Notice大切なお知らせ

原核生物のUV耐性は概日リズム刻む

原核生物のUV耐性が概日リズムを示すことを発見

発表のポイント

  • シアノバクテリアの紫外線(以下UV)耐性が24時間周期で調節されていることを発見した。
  • シアノバクテリアはUV耐性とグリコーゲン代謝活動を時刻に応じて巧みに使い分けていることを示した。
  • 体内時計の持つ性質が、生物種を越えて原核生物にも共通していることを明らかにした。

早稲田大学理工学術院の川﨑 洸司(かわさき こうじ)氏(研究当時:早稲田大学先進理工学研究科博士後期課程)および岩崎 秀雄(いわさき ひでお)教授の研究グループは、シアノバクテリア※1のUV耐性が24時間周期で調節されていることを発見しました。

今回、研究グループはシアノバクテリアにUVを照射した後に細胞を暗所に移すという手法により、シアノバクテリアのUV耐性が24時間周期で調節されていることを発見するとともに、シアノバクテリアがUV耐性とグリコーゲン代謝活動を時刻に応じて巧みに使い分けていることも示しました。今回の発見は、様々な生物種で保存された適応戦略が原核生物にまで共通していることを示しており、背後の分子機構やその生理的意義、体内時計(概日時計)の進化的起源を理解する上で重要な知見となることが期待されます。

本研究成果は、2020年11月30日(月)に米国生物学専門誌(オープンアクセス誌)『PLOS Genetics』のオンライン版で公開されました。

論文名:Involvement of glycogen metabolism in circadian control of UV resistance in cyanobacteria
(シアノバクテリアにおけるUV耐性の概日制御へのグリコーゲン代謝の関与)

(1)これまでの研究で分かっていたこと

生物は昼と夜の移り変わりにより生じる環境変化に日々晒されながら生きています。このような24時間の周期的な環境変化に適応するために、生物は体内時計(概日時計)を備えています。体内時計は、一日の長さ(24時間)を自分の体内で測ることで、一日のうちに起こるイベント(例えば夜がくるタイミングなど)を予測して行動することを可能にします。体内時計はバクテリアからヒトまで様々な生物に備わっていますが、その仕組みは生物ごとに大きく異なることが知られています。しかし、体内時計のいくつかの性質は広く生物種を越えて保存されています。例えばUVへの耐性はいくつかの生物で日中に高く、夜間に低くなり、概日リズム※2を示します。つまり、生物はUV照射量が日中に豊富となり夜間に低下することを知っており、そのような変動を予測して適応していると言えます。これらの知見が基になり、昼夜の移り変わりに伴い変動するUV照射への防御機構として、体内時計は獲得されたとする仮説が提唱されてきました。しかし、体内時計を持つ最も単純な生物として知られるシアノバクテリアにおいてUV耐性リズムが見られるかについては、20年以上前から提起され、検出が試みられてきましたが、見出すことができておらず、そのためUV耐性の概日リズムが原核生物にまで共通した性質であるのかどうかはわかっていませんでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

シアノバクテリアもUV耐性を24時間周期で変化させていることを発見

本研究グループは、実験条件を改善することで、単細胞性のシアノバクテリア、シネココッカス (Synechococcus elongatus PCC 7942)のUV耐性が概日リズムを示すことを発見しました。

シネココッカスは体内時計の研究に古くから用いられ、時計の仕組みや様々な生理現象が示す概日リズムについて最もよく研究されてきたモデル生物のひとつです。しかし、シネココッカスのUV耐性が体内時計によって制御されていることはこれまで明らかになっていませんでした。

本研究グループは、一日のうち様々な時刻でシネココッカスに対してUV照射を行った際に、細胞を数時間暗期へ晒しておくことで、その後の成長が時刻依存的に著しく変化することを見出しました。このような実験条件のもとでは、シネココッカスのUV耐性は昼に高く、夜に相当する時刻で低くなっていることがわかりました(図1)。さらに、時計遺伝子※3を破壊したシネココッカス(kaiABC欠損株)では、このような24時間周期のリズムは消失していました。

図1:シアノバクテリアのUV耐性の概日リズム (A)実験の概要。シアノバクテリアの細胞に一日のうち様々な時刻でUV照射と暗処理を施した。UV照射後に短時間の暗期(黒バー)に晒すことがリズム検出の鍵である。(B)シアノバクテリアのUV耐性が示す約24時間の周期の自律的な振動。12時間目から24時間目が夜に相当する時刻であり、野生株では夜間はUV耐性が低くなっていた。

