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Vol.5 国際関係論(2/2)/【異なる価値観と共存する作法】アジアから目指す国際平和への学術貢献 / 多湖淳教授
Thu 18 Jul 24
Thu 18 Jul 24
「早稲田大学Podcasts : 博士一歩前」は、早稲田大学に所属する研究者たちとの対話を通じ、日々の研究で得た深い世界や、社会を理解するヒントや視点をお届けします。
異分野の研究から得られる「ひらめき」「セレンディピティ」「学問や世の中への関心」を持つきっかけとなるエピソードを配信し、「知の扉」の手前から扉の向こうへの一歩前進を後押しするような番組を目指しています。
前回に引き続き、早稲田大学政治経済学術院の多湖淳教授をゲストに、
「国際政治を科学する。理論とデータで導く国際平和への処方箋」をテーマにお届けします。
後編のエピソードでは、多湖先生が「国際関係論」という学問領域に興味を持つきっかけとなった中学時代のエピソードから、オスロ国際平和研究所で日本人として国際研究機関に関わるまでの経緯、さらには、海外での研究経験から課題意識を持つようになった欧米が学問の中心となっている「国際関係論」を、アジア・太平洋の視点から発信していくことの重要性について触れてもらいました。
「歴史も価値観も違う他者と自分を認め合い、一つの地球で不満を蓄積させず共存する方法はあるのか?」
「国際関係論」研究の最前線の立場から国際社会における対立を防ぐ他者との関係構築について考えるエピソードをお届けします。
エピソードは下のリンクから
ゲスト:多湖 淳
1976年生まれ。1999年東京大学教養学部卒業。2004年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。2007年東京大学より博士(学術)取得。令和元年度日本学術振興会賞受賞。神戸大学大学院法学研究科教授、オスロ平和研究所グローバルフェローなどを経て、現在、早稲田大学政治経済学術院教授。専門は国際関係論。著書:『武力行使の政治学──単独と多角をめぐる国際政治とアメリカ国内政治』(千倉書房 2010年)、『戦争とは何か──国際政治学の挑戦』(中公新書 2020年)、『政治学の第一歩 新版』(有斐閣 2020年 共著)など。

ホスト:城谷 和代

研究戦略センター准教授。専門は研究推進、地球科学・環境科学。 2006年早稲田大学教育学部理学科地球科学専修卒業、2011年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了博士(理学)、2011年産業技術総合研究所地質調査総合センター研究員、2015年神戸大学学術研究推進機構学術研究推進室(URA)特命講師、2023年4 月から現職。
- 書籍情報
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国際関係論
出版社 : 勁草書房
著 者:多湖淳
出版年月 : 2024年3月
言語 : 日本語
単行本(ソフトカバー) : 288ページ
ISBN-10 : 4326303395
ISBN-13 : 978-4326303397
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エピソード要約
-多湖教授が研究者になったきっかけ
多湖教授が国際関係論に興味を持ったきっかけとして、中学時代に読んだダグ・ハマーショルドの伝記と冷戦後の国際政治の動向を挙げている。また、就活中に父親から勧められたこともあって、研究者の道を選んだ。そして東京大学名誉教授の山本吉宣先生やミシガン大学のデーヴィッド・シンガー教授からの影響を受け、データ分析を用いた科学的な国際関係論を追求するようになる。
-多湖教授の研究
多湖教授の研究は、データ分析を通じて国際情勢や戦争、平和の本質に迫ることに焦点を当てている。最近ではサーベイ実験の手法を用いた安全保障と世論に関する研究も行っており、民主主義国家間の戦争回避における民意の影響についての論文を共同執筆している。多湖教授の研究室は、日本でこの種の実験を行う先駆けの一つであり、早稲田大学のリソースを活用して、国際的な研究協力を進めている。また倫理審査を迅速に完了させる体制の構築にも努めており、社会の出来事に対してタイムリーな実験を実施している。
-多湖教授の考える国際関係論を学ぶ意義
多湖教授は国際関係論が個々の人々や社会全体に与える影響を重視しており、国際関係の理解がいかに重要かを強調している。他国との適切な関係を築く方法を模索していくためには、人々がまず国際関係論を学ぶことが大切だと考えている。
エピソード書き起こし
城谷准教授(以降、城谷):
そもそも多湖先生が国際関係論という学問分野に興味を持ったきっかけと、研究者になった経緯を教えていただけますでしょうか。
多湖教授(以降、多湖):
国際関係に興味を持ったのは、中学校にあった国連事務総長のダグ・ハマーショルドの伝記です。他にもエレノア・ルーズベルトも載っていたと思いますが、それを読んで、ハマーショルドは殉職してしまうのですが、コンゴ内戦の時に和平交渉に行って殉職した人がいたんだと思って、国連に興味を持ったところから始まります。
城谷:
その本を手に取られたきっかけは?
