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Vol.5 国際関係論(1/2)/【争いを避けるプロセスの探求】オープンサイエンスで目指す世界平和を導く理論 / 多湖淳教授

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Thu 11 Jul 24

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Thu 11 Jul 24

「早稲田大学Podcasts : 博士一歩前」は、早稲田大学に所属する研究者たちとの対話を通じ、日々の研究で得た深い世界や、社会を理解するヒントや視点をお届けします。
異分野の研究から得られる「ひらめき」「セレンディピティ」「学問や世の中への関心」を持つきっかけとなるエピソードを配信し、「知の扉」の手前から扉の向こうへの一歩前進を後押しするような番組を目指しています。

今回と次回は国際関係論の分野にフォーカスし、
早稲田大学政治経済学術院の多湖淳教授をゲストに
「国際政治を科学する。理論とデータで導く国際平和への処方箋」をテーマにお届けします。

 

最新の国際関係論の研究データは、
世界中の研究者が自由にアクセスして検証できるようになっており、
AI技術の活用で「来月、紛争が起こる確率」なども、
天気予報のように予測が可能になりました。

 

再び起きる性格の強い紛争を学問の対象とし、
違う立場の国や人々の間の協力関係を維持するための理論の確立を目指して。

 

2024年3月に刊行された著書『国際関係論』に注目しながら、
国際関係論の最新の研究事情についてお話しを伺います。

エピソードは下のリンクから

ゲスト:多湖 淳

1976年生まれ。1999年東京大学教養学部卒業。2004年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。2007年東京大学より博士(学術)取得。令和元年度日本学術振興会賞受賞。神戸大学大学院法学研究科教授、オスロ平和研究所グローバルフェローなどを経て、現在、早稲田大学政治経済学術院教授。専門は国際関係論。著書:『武力行使の政治学──単独と多角をめぐる国際政治とアメリカ国内政治』(千倉書房 2010年)、『戦争とは何か──国際政治学の挑戦』(中公新書 2020年)、『政治学の第一歩 新版』(有斐閣 2020年 共著)など。

ホスト:城谷 和代

研究戦略センター准教授。専門は研究推進、地球科学・環境科学。 2006年早稲田大学教育学部理学科地球科学専修卒業、2011年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了博士(理学)、2011年産業技術総合研究所地質調査総合センター研究員、2015年神戸大学学術研究推進機構学術研究推進室(URA)特命講師、2023年4 月から現職。

書籍情報
  • 国際関係論

    国際関係論

    出版社 ‏ : ‎ 勁草書房
    著 者:多湖淳
    出版年月 ‏ : ‎ 2024年3月
    言語 ‏ : ‎ 日本語
    単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 288ページ
    ISBN-10 ‏ : ‎ 4326303395
    ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4326303397

エピソード要約

-国際関係論とは
国際関係論はどうやったら国家やNGOなどが協力し、戦争を回避し、地球全体の問題に対処していけるかを研究する学問であり、第二次世界大戦後に大学教育に組み込まれた比較的新しい学問である。加えて学際的な特徴を持ち、法学や経済学の訓練も必要とされている。

-多湖教授の著書『国際関係論』について
多湖教授の著書『国際関係論』では、戦争を数え、戦争の発生条件を科学的に予測することが研究対象とされている。また戦略的相互作用、データ分析、そして「われわれと他者」「格差と不満」「信頼と不信」「正統と異端」という4つの概念を重視している。また著書の中では戦争は稀な現象とされ、日常の国際政治経済(貿易、通貨、援助、人の移動など)の解説から導入する構成になっている。

-国際関係論における研究の進化
国際関係論における科学的・実証的な研究は技術の進歩とともに進化しており、紛争や戦争の予測などで計量政治学の手法が活用されている。また、AI技術を活用して、紛争の再発を予測する研究が進んでおり、ニュースや地理的情報を基にデータ分析が行われている。くわえて、国際関係論の研究データは公開され研究者が自由にアクセスして検証できるようになっており、データの精度も年単位から週や日単位に進化している。

