2005年 3月修士課程修了
菊田 顕義さん (理論・計量専修 マクロ経済学研究指導/現職:三菱UFJ証券株式会社 勤務)
私は2005年3月に商学研究科修士課程を修了し、現在は三菱UFJ証券株式会社で、国内トップクラスの富裕層のお客様が住むと言われる地域で主に個人のお客様に対して株式・債券・投資信託等の金融商品の営業をしています。マクロ経済学・ミクロ経済学や経済政策を中心に研究しました。
早大商研への進学を決めたのはどのようなきっかけからでしたでしょうか?
私の場合は当初から進学の意思が固かったわけではありません。当初は、修士課程は研究者を目指す者のみが進学するものと思い込んでいたこと、早期に経済的に自立したいとの思いが強かったことから、修士課程への進学はまったく考えてなく、就職活動も行っていました。
学部生時代の私はサークル活動に熱心に取り組み、あまり学業に対して真面目な学生というわけではありませんでした。しかし、3年生からマクロ経済学のゼミに所属し勉強を始めてから、マクロ経済の動向や経済政策の役割、そしてそれを基礎付けるマクロ・ミクロの経済理論の重要性に強い興味を持つようになり、進学して経済理論やさまざまな分析手法をより深く勉強したいという思いを強く抱くようになったため、商学研究科への進学を決めました。
実際に入学され、学生生活はいかがでしたか?
商学研究科へ入学した当初は学部の授業とのレベルの違いに驚かされました。各科目とも基本的なことは既に習得してあることを前提に授業が進行するため、学部生時代あまり熱心な学生ではなかった私にとっては、授業に参加するための事前の準備や基礎的な知識の補完に多くの時間を割く必要がありました。私の場合、特に中級以上の経済学を学ぶ上で必要となる数学、学部時代に勉強できなかったファイナンス理論の勉強には多くの時間と労力を割く必要がありました。また使用する文献は英語で書かれたものが主になるため、慣れるまではその読解にも多くの時間を割く必要がありました。ゼミでは、マクロ経済学・ミクロ経済学の中級から上級レベルの文献の輪読を行いましたが、学部時代に比べ少人数(私の場合同期のゼミ生は4名でした)のためか、指導教授の人柄のためか、アットホームな雰囲気で進行し、非常にきめ細かく指導していただきました。またゼミの同期には数学・英語の知識が豊富な学生がいたため、時には勉強会をするなど、お互いに助け合いながら勉強をしていました。
修士論文はどのようなテーマで執筆されましたか
「日本の長期不況・デフレーションについて―構造型VARによる分析―」というタイトルで、日本の長期不況とデフレーションについて、その原因が主に需要側にあるのか、供給側にあるのかを時系列分析のひとつである構造型VARという手法を用いて明らかにする研究を行いました。私にとって修士論文が自分の力で研究を行う最初の経験となったため、常に暗中模索といった状況でしたが、行き詰った際には指導教授、副査をして頂いた先生方をはじめ、商学研究科の一部の教員・学生による自由参加型の研究発表の場である「経済学金曜セミナー」に参加されていた教員・学生、さまざまな先輩方による適切なアドバイスやサポートに恵まれ、書き上げることができました。
就職活動と並行した時期は両立に苦労することもありましたが、参考文献を常に鞄に入れて企業回りをし、面接やセミナーの合間には喫茶店やネットカフェなどで論文を読むなど、少しでも研究を進められるように努力しました。自分が問題意識を持ったテーマについて自分の力でとことん調べ、考え抜き、分析を行い、修士論文というひとつの研究成果にまとめあげた達成感はなにものにも代えがたいものでした。
就職活動はどのように行いましたか。また、進路を決めるきっかけはどのようなことでしたか。
私は学部学生時代と修士課程在籍時の2回就職活動を経験しましたが、活動のしかたに大きな違いはありませんでした。ただし学部学生時代の就職活動では、「大学時代に頑張ったことやそこから何を得たか」といった人間性を見るための質問がほとんどであったのに対し、修士課程での就職活動では、「なぜ進学したのか」「大学院でどういう研究を行っているのか」といった、専門性を見るための質問をされることが多かったように思います。そのため、修士課程1年次の秋頃までに修士論文執筆に向けて大まかな研究計画を立てておくと良いと思います。就職活動に忙殺される時期になると、どうしても研究に集中できる時間が限定されるため、就職活動と研究を両立させるためにも早めに研究計画を立てておくことが重要だと思います。
私は経済・市場のダイナミズムを身近に感じられる仕事をしたいと考え、金融業界を中心に就職活動をしました。金融業界は日々変化する市場環境や、法律をはじめとする市場制度に対応するために、経済理論・計量分析だけではなく、会計、法律の知識等さまざまな分野において高度な専門性を持つ人材をを広く求めているため、修士課程での研究を活かせる就職先であると考えたことも決め手のひとつです。
現在、大学院で学んだことをどのように活かされ活躍なさっているかについて教えてください
私は世界各国の株式・為替・金利をはじめとしたさまざまな市場の動向を分析し、今後の動向を自分なりに予測し、その相場観・シナリオをお客様に対して説明し、それに基づいて資産運用の提案を行う業務をしています。大学院で学んだマクロ・ミクロの経済理論、マクロ経済政策理論、ファイナンス理論などがさまざまな市場動向の分析や今後の見通しを考える上で重要な基礎になっていることは言うまでもないことですが、特に修士論文を執筆する過程で身につけた、自ら問題意識を持ち、徹底的に調べ、考え、それを論理的で説得力ある文章にして発表するという経験は、現在の業務に大変役に立っていると思います。また、2年間商学研究科で苦楽を共にした同期の友人たち、優秀で刺激的な先輩・後輩たちとの出会いは私にとって本当に貴重なものでした。修了しそれぞれ別々の道を歩み始めた現在となっても折に触れ情報交換や近況報告等を行うなど交流は続いていますし、探究心に溢れ、なにごとにも熱心に取り組む彼らの存在は私の励みや支えとなり、会うたびに「私も頑張らなければ」と気持ちを新たにする活力源になっています。
進学を検討されている方へ、メッセージをお願いいたします
学部と修士課程の一番の違いは主体性の有無だと思います。修士課程では、プレゼンテーションやディスカッションが中心となる授業が多く、また各分野の基礎的な知識については学生それぞれが事前に各自で習得しておくことを求められます。そのため、求められるハードルは非常に高いものがあります。しかし、商学研究科には親切で教育熱心な教授陣による適切なアドバイスとサポート、さまざまな専門性や問題意識を持ち研究に取り組む多くの仲間たちからの心地よい刺激があります。あなたが真剣に学問に取り組み自己を成長させようという意欲と情熱を持ち、自分の手で解明したい研究テーマを持っているならば、修士課程の2年間は実り多きものとなるでしょう。社会人になるとどのような仕事をするかにかかわらず、自分の意見、自分なりのものの見方を持ち、周囲の人々にプレゼンし理解・共感を得ることが求められる場面が多くあります。その際に、自ら問題意識を持ってテーマを選定し、それについて研究を行い論文というひとつの研究成果を作り上げた経験は、どんな場面でも非常に役に立つと思います。
商学研究科修士課程へ進学を希望されるみなさんにとって、これからの2年間が有意義なものになることを願ってやみません。