生が教鞭をとられていることをご存知でしたか?今回は重松先生が「早大生」であった頃の話を中心に聞かせていただきました。

重松 清 教授

戸山キャンパスにある重松 清 先生の研究室にて

~戸山キャンパスの生徒の印象~

重松先生は1999年~2000年にも第二文学部にてライター演習の講義を担当されていました。今回は約20年ぶりの戸山キャンパスだったそうです。

第二文学部の時に比べて大学の建物もそうだけど、(学生も)清潔でおしゃれになったよね。それは良い意味だけではないのかもしれない。僕は本キャン(早稲田キャンパス:教育学部)の出身だから“雑踏”というのが僕の原風景でした。戸山キャンパスは学生で溢れかえっているイメージがないよね。授業が始まると割としーんとしている。もし、雑多なイメージで早稲田を敬遠している人がいたらそんなことないよ、と言いたいです。僕の学生時代はバブル前夜で、就活なんかしなくてもなんとかなるっていう楽観的な空気が社会全体にあったけれど、おそらく今は、もっと将来のことを考えないとってみんな思っているんだろうな。僕は出席とらない授業が大好きだったけれど今はみんな「出席を取ってくれ」って言うもんね (笑)。 授業態度はみんな真面目だよ、すごく。おとなしいっていうのもあるのかな。

 

———おとなしいというのはプラスなのでしょうか、マイナスなのでしょうか?

今はインターネットが発達したからね。 小さな声で話をしていても、ネットではラウドな人もいるかもしれない。わからないよね。僕たち教員に見せてくれている面はその人のごく一部でしかないということは勘違いしちゃいけないんだと思う。自分に見えているところだけで今時の学生さんは~‥なんてことは言いたくないし、逆に言えば壇上に立っている僕を見て、重松清を判断しちゃったら裏切られるかもしれないからね(笑) うるさくできる場所がどこかにあれば良いんじゃないかな。みんながスマホで何を見ているのかはわからないけれど、それが”社会に良い形で伝わる窓”だったら良いなと思います。もしスマホで狭まっていたらそれは少しもったいないかな。

 

~重松先生ご自身の大学生活~

———重松先生ご自身も早稲田大学の出身です。教育学部国語国文学科時代をどのように過ごされたのでしょうか。

本キャンの校舎は全部変わってしまったけれど、教育学部のある16号館だけは変わっていなくて懐かしい。懐かしいのはロータリーかな。学生時代の一番の思い出の場所は、実は教室とか図書館じゃなくてロータリーだったりするんだよね。今はその当時の家は無くなってしまったけれど、大隈講堂から歩いて2、3分の早稲田町という場所に住んでいました。当時好きで今でも残っているお店は、キッチンおとぼけ、三品食堂、メルシー。メルシーのラーメンは東京に来て初めて食べたラーメンです。そうそう、そういえばこの間学生時代に通っていた鶴巻湯にも行きました。

僕の大学生活はおそらく前半戦と後半戦に分かれていて、後半に当たる3年生の時に「早稲田文学」の編集部に入ってから本を読むようになりました。前半の2年間は大学で何をすればいいかわからないからアルバイトばかりしていて、貯めたお金で家賃より高い車庫を借りて、先輩から赤いマツダのファミリアを買ったりしたよ。あの頃、社会全体に“すき間”のようなものがあったように思います。休講は大学まで行かないとわからなかったし、待ち合わせも携帯がなかったから都合が悪くなった時に連絡する手段がなかった。待ちぼうけなんかしょっちゅう。ぽっかり空いちゃった時間はしょうがないなあなんて言って古本屋を巡ったりしていた。今はスマホで情報が入ってくるからそういうことがなくなって、キツキツになっちゃっているのかな。便利さは知らない面を持てなくなってしまう。学生時代はやっぱり少しは“すき間”を持つと良いのではないかと思います。

 

教育学部 ロータリー

– 早稲田キャンパス教育学部16号館前- 通称『ロータリー』

~学生へのメッセージ~

重松先生が演習を担当されている文芸・ジャーナリズム論系には小説家やライター、出版職に憧れる学生が特に多いです。そのような学生や、早大生全体に学生生活におけるアドバイスとメッセー ジをいただきました。

夢を持って入学して、学生生活の4年間で夢が変わってしまうっていうのは全く悪いことではないし、そのくらいの“すき間”がある方が良いと思う。未完成のまま決めた夢に決めつけられてしまうのももったいない。初志貫徹もいいけれど臨機応変!ある程度のぶれる余地、しなやかさを持つ方がきっとうまく行きますよ。出版社、ライター、塾の講師、戸山キャンパスの教授‥作家以外で2年以上続いたものはないから、戸山キャンパスの教授を3年(重松先生は2016年度~2018年度までの3年任期)というのは作家以外では最長なんだよね。僕はこの道一筋の先輩にはなり得なかったけれど、色々なことをやって、でもなんとかなったよという先輩にはなれたかな。

 

Dr.shigematsu2
———やはりそのような多様な経験が作家人生に生かされているのでしょうか。

もちろんそうです。作家にならなくても、大人として“いろんな”というものを子供よりもたくさん持っているといいね。いろんな人に会ってきた、いろんな仕事をしてきた、いろんな街を見てきた、いろんな思いをしてきた‥。“いろんな”はいつだって武器になります。大学時代は特に“いろんな”の幅が広がる時期。早稲田のいいところは“いろんな”が特に広がりやすいってところだよね、昔から。

出版の産業ははっきり言って斜陽産業。去年(戸山キャンパスで)教えはじめて、第二文学部の時とは教えるポイントも変わっています。昔は雑誌のスペースに合わせて記事を書くテクニックを教えたけれど、今はインターネットの時代だから、分量よりもメディアに関するリテラシーを学ぶ必要があります。作文講座ではなくて正しくジャーナリズムやメディアと付き合っていくにはどうしたらいいか。優秀な送り手にもなってほしいけれど、優秀な受け手にもなってほしい。だから今の演習では、一つのことに対して賛成や反対も書いてもらうし、大人向けや子供向けに書いてもらったりもしているよ。いろんな価値観があり、いろんな正義がある。そのことを伝えるために、僕みたいな学者ではない、実地でやってきた人間が先生をやっているのかな。自分の子供たち(26歳、21歳)より若い子たちと、同じ教室で同じ議題について考えたりできることは本当に幸せなことだなあと思います。同じテーマに対して同級生はどのように書こうとしているのかというのも大切です。僕のいうことだけを聞くなら、僕が家庭教師をやればいい話。本当に教わる相手は隣に座る仲間なんじゃないかな。僕がこう言ったからとかそれだけを受け取ってしまうのはもったいない。横との繋がりのために学校ってあるんじゃないかな。そういう風に学びをやってもらいたいですね。

 

Dr.shigematsu3
———授業をするにあたっての知識などは、いつどのように仕入れているのでしょうか。

授業のない日にも大学に来てとても勉強しているよ!とても大変です (笑)。 学生時代より勉強しているかもしれない。でも、おかげで学ぶことは多い。先生という仕事を引き受けて良かったって心から思うよ。人生って、やらなければよかったことより、やっておいて良かったことの方が多いよ。20歳くらいだったらやらなければ良かったと思ってもすぐに取り戻せる。すぐにわかる後悔は単なる失敗だから取り戻すことができる。それは後悔ですらないんだよ。やらなかったことは、もっと時間が経ってから後悔する。自分が学生時代にやらなかったことに気がついて後悔するのは50歳くらい。そこまで行ってしまうともう取り戻せないから、迷ったら絶対にやった方がいい。

“いろんな”を増やすには何事も自分から行かないとね。Amazonの“これを買っているあなたへオススメ”っていうのがあるけれど、自分と似たものを集めれば楽しいかもしれない。でも、その外側にも目を向けてほしい。Amazonも“たまにはこんなのもどう?”っていうのを設ければいいのにね (笑)。 文キャンには“いろんな”人がいるからね。文章を教えるって正解がないから、人を惹きつける文章を書いてほしい。答えがひとつなら作家も1人でいいからね。間違いのない文章を目指すのではなく、こんなのでもいいのかな、こんなのもあるんだ、そんな多様性のある文章を、期待しています。人生においてもね。

 

今回のインタビューでは、素敵な言葉をたくさんいただけた上に、学生生活を見直すきっかけにもなりました。興味を持った方はぜひ講義に参加してみてはいかがでしょうか。

重松先生、素敵なお話をありがとうございました。

sidebyside

 

(学生ライター:文化構想学部2年 長谷川彩香)

 

 

 

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