Notice大切なお知らせ

過去の感染症から、いかに学ぶか

早稲田大学高等研究所ウェビナー「ポストコロナの社会:学際的アプローチ」 第2回
〈感染症の社会経済史的考察:新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大への含意を念頭に〉

世界中に蔓延する新型コロナウイルスは、人類の健康生命だけではなく、世界経済、人々の生き方にまで大きな影響を及ぼしており、私たちは長い戦いを強いられる可能性もあります。こうした課題に対してあらゆる分野の研究者が横断的にアプローチするため、早稲田大学高等研究所では、2020年6月19日から8月6日にかけて、ウェビナー「ポストコロナの社会:学際的アプローチ」を開催します。ウェビナーの動画はZoomとYou Tubeにて同時に配信しており、学生・教職員のみならず幅広く一般の方々もご視聴いただくことができます。

2020年6月26日には、本ウェビナーの第2回を配信しました。「感染症の社会経済史的考察:新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大への含意を念頭に」を演題とし、鎮目雅人(本学政治経済学術院教授)を講演者に、稲村一隆(本学政治経済学術院准教授)を討論者に迎え、有村俊秀(高等研究所副所長・政治経済学術院教授)の司会のもと進行。関心が高まる過去の感染症が、現代に与える有益な示唆について考察しました。

鎮目雅人教授(右上)、稲村一隆准教授(下)、有村俊秀副所長(左上)

ウェビナーの前半では、日本経済史、金融史、貨幣史を研究分野とする鎮目教授が講演。経済史の観点から、過去の感染症流行に対するアプローチの方法を解説しました。冒頭では、「病理学的、疫学的に類似する感染症であっても、各時代・地域における社会のあり方によって、社会的影響は大きく異なる。事例を現代に単純に当てはめることには慎重であるべきだが、そのことは過去の歴史に学ぶことができないことを意味しない。時代や地域における社会のあり方が、感染症流行の社会的影響にどのような違いをもたらしたのかを知ることは、現代に生きるわれわれに有益な示唆を与えてくれる。過去の事例における先行研究に基づき、歴史的観点からの整理を試みるとともに、現代への含意を探る」と本講義の主旨を述べました。

鎮目教授ははじめに、天然痘やペストなど、前近代における疫病被害を分析した上で、近代における公衆衛生の普及やワクチン・治療薬の開発などが死亡率の低下に果たした役割を解説。さらに、産業化と死亡率・平均寿命の関係を分析し、「近代以降の感染症死亡率の低下に対し、市場を通じた経済活動が果たした役割は限定的」であったという先行研究を提示しました。

つづいて、1918〜20年のスペイン風邪について、第1〜3波の流行地域や死者数、国際協調や第一次世界大戦との関連を解説。また、日本の状況についても、政府の対応や地域別の感染状況をデータとともに説明しました。その上で、スペイン風邪と経済活動との関連について、「政策対応ならびにその経済的効果は、今回の新型コロナウイルスの状況と大きく異なることを示唆している」と見解を述べました。

鎮目教授は、歴史的分析を踏まえた上で、現代への含意を考察します。過去の感染症に対しては、「感染症自体の影響と、感染症対策としての政策の影響は区別して考える必要がある」と述べ、1918年から現代に至る変化として「経済活動に対する自由放任主義が100年前の規範であったこと」「総力戦に代表される企業活動や市民生活への政府の介入に対し、人々の意識が変化したこと」「基本的人権としての生存権が時代とともに認知されていったこと」を挙げました。

1918年のインフルエンザと今回の新型コロナウイルス感染症とは社会的環境が大きく異なること、総力戦体制下の戦時とは経済的課題が異なることを踏まえた上で、現代においては、Social Distancingといった「行動変容」要請が長期化する場合に、「需要の質的変化に対する供給面の構造転換が要請された事例」が参考になると分析。日本においては戦後復興期や第1次・第2次石油危機がその事例にあたり、これらは紆余曲折を伴いながらも、長い目でみれば需要の質的変化に日本の企業や労働者が柔軟に対応し、政策がこれを支援したという意味で、成功に近い例であったと述べます。また、「政策の選択は、各社会の歴史、人々の価値観(資本主義、民主主義、生存権に対する考え方など)に依存する」との見解を提示しました。

スペイン風邪の際に日本政府が配布したポスターを例に、当時の社会を解説する鎮目教授

講演の後、政治哲学、西洋政治思想史を研究する稲村准教授は、古代アテネの疫病について解説した上で、鎮目教授に対して質問。スペイン風邪の際の「経済活動における自由放任主義」の程度、マクロ経済政策上の課題や経済活動自粛の効果、供給面の構造変化における政府のアプローチ方法など、講演内容を深める、活発な質疑応答がなされました。

最後に、視聴者の方から「現在、感染状況をリアルタイムに計測・公表することで、市民の行動に影響を与えているが、感染状況の把握はどのように変遷してきたか」という質問があり、鎮目教授は「データサイエンスを活用したリアルタイムの感染把握はなかったものの、百年前も新聞などによる報道が活発にされていた。現代における情報の提供方法の進化は重要なイノベーションのひとつ」と回答。また、有村副所長からは「自粛要請・規制における、日本と諸外国の、哲学的・歴史的な違いはあるか」という質問があり、稲村准教授は「国家緊急権の有無が大きい。日本は戦争の反省の上に憲法があるのに対し、ヨーロッパは長期的に構築された統治体制を持つ点が異なるのではないか」と回答。鎮目教授は「社会を構成する人々の常識が、政治をつくる。政策をつくり上げていく過程での試行錯誤には重要な意味がある」とコメントし、ウェビナーを括りました。

古代アテネの疫病について解説する稲村准教授

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/top/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる