英会話能力判定エージェントシステムInteLLA(Intelligent Language Learning Assistant)
早稲田大学 グリーン・コンピューティング・システム研究機構(東京都新宿区:機構長 木村啓二、以下GCS研究機構) 知覚情報システム研究所の松山洋一(まつやまよういち)主任研究員、鈴木駿吾(すずきしゅんご)次席研究員、佐伯真於(さえきまお)研究助手らの研究グループは、英会話能力判定エージェントシステムInteLLA(Intelligent Language Learning Assistant)を開発いたしました。
これまでの英語スピーキングテストの多くは読み上げ型のようなものが主であり、「会話能力」の測定の妥当性に欠ける場合がありました。そこで、言語学習者の習熟度や理解度に合わせて会話を調整することで能力を最大限引き出し、言語運用能力を効果的に評価することを目的として、会話能力判定エージェントシステムInteLLAを開発しました。InteLLAは、最新の音声対話システム技術を活用して、人間のインタビュアー同様に自然な発話タイミングの制御や非言語的なやりとり、適応的な対話戦略を通して自然な会話を実現し、学習者の潜在的な会話能力を発揮させることを促します。
InteLLAの能力判定は、言語能力判定の国際標準であるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)に準拠した多次元的な評価を行っています。今後、早稲田大学グローバルエデュケーションセンター英語科目Tutorial Englishでのクラス判定や、大学発ベンチャーを通して英会話学校やGIGAスクール、個人セルフラーニング向けのサービスとして展開されていくことが期待されています。
QS-Wharton Reimagine Education AwardでBronze賞を受賞
2021年12月10日、InteLLA(Intelligent Language Learning Assistant)開発プロジェクトは、革新的な教育の取り組みを表彰する世界最大級の教育コンテストQS-Wharton Reimagine Education Award 2021におけるLearning Assessment Category(能力判定部門)にてBronze賞(銅賞)を受賞しました。
【受賞概要】
コンテスト名称:QS-Wharton Reimagine Education Award 2021
https://www.reimagine-education.com/
主催:クアクアレリ・シモンズ(QS)社 および 米国ペンシルベニア 大学ウォートン校(MBA)
部門と賞:Learning Assessment Category(能力判定部門)Bronze賞(銅賞)
発表日:2021年12月10日(金)
QS-Wharton Reimagine Education Awardは、英国の大学評価機関のクアクアレリ・シモンズ(QS)社と米国ペンシルベニア 大学ウォートン校(MBA)とが主催する世界最大級の教育イノベーションのアワードとして世界的に有名です。AIやVR/AR、Eラーニング、能力判定等、複数の部門から構成されます。主なスポンサーにGoogle Cloud、Amazon Web Services、IBM、Microsoft、Salesforce等が名を連ね、過去にはハーバード大学、MIT、カーネギーメロン大学等の海外有力大学の研究や世界的に有名な教育アプリ等が受賞しています。
InteLLA開発プロジェクトの今後の狙い
- AI分野における位置づけ:英会話授業の教室を一つの小さな社会と見立てて、そこでチュータや学生と一緒に成長できる会話エージェントの設計パラダイムを提案している点にInteLLA開発プロジェクトの独創性があります。一般的にAIを作るには、大量かつ良質なデータを必要としますが、本研究では大規模なデータが収集しやすい「オンライン英会話授業」に焦点を当てています。また、人間であっても説明がしにくく、複雑かつ主観的にもなりうる「評価」という行為に対して、言語能力に関する国際標準であるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を用いることで、信頼性の高い教師データが期待できることも、本研究がAI研究としても有望な点です。
- AIの説明可能性:AIの推論結果の説明可能性は社会においても切実な問題です。InteLLA開発プロジェクトで取り組まれている能力判定結果への信頼性や納得性は、教育の品質そのものを担保するものになることが期待されます。
- デジタル社会への展開:新型コロナウィルス感染症蔓延に伴って加速する社会のオンライン化、メタバース(仮想現実)化の潮流にも合わせて、InteLLA開発プロジェクトで開発された技術は英会話のみならず広い分野への応用が期待されています。
委託事業
- InteLLA開発プロジェクトは、本研究グループが2020年度に採択を受けて現在推進中の、国⽴研究開発法⼈ 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「⼈と共に進化する次世代⼈⼯知能に関する技術開発事業」の「⼈と共に成⻑するオンライン語学学習⽀援AIシステムの開発」(研究代表:松⼭洋⼀) の取り組みの⼀環として委託研究されています。新型コロナウィルス感染症蔓延に伴うオンライン教育のニーズの高まりも背景として、InteLLAを皮切りに、研究グループが培ってきた会話AI技術をフル活用して、学習者と教育者の双方に対して納得感のある先進的な英会話教育支援を実現することを目指しています。
研究開発体制
- GCS研究機構知覚情報システム研究所(所長:小林哲則)の研究員を中心として、教育・総合科学学術院 澤木泰代(さわきやすよ)教授、グローバルエデュケーションセンター 近藤悠介(こんどうゆうすけ)准教授らが専門家の立場から英語能力判定や言語テスト設計の検討をし、株式会社早稲田大学アカデミックソリューションが実験環境の提供を共同で担っています。開発協力チームとして米国ピッツバーグのChoitek合同会社(エージェントエンジン開発)、株式会社知能フレームワーク研究所(クラウドソーシング技術)、山崎企畫研究所(大規模データ分析プラットフォーム開発)等、国内外の対話技術、機械学習、第二言語習得、言語テストの気鋭が参画する分野横断的な試みです。
研究開発チーム
【InteLLA開発】
- 松山 洋一:GCS 研究機構 主任研究員(全体統括)
- 佐伯 真於:GCS 研究機構 研究助手(対話システム開発)
- 鈴木 駿吾:GCS 研究機構 次席研究員(英語能力判定開発)
- Florian Pecune:GCS 研究機構 次席研究員(対話システム開発)
- 髙津 弘明:GCS 研究機構 次席研究員(対話システム開発)
- Weronika Demkow:GCS 研究機構 RA (データアノテーション品質管理)
- 松浦 瑠希:GCS 研究機構 RA(能力判定開発)
- 塚原 千紘:GCS 研究機構 RA(データ分析)
- 宮城 琴佳:GCS 研究機構 RA(対話システム開発)
- 徳永 涼介:GCS 研究機構 RA(Webフロントエンド開発)
- 中下 咲帆:GCS 研究機構 RA(Webフロントエンド開発)
- 髙木 燎:GCS 研究機構 RA(語学テスト開発)
- 中野 鐵兵:株式会社 知能フレームワーク研究所(クラウドソーシングシステム開発)
- 斎藤 奨:株式会社 知能フレームワーク研究所(クラウドソーシングシステム開発)
- 上田 賢次郎:株式会社 知能フレームワーク研究所(クラウドソーシングシステム開発)
- 山﨑 智仁:山﨑企畫研究所(大規模教育データ分析基盤開発)
- 玉手泰史:Tamate Creative( Webデザイン)
- John Choi:Choitek LLC(エージェントシステム開発)
【実験環境提供・研究協力】
- 株式会社 早稲田大学アカデミックソリューション
【アドバイザー】
- 澤木 泰代:教育・総合科学学術院 教授
- 近藤 悠介:グローバルエデュケーションセンター 准教授
- 藤江 真也:千葉工業大学 先進工学部 未来ロボティクス学科 教授
- 小川 哲司:理工学術院 教授
- 小林 哲則:理工学術院 教授