多湖:
そこまではあまり覚えていませんが、その頃、冷戦が終わって、ゴルバチョフとレーガンが核兵器の廃絶に向けて、今までにないことをしたり、湾岸戦争が起きて、ブッシュ大統領が新世界秩序という言葉を出したりとか、国際政治が大きく動いていた時だったのはあったと思いますが、国際連合がすごく魅力のある組織に映りました。
もちろん、その直後、ソマリアとかユーゴスラビアの内戦とか、なかなかうまく機能しないことが露呈していって、国連の限界も現れますが、私は1995年から1999年まで学部で学んでいて、その頃にかなり国際関係が動いていたことは、一つ、理由かなと思います。
なぜ、研究者になったかというと、私、就活はしたのですが、就活して日比谷公園でカレーライスをおごってもらった銀行が2週間後に潰れてしまったんです。たぶん課長面接ぐらいまで行ったんじゃないかと思います。
バブル崩壊後、色々な銀行や証券会社とかが潰れていくような時代の就活で、父親に「民間企業なんて学閥で色々決まって、つまらない場所だからお前は学者にでもなれ」と言われたのが実はきっかけです。しかし父親に本当に感謝なのは、私は研究者をやって、非常に自分の性に合っており、楽しく研究をしているので、父親の助言は大きかったと思いますし、そこで山本吉宣(東京大学名誉教授)先生、実は去年この国際関係論の教科書をお送りする前に亡くなってしまったのですが、山本先生がおられたことは大事で、すごい理論理論した研究者でしたが、データもやられており、科学的な国際関係論の先駆者だと思います。戦争の拡大モデルなら、ブレマー・山本論文だというぐらいの代表作がある方ですが、やはり彼がいたことと、彼を通じてミシガン大学のデーヴィッド・シンガー先生に繋いでいただいて、デーヴィッドのもとで研究ができたのは大きいと思います。
城谷:
多湖先生の研究の根源には、データ分析によって、国際情勢や戦争・平和の本質に迫った、戦争を回避する処方箋を導こうとする姿勢を感じています。
先生の最近のご研究では、安全保障と世論に関しても取り組まれていらっしゃるかと思いますが、その取り組みと、そこからどのような最新の知見を得ておりますでしょうか。
多湖:
まずは下敷きになる理論の説明をした方がいいかなと思うので、民主的平和論、デモクラティック・ピースをご説明したいと思います。デモクラティック・ピースは、アメリカの国際政治学の理論で、批判をする人も多いですが、民主主義国家同士は戦争しにくいというテーゼ自体は、なかなか否定しにくいデータ的なファクトです。
それをどういう理由で起きてるのかを説明するときに、議会があって、リーダーの手を縛るとか、あとは世論がリーダーをある種、その観衆として見ていて、その観衆費用というコストが生じることによって、リーダーが冒険をしにくいとか、色々な説明があります。
その時に民意、世論というのは、世界の中で、民主主義国が特に着目すべきことだというコンセンサスがあって、生まれてきて。2007年くらいから、いわゆるサーベイ実験と呼ばれる研究手法なんですが、世論調査に実験を組み入れて、分析することをやっています。
例えば、今年2024年の1月に出た北海道大学の小浜祥子さんと香港大学のカイ・ケック先生の論文が、『The Journal of Politics』に出ているのですが、エスカレーションをしていくと、危機が起きた時に相手国に対して、脅しではないですが、「あんたがこれ以上こういうことするなら、我が国は軍隊を用いて対処するよ」とリーダーが言ったりするわけです。
実際にそのリーダーが軍隊展開しろ、もしくは実際に攻撃しろと命令してしまうと、エスカレーションがさらに一歩上がるので、エスカレーションラダーを上がっていくと表現するのですが、そこから降りることの研究がすごい大事なんです。
エスカレーションラダーから降りていくことを許容する世論はどうやって生まれるのか、研究するのは安全のためにすごく大事です。カイ・ケックは中国で、私たちのチームはカイ・ケックも含めて、日本でどういう条件だったら、エスカレーションラダーを降りることができるのかという研究をしていて、いくつかの条件で調べてみると、例えば国連からそう言われたからとか、アメリカがそう言ったからとか、第三者が声をかけてきたからラダーを降りましたというのは、なかなか世論は納得しません。むしろ、例えば経済制裁をするので、今回は軍隊を使わないという説明の方が許容される。