エピソード書き起こし

城谷准教授(以降、城谷):
まずは先生のプロフィールからご紹介いたします。
多湖先生は2007年に東京大学にて博士号を取得された後、神戸大学大学院法学研究科教授、オスロ国際平和研究所グローバルフェローなどを経て、2018年より早稲田大学政治経済学術院の教授につかれています。
まずは多湖先生の研究活動、研究分野についてお話を伺っていきたいと思います。
今回、大学生のみならず一般の読者層も対象に学問への入り口として、勁草書房より『国際関係論』を刊行されましたが、多湖先生のご専門である国際関係論とは端的に言うとどのような学問なのでしょうか。

多湖教授(以降、多湖):
国際関係論はインターナショナルリレーションズという英語がよく当てられますが、国際政治学という言葉でも知られているかもしれません。主に国と国、国家と国家から構成される。また国だけではなく、例えばNGOなど、そういうものから構成される国際社会でどういった形で国々が協力できるのか。あとは国々同士がどうしても争ってしまうとしたら、どうやったら戦争を回避できるのか。要は他者と力を合わせて、地球全体の諸課題にうまく対処して生きることがどうやったらできるのかを問う学問だと思います。

城谷:
国際関係論はどれくらい前からあるものでしょうか。

多湖:
実は国際関係論という形で名前が定着して、大学の教育にきちんと組み込まれたのは、すごく大雑把な言い方をすると、第二次世界大戦後だと言っても語弊がないかもしれません。新しい学問です。

城谷:
先生のご著書である『国際関係論』を拝読しまして、ハッとしたところがあります。
戦争は数えることができるということでしたが、このことは何を意味すると多湖先生はお考えでしょうか。

多湖:
国際関係論で戦争は主なテーマだと思います。私の本と他の本を比べてみると、特色はその国際戦争がちょっと後ろ側で説明されるところにあります。要は戦争よりも大事なものがあることを最後にお伝えしたいのです。戦争は基本的に英語でWarだと思いますが、Warsという形で複数形があるように、数えることができます。逆に平和であるPeaceを考えてほしいのですが、Peaceは実はアンカウンタブルな単語なんです。つまり数えられません。
要は、戦争は数えられるので、それを数えることによって、例えば、戦争事象をどうやったら起こさないようにするのかということができるので、特に国際関係論でも、科学的な立場を大事にする人間たちはデータを作って、要は戦争を数えていって、それを戦争がどういう条件で起こるのか、起こりにくいのかを予測するということも研究対象になっています。

城谷:
戦争を数えるという行為が、学会内では賛成、アクセプトされている考えなのか、それともまだ議論の余地があると考えられるのか。そういったところはいかがでしょうか。

多湖:
おそらく日本では珍しいと思います。
ただ世界の国際関係論の常識からすれば、こういう科学的な国際関係論は主流派かと思うので、あまり驚かれる内容ではないと思います。

城谷:
国際関係論は、先生の研究ですと政治学の立場からご著書も解説されていらっしゃいますが、どのような概念や視点が重視されて研究、そして本を解説されていらっしゃいますでしょうか。

多湖:
国際政治、政治学の一部と考えることがかなり多いと思いますが、実は国際関係論と言ったときには、インターディシプリナリー、いわゆるその学際的な特徴を持っている学問で、例えば、法学とか経済学とかの訓練も基本的に受けて成立するという理解があります。実際、私自身の博士号は政治学ではありません。ただ、今、政治学を中心に国際関係論を説明していますし、勁草書房からでた『国際関係論』という本は、いわゆる政治学のディシプリンの中の書籍になっていると思います。