UV耐性とグリコーゲン代謝の密接な関わり

本研究グループはシアノバクテリアの遺伝子の中から、UV耐性リズムの発生に重要な役割を持つ遺伝子を探しました。その結果、グリコーゲン※4の分解に関わる遺伝子がUV耐性の概日リズムに深く関与していることがわかりました。シネココッカスではグリコーゲンの合成と分解の活性も概日リズムを示すことが知られています。グリコーゲンの分解活性が高い時刻にはUV耐性が低く、二つのリズムのピークが交互に繰り返されることがわかりました(図2左)。一方、グリコーゲン分解遺伝子を破壊するとUV耐性は昼夜を問わず高く保たれ(図2右上)、逆にグリコーゲン分解やエネルギー産生能が向上するような既知の変異体ではどの時刻でもUV耐性は低く、一定の状態でリズムが停止していました(図2右下)。本研究グループはその後の解析から、UV照射後に薬剤でエネルギー(ATP)合成を阻害することがUV耐性の低下を打ち消すことも見出しています。つまり、UVが照射された際にエネルギー産生がより多く起きていることがシアノバクテリアの生存にとって深刻なダメージを与えることがわかりました。

図2:UV耐性とグリコーゲン代謝の関係

明暗サイクル下での生育とストレス耐性のトレードオフ

以前の研究から、実験室内で明暗サイクルを昼夜の変動を模して与えた場合、野生型のシアノバクテリアよりも生育が向上する変異体がいくつか報告されていました。これらの変異体は、野生株よりも明暗サイクル下で適応的であると言えます。それにも関わらず、このような変異体は進化の過程で選抜されておらず、多数派となっていません。

明暗サイクル下で一見適応的に見えるこれらの変異体は、本研究グループの解析によるとUV耐性が著しく低くなる、代謝の活発な変異体たちでした。一方、UV耐性が恒常的に高まるような変異体は、明暗サイクル下で軒並み生育が低下するものでした。つまり、明暗のサイクル下でエネルギーの利用効率を高められる変異体はストレスに弱く、ストレスに強い変異体は明暗のサイクルを上手く生きていくことができないという可能性を示唆しています。UV耐性とエネルギー代謝の二つの性質は、一方を高めることで他方を失ってしまうトレードオフの関係にあると言えます。シアノバクテリアはこのような制約の中で、自身の適応度を最大限に高めるために、両立できない二つの性質の間のバランスを、体内時計を用いて巧みにコントロールしていると考えられます(図3)。

図3:UV耐性とエネルギー代謝を巡る生存戦略  両立できない二つの性質のうちどちらを優先するべきか、二つの間のバランスを時刻に応じて変化させている。

(3)そのために新しく開発した手法

今回の研究では、「UV照射後に細胞を暗所に移す」という処理(図1A)が最も重要でした。それを施さなかった場合には、UV耐性のリズムは検出されません。これが、従来から多くの試みがなされたにも関わらず、原核生物のUV耐性リズムが発見されてこなかった理由です。白色光を照射し続ける条件では、光回復酵素※5という強力なDNA損傷修復機構がUVによるDNA損傷を強力に修復(光回復)します。このため、時計による調節を見えにくくしていたと考えられます。これに対して、数時間の暗期を与えた細胞では、光回復の阻害に晒されることで、時計によるUV耐性の調節が露わになったと考えられます。一見すると複雑に見える実験条件も自然界で考えてみると、日中の強いUV照射が雲で一時的に遮られた際を想像すると理解することができます。シアノバクテリアは、日中はUVの照射量が強いということだけでなく、雲による遮光というノイズ的な環境の変動によって、光回復機能を使ったUV防御機構が突然使えなくなる可能性があることを理解しているとも考えられます。一方、夜間には光回復機能も使えない代わりにUV照射もなくなるため、時計としてもわざわざ潜在的にUV耐性を上げておく必要はないと考えられます。

