CO2を選択的に吸着・脱離が可能に

二酸化炭素を外部電位のスイッチひとつで選択的に吸着・脱離できることを発見

発表のポイント

  • 2050年カーボンニュートラル実現に向けて、二酸化炭素は選択的回収技術において多大なエネルギー消費が課題となっている。
  • 構造を制御した固体酸化物材料に外部から電位を与えることで、二酸化炭素をスイッチひとつで選択的に吸着・脱離できることを理論的に明らかにした。
  • 本技術によって、従来の液体方式とは異なる、乾式・小型でオンデマンド駆動が可能な二酸化炭素回収・濃縮プロセスを実現できる可能性がある。

早稲田大学理工学術院の関根 泰(せきね やすし)教授らの研究グループは、構造を制御した固体酸化物材料に外部から電位を与えることで、二酸化炭素をスイッチひとつで選択的に吸着することや脱離させることができることを理論的に明らかにしました。

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、温暖化ガス排出抑制が喫緊の課題として取り上げられています。その中で最も量の多い二酸化炭素は、選択的回収技術において多大なエネルギー消費が課題となっていました。

本研究成果はこれまでの液体を用いた二酸化炭素回収とは異なる、乾式・小型でオンデマンド駆動が可能な二酸化炭素回収・濃縮プロセスを実現できる可能性を示しています。高効率で必要なときに必要なだけ二酸化炭素を回収・濃縮することができればカーボンニュートラルに資する新たな技術となりえます。

本研究成果は、2022年10月26日(現地時間)にイギリス王立化学会の『Physical Chemistry Chemical Physics』のオンライン版で公開されました。

論文名:Theoretical investigation of selective CO2 capture and desorption controlled by the electric field
DOI:10.1039/D2CP04108A

(1)これまでの研究で分かっていたこと

二酸化炭素回収においては、物理的あるいは化学的な吸収の手法が長らく提案されてきました。これは回収能力を有する液体に二酸化炭素を吹き込んで吸収させるものです。吸収は比較的容易に行えるものの、放出の際は外部から加熱する必要があり、発電所排ガスの二酸化炭素回収の場合では、生み出した電力の1割以上のエネルギーを消費してしまうという欠点がありました。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

このような中、必要なときに必要なだけ固体材料に二酸化炭素を吸着させ、濃縮したものを外部制御で脱離・放出させられれば、画期的なものとなります。このようなコンセプトのもと、早稲田大学と韓国のHanyang大学が連携した国際共同研究によって、構造を制御した固体酸化物材料に外部から電位を与えることで二酸化炭素を選択的に吸着することや脱離させることができることを理論的に明らかにしました。

(3)そのために新しく開発した手法

今回、希土類の酸化物に異種の元素をドープ※1した材料を用いて、外部から直流の電位をプラスとマイナスのそれぞれで与えた場合の、二酸化炭素の吸着と脱離を詳細に解析しました。その結果、図に示すようにセリウム酸化物という材料に異種の金属を導入した材料を用いて、プラスの強い電位(電流は流さない)を与えた場合に二酸化炭素が選択的に吸着し、マイナスの電位に切り替えると二酸化炭素が脱離することを理論的に明らかにしました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

この発見は、これまでの液体を用いた二酸化炭素回収とは異なる、乾式・小型でオンデマンド駆動が可能な二酸化炭素回収・濃縮プロセスを実現できる可能性を示しています。このようにして得た二酸化炭素を再生可能エネルギーなどと組み合わせて再利用あるいは固定化すれば、化石資源消費を削減した社会の実現に一歩近づくことができます。

(5)今後の課題

本研究はコロナ禍の中での国際共同研究のため、理論化学での検討によりこのような現象が起こりうることを明らかにできましたが、今後は実際にこの材料を用いた二酸化炭素のオンデマンド回収装置を稼働させて、従来に比して低いエネルギーで回収・濃縮が可能なことを実証していきたいと考えています。

(6)研究者のコメント

二酸化炭素の回収に要するコストは、1トン当たり排気ガスからだと2000-5000円程度、大気からだと20000円程度以上かかると言われています。かつ装置が液体を用いた回収と加熱による再生からなり、大型で小回りがきかないものでした。本発見をベースに小型のオンデマンド駆動可能な乾式の二酸化炭素回収装置を実現させ、高効率で必要なときに必要なだけ二酸化炭素を回収・濃縮することができればカーボンニュートラルに資する新たな技術となります。

(7)用語解説

※1 元素のドープ
酸化物の構造をつくる元素に対して、違う元素を微量置き換えて入れることにより、酸化物の構造を歪ませたり性能を向上させることができる手法のこと。

(8)論文情報

雑誌名:Physical Chemistry Chemical Physics
論文名:Theoretical investigation of selective CO2 capture and desorption controlled by the electric field
執筆者名(所属機関名):Koki Saegusa*1, Kenshin Chishima*1, Hiroshi Sampei*1, Kazuharu Ito*1, Kota Murakami*1, Jeong Gil Seo*2 and Yasushi Sekine*1
*1 早稲田大学
*2 韓国Hanyang大学
掲載日(現地時間):2022年10月26日
掲載URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2022/CP/D2CP04108A
DOI:10.1039/D2CP04108A

(9)研究助成

研究費名:JSPS二国間共同研究
研究課題名:電場アシスト二酸化炭素捕捉メカニズムの研究
研究代表者名(所属機関名):Prof. Jeong Gil Seo(韓国Hanyang大学)

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