城谷:
その関連でお伺いしたいのが、この国際関係論の中で3つの特徴というのが触れられていると思います。この点についてお伺いできればと思います。

多湖:
『国際関係論』という教科書ですが、最初にオファーが来たとき複数の人でやりましょうと言われました。私は複数の人でやった色々な類書を見ていると、なかなか軸が定まっていなくて、色々な人が好きなように書いている印象がありました。それは嫌なので、一人で書かせてくださいと編集者さんに無理を言いました。そこから自分なりの軸を出さないといけないということで、よくよく考えたらこの3つぐらいにまとまりました。
1つは戦略的相互作用というのを重視する。そこまで難しいことを使っていませんが、ゲーム理論を重視して、国と国というのは相手の動きを相互に読み合って、意思決定をして行動する。これはゲーム理論にすごく親和的なので、そういう戦略的な相互作用という形で理解しましょうというのが1つ目の軸です。
2つ目の軸がデータ分析で、科学的に国際関係論をやらないといけないということで、記述推論とか因果推論とか演繹推論とか、そういう科学する態度を重視することと、あと国際社会の関係性を理解するという意味で4つほど概念を挙げていて、「われわれと他者」「格差と不満」「信頼と不信」「正統と異端」というキーワードを組み合わせて、国際関係論を説明しています。戦争から入っていますが、実は戦争は国際関係論の中では稀な現象です。今、日常の世界の政治で戦争はレアイベントなんです。そのレアイベントから入るのではなく、日常の状態。それは何かというと、国際政治経済、インターナショナルポリティカルエコノミーと呼ばれる、貿易とか通貨の話とか、援助の話とか人の移動というのを、最初に説明しているのがこの本の特色です。

城谷:
私も先生のご著書を拝見して、先生がおっしゃったような、様々な日常生活に関わる事項について、解説いただいているなと思いました。
それと先生のお考えとしてあげられている4つの概念、「われわれと他者」、「格差と不満」、「信頼と不信」、「正統と異端」といったところを丁寧にご説明いただいていまして、それを読んで、こういう考えがあるんだなと私の中で咀嚼できたと思いました。
それで私が個人的に驚いたのが、ニュースやラジオ番組で時事の色々な解説、話し合っている番組を聞いたりしますが、そこで今までと違って、この意見はこういう考えから言っているんだなど、関心を持って自分なりに解釈、咀嚼して、聞くようにできたのが、私の中では非常に興奮しました。

多湖:
それは嬉しいことです。「われわれと他者」「格差と不満」「信頼と不信」「正統と異端」というところに着目しなくても、国際関係がわかると思いますが、例えば、国際ニュースを見た時に、こういう分析ツールを使ってもらって、自分なりに考えをまとめて、例えば相手の立場にも立って、事件を再解釈ではありませんが、もう一度ちょっと立ち止まってもらって、振り返っていただいて、一体この背後にはどうなんだろう、みたいなことを考えていただくようになったとしたら、それは非常に嬉しいことで、この本の狙いが達成されていると感じます。この教科書は大学生向けにはなっていますが、いわゆるビジネスをやられている方々にも、使っていただけるものかなと思っています。

城谷:
そういった国際関係論を、それぞれの人がどのように考えるかのヒントが先生のご著書には書かれていらっしゃいますが、もう一つ、データに基づく科学的な研究アプローチも大きなテーマかと思います。
戦争や平和をめぐる研究分野は、多湖先生は科学的な研究アプローチを行っていますが、この戦争や平和をめぐるデータを用いた科学的、実証的な研究とは、具体的にどのように取り組まれているのか。実際の実験方法等も含めて教えていただけますでしょうか。