そういうことはサーベイ実験、世論を使った実験で検証可能であり、最近は多くのチームがやっていますが、日本だとうちの多湖研究室は、その一つだろうと思います。
城谷:
その世論の実験をするときに、どのように人を集めるのでしょうか。
多湖:
そこはいくつかのやり方がありますが、一つは早稲田だと学部生でもこれを使えるというのは他大学と比べてもすごく大事な点ではないかと思いますが、Qualtricsというオンラインのサーベイ調査を作るプラットフォームがあって、そのURLを色々な形で配っていただく。調査会社とかを通じて配ることもありますし、場合によっては郵送してもいいです。例えば、往復ハガキでQRコード載せるとか。
一度やったことがあるのは、ハガキではありませんが、広島サミット直後に、2週間で用意したと思いますが、広島サミットでフィールドに行って見てみたら、色々な形で住民の方はサミットの影響を受けていることは分かったので、QRコードを送って、ある広島の町区の3,000人に調査したことがあって、それはいわゆる DMの契約をする形で、郵便局から不特定多数の住所が分からなくても相手に届くというのを使って、調査をすることがあります。
城谷:
社会の情勢や出来事に対して、すぐに実験をされるのは、ひとつポイントになってくるのでしょうか。
多湖:
そうですね。機動的に倫理審査が通るような仕組みになるといいなと思いますが、アメリカの大学と組むと、機動的に倫理審査を経て、できたりするので。ダートマス大学の堀内先生とやった実験ですが、アフガニスタン侵攻後、アフガニスタンにアメリカ軍が駐留して、長いこと居ましたが、2021年の8月に撤退しました。撤退すると決まった時、かなり混乱したわけですが、実験を打ちまして、どのような条件だったら日本の自衛隊のレンジャー部隊、架空のシナリオでやったのですが、レンジャー部隊がカブール市内まで入って、いわゆる民間人を救出する。それをNEO、Non-combatant Evacuation Operationsといいますが、そのNEOをしてこいとなるかを首相が命令した場合と、自衛官が命令した場合で比べてみて、結果はちょっと明確には言わないでおきますが、驚くべき結果が出たことがあります。
そのため、on goingで起こってる国際問題について、接近することもテクノロジーはさせてくれます。
城谷:
理工系との連携による実験をされていらっしゃるかと思いますが、そのあたりも教えていただけますか。
多湖:
理工系に所属される心理の先生ともコラボをして、生体反応、例えば、心拍を用いた実験などもやり始めています。
社会科学としての国際関係論が抱える一つの悩みは、社会的な望ましさバイアスみたいなものに、民意が振れてしまう。どういうことかというと、例えば、日本が核兵器を持ちますかと対面で聞かれた時に、特にここに広島の被爆者がいますと言った時に、持ちましょうと意見を言うのは、なかなか勇気がいると思います。そのように実は社会的に望ましい答えが、想定されているものだと、本音を言ってくれない可能性がある。バイアスがかかってしまうかもしれない。その時に使えるのが生体反応。なかなか心拍をコントロールできる人は、スパイでもなければいないと思うので。そうすると生体反応を使って、今やっているのは最近、戦争の映像をみんな見ていると思うので、それに絡んだ研究です。
城谷:
そういった新しい知見が平和を願う社会や、また私たち一個人に対してもどのようなメッセージがあるとお考えでしょうか。
多湖:
新しい知見だけに限らず、国際関係論という学問を、それこそ皆さんに必修で勉強してほしいなと思うのが、他国とどうお付き合いして、自分たちが生きていくのかの作法が書かれているからだと思います。
相手の国、気に食わないでしょうし、怖いと思うかもしれませんが、そういう相手であっても、やっぱり共存しないといけないわけです。私の子供たちは小学生ですが、親のせいで毎朝、BS1チャンネルのNHKのニュースをずっと見ています。アルカイーダも見ますし、シンガポールのニュースも見ますし、香港のニュースも見ています。今日、3回ぐらい見ているのは、フィリピン軍の艦船が中国軍の艦船に衝突されて、フィリピン人の軍人に怪我人が出たというニュースですが、あればかり見ていたら、中国怖いとなってしまうと思いますが、それは印象操作の部分もあるかもしれないし、もしかしたら事実、そのようにきちんと危機を理解すべきなんでしょうけど、そのときにそうは言っても、中国怖いとか、そういうところで止まるのではなく、やはりそういう存在感で、どうやったら共存ができる。適切に相手を怖がったり、関係性を紡ぐという意味で、国際関係論はきちんとみんなが勉強すべき基礎的なものなのかなと思います。
城谷:
多湖先生は国際関係論という学問において、どのようなリサーチクエスチョンをお持ちでしょうか。
多湖:
研究として、課題をどうやって見出していくかということだと思いますが、この教科書、『国際関係論』の中に「国際関係論の方法」という章が終章にありまして、今、クエスチョンという言葉を使っていただいて、それでもいいのですが、もう一つ、パズルを見つけるといいと書いてあって。パズルというのは、自衛権の発動通報の例を出しましたが、そのとき、パズリングだというのは、国連憲章51条には自衛権は通報すると書いてあるが、国家実行がともなっておらず、なかなか国々は通報しないと。しかしルールはある。
なぜ、というパズリングな状況。それを見つけてきちんと解いてあげる、納得できる答えを見つける作業でしょうし、もう一つはいわゆる学問の中で論争があります。その論争を解決するようなクエスチョンを解いてあげる。どちらかが良いと思っていて、私は基本的には安全保障の中でも、同盟とかコアリション、有志連合と呼ばれるものにまつわるパズルとクエスチョンをやってきましたし、今はもっと日本にいて、日本でサーベイ実験を色々な国の人たちとやるようになってきているので。
どうしてかというと、日本でサーベイ実験をやっていて、ノウハウがあるチームだと世界の他のチームから見られているので、多湖のところに持っていけば、こことここでコラボできるみたいになるので、そうすると必ずしも僕個人が持っているクエスチョン、パズルじゃないものについて、答えるなんてこともやったりします。
例えば、チェコと日本の比較を一度したことがありますが、オランダの研究者がチェコの分析対象にしたいと言って、その分析対象にしたい理由が、ヨーロッパから見たウクライナ戦争と、日本から見るウクライナ戦争、逆に言うとヨーロッパから見た台湾と、日本から見た台湾というのをパラレルに見て、軍事介入とか、もしくは戦争が仮に起きた時にどう国際関係を紡ぐかについての態度を見る基礎研究をしたいということで、なかなか苦労している論文ですが、そういう研究があったりします。
城谷:
多湖先生はこれまでオスロ国際平和研究所でグローバルフェローを務められていた経験もおありかと思いますが、そのようなご経験から、日本人、アジア人として国際研究機関に関わる意義はどのようにお感じでしょうか。
多湖:
やはり我々日本人、ないしアジア人は、国際関係論の世界的なコミュニティの中で、まだまだアウトプットを出していくべきです。どうしてかというと、国際関係論はアメリカの学問なんです。もちろんヨーロッパも強いと思いますが、 やはり、ヨーロッパなり、アメリカなりのバイアスがあります。アメリカ人はやはりなかなか国際法教育は乏しいと思うので、国際法にきちんと目配せして、分析する、研究することはなかなか限られているような気がするとか、そういうところにも現れています。
オスロだとPRIOと言いますが、PRIOとかは、やはり見ている方向が中東だったり、アフリカだったりするので、なかなかアジアの紛争について、私たちと同じ感覚は持たなかったりします。もちろん、PRIOも韓国の大学はいろいろ接近してやっているので、朝鮮半島については結構プロジェクトがあったりしますが、どうしても台湾が持つ重要性とか、なかなか理解しているのかと思う時があったりしなくはない。そのため、やはり我々がそういう国際的なconflict studiesとかpeace studyと呼びますが、そういう研究のコミュニティにきちんと入っていって、発信しないといけないと思います。
