「泣くから悲しい?」自分の声を聞くと気持ちも変わる 意識下の音声操作によって自己感情を変調することに成功、気分障害の治療への活用も

早稲田大学理工学術院 (基幹理工学部)渡邊克巳(わたなべかつみ)教授らを含む研究グループは、人が話している時に音声に感情表現を与えることのできるデジタルプラットフォーム(Da Amazing Voice Inflection Device: DAVID)を開発しました。さらに、このプラットフォームを用いて、被験者が音読している時に、「楽しい」「悲しい」「怖がっている」ように聞こえる感情フィルタをかけながら自身の声を聞かせると、自分の声の変化に気づかない時でも、自身の感情を変化させることが可能であることを明らかにしました。

音声による感情表現と自己の感情の知覚が、どのような関係にあるのかは、心理学の分野でも長い間分かっていませんでした。従来の感情誘導の方法では、感情を引き起こすような記憶を思い出させたり、感情表現を強いたりしていたために、純粋に外部からの操作で感情を変化させることが可能であるかは分かりませんでした。今回の研究の結果は、自己の感情知覚における音声フィードバック効果を、純粋な形で示すことに成功したものと言えます。

本研究で用いた音声感情誘導の手法(DAVID)は、オンラインで音声に感情フィルタをかけることができるために、音声知覚、感情知覚、自己知覚などに関する実験心理学・認知心理学・神経科学的研究を含めた幅広い研究分野での活用が見込まれます。また、気分障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの患者にポジティブな感情を誘導するなど医療分野への応用や、会議やオンラインゲームなどでの場の雰囲気の変調、さらにはライブやカラオケに感情フィルタをかけるたりすることでパフォーマー自身の感情に変調を与えることが可能になるかもしれません。

今回の研究成果は、『米国科学アカデミー紀要』に、1月11日15時(東部標準時)に掲載されました。

論文:Jean-Julien Aucouturier, Petter Johansson, Lars Hall, Rodrigo Segnini, Lolita Mercadié, and Katsumi Watanabe (2016). Covert digital manipulation of vocal emotion alter speakers’ emotional states in a congruent direction. Proceedings of the National Academy of Sciences.

※本研究は、フランス国立科学研究センター、フランス国立音響音楽研究所、ブルゴーニュ大学(フランス)、ルンド大学(スウェーデン)、東京大学、(独)科学技術振興機構との共同研究として実施されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

音声による感情表現と自己の感情の知覚が、どのような関係にあるのかは、心理学の分野でも長い間分かっていませんでした。私たちが通常信じている「悲しいから泣く」(キャノン・バード説)という考え方の他に、「泣くから悲しい」(ジェームス・ランゲ説)という考え方を支持する結果もいくつかあります。しかしながら、この2つの過程を切り分けて研究することは難しいとされてきました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと/(3)そのために新しく開発した手法

 本研究では、人が話している時に実時間で音声に感情表現を与えることのできるデジタルプラットフォーム(Da Amazing Voice Inflection Device: DAVID)を開発し、被験者が短い話を音読している時に「楽しい」「悲しい」「怖がっている」ように聞こえる感情フィルタを通して、自分自身の声を聞かせました。その結果、自分の声が変化していることに気づかない時でも、感情フィルタを通した方向に自身の感情を変化させることが可能であること明らかにしました。

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(4)今回の研究で得られた結果及び知見

 従来の感情誘導の方法では、感情を引き起こすような記憶を思い出させたり、感情表現を強いたりしていたために、純粋に外部からの操作で感情を変化させることが可能であるかは分かりませんでした。今回の研究の結果は、自己の感情知覚における音声フィードバック効果を、純粋な形で示し、自己の感情の発端が脳(内部)ではなく身体や環境(外部)にある場合もあることを示唆するものです。自分から感情を込めることをすることもなく、また声が感情フィルタを通って変化しているということを知ることもなく、感情を誘導することができたという点で、自己の感情知覚において、表現が知覚に先立つ(「泣くから悲しい」)というジェームス・ランゲ説の傍証とも言えます。

(5)研究の波及効果や社会的影響

 本研究で用いた音声感情誘導の手法(DAVID)は、オンラインで音声に感情フィルタをかけることができるために、音声知覚、感情知覚、自己知覚などに関する実験心理学・認知心理学・神経科学的研究を含めた幅広い研究分野での活用が見込まれます。また、気分障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの患者にポジティブな感情を誘導するなど医療分野への応用や、会議やオンラインゲームなどでの場の雰囲気の変調、さらにはライブやカラオケに感情フィルタをかけるたりすることでパフォーマー自身の感情に変調を与えることが可能になるかもしれません。

(6)今後の展開

 DAVIDは以下のサイトで無料公開されています。このプラットフォームを使って新たな研究を始めたり、応用した開発をしたり、あるいは作品をつくったりする人が増えるのを期待しています。技術的なサポート等も以下のサイトを参考にしてください。
http://cream.ircam.fr

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