多湖:
1つ、いい例として、戦争にまつわる自衛権の話、自衛権のデータ分析の話をさせていただきます。
前職の神戸大学の時、私は法学部にいました。そこに国際法の先生がいらして、国際法の先生とインタラクションしていると、国連憲章の51条に自衛権と書いてあるのですが、自衛権についていろいろ議論する時に、自衛権ということ自体はなんとなく本を読んでいて分かっていましたが、そこに実はちょっと見落とされている一文があって。何かというと、自衛権を行使した時には安保理に通報すると書いてあります。
義務条項に読めるように書いてあるのですが、実はよくよく聞いてみると、義務条項じゃないという解釈もあるんだと。何かというと、国家実行が伴っていないので、自衛権だと通報する国はそんなに多くなかった。
それはすごいパズルなので、要はデータとしてどうやってやっていくかというと、国連の議事録とか国連の文章を全部ウェブサイトに行って探してきて、すごい古いPDFなので、文字が潰れて読めないのもあったのですが、今、OCRで多分自動的にできるのですが、その時は学生を総動員して、自衛権を行使した、通報した時をカウントしていくんです。
すでにコンピューターに戦争のリストは存在するので、それに照合して回帰分析をかけてあげると、一体どういう条件の時に、自衛権の発動通報がなされるのかが見えてくる。よくよく見てみると、アメリカの軍事援助をもらってる国は、より通報が早い。しかも通報しやすい。どうしてかというと、アメリカの議会は自分たちのあげる武器を自衛のためにしか使わないでくれという条件を付けています。そのため、安保理に自衛通報しないと、アメリカの援助が止まってしまうかもしれない。今、それこそイスラエルでそういう話が出ています。イスラエルのネタニヤフ政権がやりすぎると、アメリカがその武器援助を止めるぞというようなことを言っている。ああいう脅しが実は自衛権を行使した時の通報行為、国際法の行為につながってる。
こういうのはデータ分析をしてみると分かる話で、いろんな形で身近なところのパズル、不思議を見つけてくだされば、データ分析はいくらでもできると思います。
他には国際関係論だと商業的平和、コマーシャルピースという議論があるのですが、それも貿易依存度というので測ることができます。
貿易依存度のデータを、例えばIMFのデータもしくはOECDのデータからから取ってきて、計測して、年ごとにまとめてあげて、プラス何年何月、いついつからA国とB国が戦ったという、ダイアドという組み合わせでカウントするのですが、それが収録されているのでマッチングして比べてあげると、やはり貿易依存度が高いと平和が生まれるのかというのは、データとして検証できますし、そういったいわゆる計量政治学の手法を使って、分析するということになります。

城谷:
科学的、実証的な研究が今後ますます加速されていくということかなと思いました。先ほど、学生さんを総動員してデータ収集というところもありましたが、データ収集のみならず、技術的な進歩が国際関係論という学問にどのような進歩をもたらしているのでしょうか。

多湖:
例えば、先ほどの紛争戦争の話でいけば、紛争戦争を予測するというグループはアメリカにも欧州にもあって、内戦の研究で有名なのは、コンフリクトプレディクションという形でキーワード検索してもらえれば、バルセロナ大学あたりが中心にやっていると思いますが、チームがあって、世界地図が出てきて、多分1ヶ月に1回ぐらいデータが更新されて、紛争予報をしてくれてます。
なので実は、来月どのくらいの確率で紛争が起きるんだろうというのは、実はもう天気予報のように私たちは知れる時代にいます。そこの背後にはAIの技術が使われていると言っていいと思います。
彼らが何をやっているかというと、実は戦争は再起性、再び起きるという性格がすごい強いものなので、Tマイナス1、今の時点がTだとすると、その前の時期の紛争があった、ないというのが、ほぼほぼその後の紛争を予測してしまいます。

城谷:
それは同じ場所での戦争ということでしょうか。

多湖:
そうですね。地理的情報もデータにいれられるので、そういうことを言えると思うのですが、今のバルセロナのチームとは違った、もっと地理的に細かいのをやっているのが、ビューズというウプサラ大学にいて、そこはもう多分グリッドになっている、地理的な何キロ四方でという予測までしている。それはアフリカだけですが、そういうチームもAIを使っています。
彼らが何をしているのかというと、突発的な紛争の元になるものを調べるために、色々なニュースを集めてきます。ニュースのキーワードにこういうリスクワードが入ってくると、確率を上げるとか、入ってないと下げるとか。そういうことをしているので、いわゆるそのウェブでデータをスクレープしてくるのも機械的にやるし、それをテキスト分析するのも機械的にやるし、かなりデータサイエンスの力を借りて、国際関係論をやっていると思います。

城谷:
そのデータの収集はもうあらゆるデータと考えていいのでしょうか。
その解像度はどれくらいなんでしょうか。

多湖:
テーマにもよると思いますが、国際関係論は非常にある意味、民主的なプロセスで学問が進んできて、誰もデータを売り付けるとか、そういうことをしてないんです。今、お話したものは多分、データも全て公開されている世界でやられています。ただ解像度はまだまだ、もちろん上げられるのであれば、上げたいと思うようなものかもしれません。

城谷:
目的によるということですか。

多湖:
そうですね。例えば、私がそのトレーニングを受けた頃からすると、その頃は年のデータしかないんです。年×(かける)国、みたいなデータの精度だったわけですが、今はもう週だったり、場合によっては日だったり、そういうデータが得られるようになってきて、精度は上がっているし、データの量は半端なくなっているので、コンピューターの能力が高くないと、分析できないデータというのもたくさん出てきているように思います。

