卒業生へ贈る言葉 総長 田中愛治

卒業生へ贈る言葉 -2019年度卒業生へ-

 2020月3月25日

早稲田大学総長 田中愛治

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。卒業される皆さんはもちろん、これまで卒業生を支えてこられたご家族・ご親族の皆様も、たいへんお喜びのことと存じます。ここで、早稲田大学を代表して、わたしからお祝いの言葉を申し述べさせていただきます。

田中愛治総長

本来であれば、卒業式で皆さんに直接、お祝いを述べるところなのですが、今年は新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、たいへん残念ながら、卒業式を中止することにいたしました。

卒業式は、皆さんが早稲田大学で学んだ成果として学士号、あるいは修士号・博士号を取得した努力を讃え、お祝いする場です。それを中止せざるを得なかったことは残念でなりません。皆さんの悔しい気持ちは、わたしたちの想像を超えるものでしょう。教職員一同、たいへん申し訳なく思っております。

早稲田大学は、海外からの留学生が日本で一番多い大学で、現在一年間に約8千名弱の留学生が学んでおります。卒業する方だけでも、約1,500名が海外からの留学生です。また、日本で育った方で、卒業式前に海外で過ごしている方も多いと思います。現在、新型コロナウィルスは、日本を含め世界各国で依然として感染が拡大しております。そのような状況を考えますと、一万人近い卒業生を送り出す早稲田大学の大規模な卒業式の実施は、4月から新しい一歩を踏みだす皆さんを感染の危険にさらすことになります。それは絶対にできない、とわたしたち教職員は考えたのです。

こうした状況を踏まえ、わたしはここで早稲田大学を代表して、卒業される皆さんを送り出す言葉をお贈りしたいと思います。

皆さんが学んで来た早稲田大学は、1882年に大隈重信侯が創立して以来、日本の私学を代表する大学として幾多の優れた卒業生を輩出してまいりました。その中には、石橋湛山氏をはじめとする7名の総理大臣が含まれ、またソニーの創業者である井深大(いぶか・まさる)氏をはじめとする多くの財界のリーダーを輩出しております。近年でも、経済同友会代表幹事の直近の4名のうち3名の方が早稲田大学の出身です。

しかし、皆さんが、これから社会に出て、日本で、また世界で仕事をしていく際には、早稲田大学出身という肩書きだけで、生きていくことはできません。皆さんは、早稲田で学んだことを活かして、今後は自分の頭で考え、生き抜いていく必要があります。

今日、人類が直面している問題の多くには、正解がありません。現在、地球上の至る所で、感染が拡大している新型コロナウィルスの封じ込めはその典型でしょう。そのほかにも、地球の温暖化、世界の人口爆発、異なる宗教間や民族間の紛争、あるいは日本でも地方都市の衰退や少子高齢化など、解決への対策を考える際に、これが正解だといえる答えのない問題が山積しています。

そうしたとき、早稲田大学で身につけた「しなやかな感性」は、問題解決の重要な前提となります。新型コロナウィルスの封じ込めも、あらゆる差別を無くすことを考えながら進めなければなりません。

さらに、必要なものは、学問です。学問は、人類が文字を持って以来、五千年を超える人類の経験のエッセンスを体系的にまとめたものです。皆さんは、人類の経験が集約された学問の一端を早稲田で学びました。これから大学院に進み、さらに学び続ける方もいると思います。

学問を活用することは、単に知識を振りかざすことではありません。そこには「なぜ、このような問題が起きているのか」という問題の原因を探り、問題の解決策を考える知性、すなわち人類の未知の問題に挑戦する知性が必要なのです。わたしは、そのような知性を「たくましい知性」と呼んでいます。

皆さんは、早稲田でその「たくましい知性」と「しなやかな感性」を身につけたか、身につけかかっているのではないでしょうか。わたしは、皆さんがそのような学問に基づく知識を基礎に置きながら、自分の頭で誰も答えを知らない問題に挑戦し、その解決策を考えていく人材になって欲しいと願っております。

また、早稲田大学は、皆さんがそのように育つことを多くの教員が願って教育をしてきた大学であると信じております。皆さんは、早稲田大学で学んだことに自信を持ち、今後は社会に、あるいは大学院に進んでください。

いま早稲田大学を卒業する皆さんに、わたしからお贈りしたいもう一つのアドバイスは、流行に左右されず、自分が面白いと思うことに、やり甲斐があると感じることに向かって、進んで欲しいということです。流行は、五年もすれば変わります。自分がやりたくないことを流行に乗って行なっても、自分の80%か90%の力しか発揮できないでしょう。やり甲斐があると自分が思うことに全力で向かえば、120%くらいの力が発揮できるはずです。80%の力で仕事をしている人と、120%の力を出して仕事をしている人とでは、優れた成果をあげるのが後者であることは明らかです。このことを心に刻んで卒業してください。これは毎年、卒業するわたしのゼミ生に贈ってきた言葉ですが、総長になってからは、早稲田大学を卒業するすべての学生に贈ることにいたしました。

最後に、わたしが2018年11月5日に総長に就任してから、早稲田の全教職員と全校友(「校友」とは卒業生のことです)にお伝えしてきた決意を述べます。わたしは、早稲田大学を何十年かけてでも「世界で輝くWASEDA」にする、という決意と覚悟を固めるべきだと唱えてきました。総長就任以来、わたしが繰り返し述べてきたことは、教員も職員も全員が、「いずれは自分を追い越してくれるであろう若い優秀な人材を採用し、自分を追い越すようにかれらを育てる」という気持ちを持ち、早稲田大学を運営していけば、早稲田は二十年後には、世界で輝く大学になる、ということです。

同じように、皆さん早稲田の卒業生が、わたしたちを追い越す勢いで、世界で活躍すれば、皆さんの活躍がきっと早稲田をより一層輝かせると信じています。世界に貢献することは、必ずしも海外で仕事をすることだけではありません。世界的に知られる国際連合やIMFのような組織で活躍することだけではなく、日本国内や海外を問わず、どのような町や村にいようとも、またどのような規模の企業や団体、組織であろうとも、皆さんがグローバルな視野を持ち、人類社会に何らかの形で貢献すると考えれば、そのことが、皆さんを自ずと輝かせ、さらには早稲田を「世界で輝く大学」へと導いてくれると思います。

ですから、いま、早稲田を巣立っていく卒業生の皆さんには、「自分が卒業した大学は、いずれ世界で輝く一流の大学になる」と考えていただきたいと思います。皆さん、是非とも早稲田で自分が学んだことに自信を持ち、やり甲斐のあると思うことに精力を傾けて、人生を切り開いていってください。

皆さん、お一人お一人の早稲田で過ごした日々が充実したものであったことを確信しつつ、お祝いの言葉を締めくくりたいと思います。

卒業後も、時々は母校に帰って来てください。その時には、今よりも輝いている早稲田で、今よりも輝いている皆さんと、お会いしましょう。

卒業生諸君、ご卒業、本当におめでとう!

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