その意味で『国際関係論』は日本語で書かれていますが、最終的には英語でアウトプットする人を作るという、ちょっと矛盾した作りになっています。どうしてかというと、残念ですが、やはり知的コミュニティの言語は社会科学であればどの分野でもそうだと思いますが、英語で行われているので、もちろん日本語でやる知的研究が内容としてダメだなんてことは言っていませんが、日本語で書かれている以上、英語読者、英語話者には読んでもらえないことになってしまうので、英語でやるところがすごく大事な気がします。
城谷:
実験やデータ分析によるアジアの研究拠点構想もおありかと存じます。日本、そしてアジアから今後どのようなことを世界に発信していくべき、また、されていくのでしょうか。そういった今後の展望や研究展開をお聞かせいただけますでしょうか。
多湖:
早稲田大学に2018年に着任してから、大学の研究の重点補助をいただいて、こういう実験とかデータ分析によるアジア太平洋、もしくはインド太平洋の国際関係研究拠点構想みたいなものを徐々に進めていて、今のところ、例えば院生さん、もしくはポスドク含め、様々なテーマでデータに基づいた科学的な国際関係論をやっている仲間が集まっている状態です。テーマは例えば領土紛争から政治的な謝罪の話とか、よりコミュニケーションの話に近くなっていきますが、public diplomacyというようなテーマとか、そのアジアの視点はやはりきちんと国際発信していくような研究組織は必要だと思っているので、PRIOみたいなところの中に入っていくことも大事ですし、PRIOみたいなものをアジア太平洋、もしくはインド太平洋の中で、特に早稲田大学はそういうポテンシャルがある学生さんも集まりやすいです。研究者も集まりやすい場所なので、毎週木曜日に院生のゼミをやっていますが、ほぼほぼ毎週お客さんが来るような状態なので、いろんな研究者が来て、コミュニティの中軸になるポテンシャルが早稲田はあるので、そういう研究拠点を作ることができればと思っています。
城谷:
これから国際関係論という分野の専門家を目指す次世代の研究者へのメッセージをお願いします。
多湖:
国際関係論という研究は、私が今日説明したものよりももっと厚みがあって、面白い研究だと思います。実は地域研究、area studiesという分野もあって、国とかある地域に特化した研究も可能です。
例えば、韓国研究、オセアニア研究とかも可能です。それも含めて国際関係論は、一緒に地球上で存在していくと運命づけられた他者を知って、他者とどう付き合っていき、かつ他者とどうにかサバイバルしないといけないわけです。地球温暖化もあるけど、みんなで問題解決しないといけないし、戦争している場合じゃないですが、戦争をどうにかして止めるというのもそうですし、戦争を起こさないというのもそうですし。
あとは日々、国際貿易とか国際通貨の取引などで相手とどう付き合ったらいいのか。かつ(コロナ)パンデミックもありました。ああいうものも国際関係の中でどう我々はうまいこと他者と一緒にサバイバルするかに通じると思います。非常に幅の広いテーマを扱える学問。かつ我々の実はその大きな生死に関わるので、能力の高い若い人たちが勉強して、新しい知的生産をしてもらう必要性があると思うので、ぜひアカデミックナビの『国際関係論』から始めていただく、国際関係論に興味を持って学んでいただけると嬉しいなと思います。
城谷:
どういう視点、心を持ってほしいですか。
多湖:
やはり相手も自分と違う歴史を持っていて、立場があって。例えば昔の為政者だとそんな人たちは殺してしまえというかもしれませんが、そんなことができる世界ではないわけです。そんなことは倫理的にもしてはいけませんし、相手も同じように我々の価値観を認めてもらうことに通じるので、相手もいるし僕もいる、私もいる。相互に認めて、どうすればより不満が少ない、不満を蓄積させずに世界を回せるのかということを考えてほしいと思います。