城谷:
やっぱり解析したいとか、見たい事象に対して、データの解像度が必要なのかなと感じたところでした。国際関係論というのは、いろいろな国にいらっしゃる研究者が無償でデータ公開されているというところかなと思いますが。

多湖:
どうしてそれが慣行というか、やられてきたかというと、おそらく科学性をすごく大事にするので、みんなが反証できるようにということで、お金をチャージするグループも昔はいましたが、やっぱりそういうところではなくて、科学としてオープンにサイエンスすべきだということで、データが共有されてきたという感じですかね。

城谷:
多湖先生の研究も海外のアメリカに置かれているというような。

多湖:
ハーバード大学のデータバースに入っているのが普通かなと思いますし、あとは私たちが目指すジャーナルのデータバースにきちんと載るはずなので、論文を刊行される前にも載ってしまう可能性があるので、常に検証されるということを、ある種の緊張感で分析しています。

城谷:
次のトピックスに移りたいと思います。
今、エビデンスに基づく政策立案というのがよく聞かれるところですが、国際関係論の立場からこういった視点というのは、かなり進められているということでしょうか。

多湖:
エビデンスベースドポリシーメイキングとEBPMというのがよく言われますが、例えば国際政治を巡る意見はSNSとかでも出ていますし、もしくはテレビとか見ていただいても、コメンテーターさんがお気持ちを表明しているというのもあると思います。
それとは全然違う世界で私たちは多分議論していて、どういうことかというと、やっぱり理論はきちんとあって、かつそこに因果推論された、何かその理論の因果関係を証明するデータ、もしくはビッグデータで記述させるところに、すごい特徴を置いたデータ、どちらかの裏付けをもって議論をするのが科学的な国際関係論であり、基本的にこの本が示そうとしていることです。
例えば、ワールドカップサッカーは紛争と関係していると思いますか。
実は、国際紛争を増やしてしまうんです。どうしてかというと、ワールドカップでみんなが燃え上がってしまって、要するに、日本の旗、韓国だったら韓国の旗、中国だったら中国の旗をみんな持って、サッカーを応援するというのは、ある意味ナショナリズムをすごく高揚させるんです。
アンドリュー・ベルトーリーが示したデータ分析によると、ワールドカップの予選でたまたま落ちてしまった国と、たまたま通った国を比べることによって分析し、ワールドカップサッカーでたまたま本戦に行った国は、ナショナリズムが過度に上がるので、ワールドカップの予選以降、数年間は紛争確率が上がるというのを示している。
だからといって、ワールドカップをやっちゃいけないと言っているわけではありません。
しかしワールドカップみたいなものには、ナショナリズムを余計高揚させる効果があることは、きちんと示した上で、だからその時は紛争が起こりやすいから、政策意思決定者はすごく気をつけないといけないという示唆が出て、エビデンスに基づいた政策立案とか、国際関係のあり方が出てくるので、この教科書で伝えたい、そういう態度、大事ですよね。きちんとデータを取って検証して、理論的に筋の通った話をする。国際関係の研究者の話に耳を傾けて欲しいなと切に願っているところです。
その関係でいくと、日本は先ほど我々のようなものがあまりいないと言いましたが、だいぶ増えてきていまして、私は今、48ですが、私の世代より下はかなり統計的なトレーニングを受けたり、実験のトレーニングを受けたり、エビデンスベースドで国際関係論、国際政治学をやる人は増えてきていると思うので、若手がどんどん私よりもいいテクニックとか、いいデータの分析する人がたくさん出てきているので、非常に安心して、喜ばしい事態だなと思っています。

城谷:
トレーニングを受けられる環境というのが、学部の授業でもあるし、大学院の授業でも今は整っているということですか。

多湖:
そうですね。いろんな大学のいわゆる政治学で、科学的なものを標榜している科目はだいぶ増えてきているので、おそらくできますし、大学院はもちろん、社会科学をやるところは増えてきているので、だいぶやりやすくなっているのかなと思います。
『国際関係論』において宣言しているのは、卒業論文を書く時にも帰ってこれる水準という形にしてあって、すごく細かくデータサイエンスをやっている面白い研究をコラムとかですごく載せてあるので、見ていただくと、こういう研究をするといいのかというのは分かっていただけるかなと思います。