(4)研究の波及効果や社会的影響

シネココッカスをはじめ、藻類などの光合成生物はバイオマス燃料や有用物質の生産を目的とする工学応用の面で近年注目を集めています。藻類の大量培養を目的とする室内型のプラント等では、UVストレスを低減することができます。つまり自然環境とは異なり、生物はUVストレスを予測して備える必要はなく、その分エネルギー生産にリソースを分配することができます。ストレスがない環境なら、体内時計をどこかの時刻で止めておいた方が沢山のエネルギーを作ることができる可能性があります。今回得られた知見を基にして、体内時計を介した大規模な代謝改変によりエネルギー代謝とストレス耐性のバランスを制御できるようになれば、成長速度や物質生産量が向上することが期待されます。

(5)今後の課題

今回、本研究グループはシアノバクテリアのUV耐性の概日リズムを見出しました。これは生物種を越えた共通の適応戦略の存在を示しています。光合成を行う真核微生物の示すUV耐性の概日リズムは20年近く前に発見されましたが、これらの生物の体内時計の仕組み自体が明らかでない部分も多く、体内時計によるUV耐性制御の分子機構の詳細は不明なままです。今回本研究グループが明らかにしたUV耐性リズムの制御機構は、今後他の生物種の研究を推進する足がかりとなる可能性があります。

(6)研究者のコメント

UVの影響から逃れるために生物は体内時計を進化させてきたという有名な仮説があり、体内時計によるUV耐性の制御は重要なトピックとされてきました。シアノバクテリアも20年前からその存在の有無が検証されてきましたが、どの研究グループも実際に観察することができずにいました。今回提示した手法によってUV耐性リズムが観察されたことは、今後他の生物種での検証の参考になると考えます。さらに、時計遺伝子との関連や、グリコーゲン代謝との関連性(トレードオフ)を示唆することで、背後の分子機構やその生理的意義、体内時計の進化に関する考察に繋がる知見を提供できたことが、この論文の重要な成果と考えています。

(7)用語解説

※1 シアノバクテリア
藍藻(らんそう)とも呼ばれ、光合成を行う原核生物(バクテリア)。今回の研究で用いたシネココッカスは細胞の長さが約5 µm程度の小さな単細胞生物。

※2 概日リズム
体内時計(概日時計)によって駆動される約24時間周期のリズムのこと。夜になると眠くなり、朝になると眼が覚めることも概日リズムの一つ(睡眠覚醒のリズム)である。

※3 時計遺伝子
体内時計(概日時計)を構成する一連の遺伝子群のこと。シアノバクテリアのkai遺伝子群は、名古屋大学の近藤孝男教授・石浦正寛教授らの研究グループのもと、岩崎秀雄教授も参加して1998年に報告した時計遺伝子であり、回転kaitenに因んで名づけられた。2020年5月、岩崎秀雄教授らの研究グループは、これまで必須と考えられてきた時計遺伝子の一つであるkaiAがなくても弱い概日振動を生み出すことができることを発表した。

※4 グリコーゲン
ブドウ糖(グルコース)が多数連結した生体内高分子。生体内ではブドウ糖をグリコーゲンへと変換することで貯蔵している。シアノバクテリアのような光合成生物は夜間には光合成によってエネルギーを生み出すことができないため、貯蔵しておいたグリコーゲン(もしくはデンプン)が夜間のエネルギー源として重要な役割を担う。

※5 光回復酵素
生体内でDNAの損傷を修復する酵素の一つ。UVに晒されることで生体内のDNAは損傷を受ける。光回復酵素は青色光をエネルギー源としてこれらのDNAの損傷を修復する。光回復酵素は真核生物における時計遺伝子の一つクリプトクロムの祖先遺伝子と言われている。

(8)論文情報

雑誌名:PLOS Genetics
論文名:Involvement of glycogen metabolism in circadian control of UV resistance in cyanobacteria
(シアノバクテリアにおけるUV耐性の概日制御へのグリコーゲン代謝の関与)
執筆者名(所属機関名):川﨑洸司(早稲田大学 先進理工学研究科 博士後期課程(研究当時)、日本学術振興会特別研究員DC2(研究当時))筆頭著者、岩崎秀雄(早稲田大学 先進理工学部 電気・情報生命工学科)責任著者
掲載日:2020年11月30日(月)
DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1009230

(9)研究助成

研究費名:科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
研究課題名:概日時計を介するUV適応体制と細胞代謝の時間的調整
研究代表者名(所属機関名):岩崎秀雄(早稲田大学)

研究費名:科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
研究課題名:概日時計を介した適応戦略の解析:UV耐性とエネルギー代謝のトレードオフ仮説
特別研究員(所属機関名):川﨑洸司(早稲田大学)

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる