教育・総合科学学術院教授 澤木 泰代(英語英文学科)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校博士課程を修了後、2003年よりETS(Educational Testing Service)研究開発部常勤准研究員、常勤研究員として英語テスト妥当性研究等に従事。2009年早稲田大学着任。教育・総合科学学術院准教授を経て、2014年より現職。グローバルエデュケーションセンター副所長(応用言語学)。
4技能のバランス良い伸びを目指し 英語能力の向上を図る
言語の習得や指導法を扱う応用言語学の中で、特に「言語テスト」と呼ばれる分野を研究しています。これは、開発者が意図した通りテストが機能しているか検証したり、第二言語学習者の能力を詳細に測定・分析し、より効果的な学習へつなげる手立てを考えたりする分野です。
博士課程を修了後、TOEICやTOEFLを開発・運営するアメリカの非営利団体Educational Testing Service(ETS)に所属し、 TOEFL iBTに関する研究を行っていました。英語の言語能力は、リーディング・ライティング・リスニング・スピーキングの4技能に分類されます。4技能はそれぞれ独立しているわけではなく、書く・話す力の前提には読む・聴く力があるなど、互いに密接に関係しています。テスト結果をもとに、この4技能の熟達度やバランスを分析し、学習者へのフィードバックなどに活かしていきます。また、国際的なテストであるTOEFL iBTでは、国ごとで結果に異なる傾向が現れてきます。日本の場合は、他の技能に比べて話す力に課題があるといった特徴がありました。
専門分野を学ぶためには「要約」する力が必要
高等教育で英語をツールとして使用するには、アカデミックリテラシーが必要です。英語で書かれた資料をもとに、それをいかに正しく理解し、研究レポートや考察の形で自分の意見をまとめられるかが重要です。私が現在副所長として携わっているグローバルエデュケーションセンター(GEC)のAWADE(Academic Writing and Discussion in English)プログラムでは、英語を使って学業や専門的な研究で必要となる、アカデミック・ライティングやディスカッションの力を付ける授業を行っています。開発時からこの科目に関わっており、AWADEの授業を担当する教員やGECスタッフと連携しながら、応用言語学の視点から授業内容や方法を吟味し、プログラムの向上に務めています。
今、自身の研究で特に注目しているのは、アカデミック・ライティングにおける「要約」です。日本人大学生の要約力の特徴をまず把握し、「要約」を大学のライティング教育につなげるためのアセスメントや教材を開発することを目標としています。単なるテストではなく、ライティング指導過程での使用を想定したシステムで、テスト形式で要約をさせるだけでなく、書いている途中でヒントが出てくる、書いた後にフィードバックがあるなど、学習者が英語を学びやすいシステムを作ることを目指しています。
英語はコミュニケーションツール伝わる喜びが上達のカギ
英語学習では、「興味をもった分野について学びたい」という気持ちにつられて英語を使ううちに、自然と英語力が伸びているというのが理想です。裏を返せば、英語を実際にツールとして使う時間をいかに増やしていくかが課題になります。実際に英語を使用する中で、知らないことが分かった、言いたいことが伝わったという経験や喜びは何にも代えがたいものだと思いますし、そうした経験が英語能力の向上につながると考えます。中学校・高校では英語力の基礎を作ることが大切ですが、大学では、それを道具としてどう使いこなすかに目を向けていかなければなりません。
コロナ禍を経て、留学制度など英語教育を取り巻く環境は変化しています。しかし、言語能力の面でいえば、ディスカッションやレポートで求められている力は基本的に変わりません。一方で、オンラインなどの環境で人間関係を構築する機会がない中、真剣にディスカッションし、問題解決を迫られるような場面もあるでしょう。自分の意見や意図を的確に相手に伝える能力はより重要度が増しています。
英語を学ぶ上で、遅すぎるということはありません。私自身、中学1年生から勉強し始め、大学4年で初めて留学をしました。将来世界中で活躍するであろう学生たちの充実した学びを支えるために、応用言語学の知見を生かし、より効果的な英語教育のカリキュラムや教材を提供していきます。