城谷:
国際関係論を政治学的に考えるという先生のお立場の中で、大切にされていることを教えていただけますでしょうか。

多湖:
国際関係論は、独立した相手とどう関係を結ぶかということに尽きます。
そういう国際関係において、賢く相手とうまく協力できるのか、もしくは協力がなかなかできない相手だったら、戦争という破綻の道に行かないのかを考えることが、とても大事で、すごく難しい学問だと思います。どうしてかというと、世界では違う立場の人たちがいるわけで、その同一の認識というのは、世界ではやっぱり起こらないので、同一認識が達成されないところでどう協力するのか。
中心にあるのは、囚人のジレンマゲームみたいなところから始めると、囚人のジレンマゲームでは、非協力が一回きりゲームだと均衡になりますが、長期的な視点を持って相手を信用できたりすると、繰り返しの囚人のジレンマゲームをモデルにすると、協力-協力も均衡になることがあります。
そういう形でどうやったら協力が長続きする条件があるのかを理論として理解すべきでしょうし、あとは立場に応じて、違う真実で違う歴史を教えるので、歴史によって違う真実になっていますので、事実は一つだとしても解釈は違うわけで、その時に、どうやったら相手側と自分側との意見をすり合わせたり、場合によっては相手に譲歩するという条件でその時に譲歩すると、例えば自分が政治のリーダーだったら、国民から非難されてしまうから譲歩できないということになるんだとしたら、どういう形でそれを正当化して説明すると非難されにくいのかといった研究は、例えば実験などでできるので、そういうことを積み重ねるといいんですが、なかなか課題は多いのに、いい研究する研究者はまだまだ限られているので、難しさが残っているのかなと思います。

城谷:
情報の非対称性というのが本の中で出てきて、対称であれば何かこう仕掛けが、相手から攻撃されるなどというのが防げるのではないか、ということが書かれていたのですが、例えば対称であった時でも、お互いが同じ量と同じ質を出す時に、お互いが少ない量しか出さない、ほとんど質としてもあまり詳しくないというか、よくわからない質しかお互いが出さない。それが量と質としては対称であったとした時に、それはどう考えたらいいですか。

多湖:
戦争の時であれば、やっぱり情報が非対称で誤解してしまうことが戦争になる時の話です。もちろん協力の時でも、同じ情報の非対称性は協力阻害したりするのですが、囚人のジレンマゲームでも当てはめ得るので、そこだと想像すると、ただ乗りしたいという誘因はあるので、少しずつ出すということになるのかもしれません。
今、2か国で想定してるから、簡単に協力できる可能性を議論してしまいますが、実際国際協力が進まないのは、みんながただ乗りしてしまうという話だから、それを国際関係論でも経済の人たちが分析したりとかなんだろうとは思います。

城谷:
あと一つだけお聞きしたかったのが、和解と交渉の違い、関係を知りたいなと思いました。

多湖:
難しいですね。そこは実はちょっと沼なんだと思うのですが、和解するというのは、もしかしたら相手がやった悪いことを忘れてしまうことで、達成できるかもしれないわけです。
交渉は基本的に国際関係論の中では、戦争と同じ列にあるもので、紛争を解決する手段。和解というのはそれとは全然違うところにあって、戦争が起きた後なので、交渉と戦争は2つ並列でしたが、そのうちの戦争になってしまった後に、どう平和を取り戻すかの時に出てくる概念で、その時に確かに交渉で平和を生み出すこともできるので、その時には和解してなくても、交渉で妥結することができるので、そこで並列になりますが、交渉は和解してなくても戦争を止める場合があります。
しかし和解は多分、交渉がなくても世代が変わって戦争が終わって、相手を許す、忘れてしまうことなどで達成されることもありますし、和解がどういう条件で科学的に生まれるのか。今、みんなが研究しているところなので、難しいですね。
和解を規範的に研究する人たちは早稲田の中にもいますが、それとはやっぱり違って、いかに相手を許せるのかという研究を地道にデータで分析する必要があるだろうなとは思っています。

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