Notice大切なお知らせ

エステルからエステルをつくる?!

COガスを用いないエステル合成法

世界初・独自の金属触媒を用いたエステル転移反応の開発

発表のポイント

  • エステル骨格を他の化合物に移動させるエステル転移反応の開発に世界で初めて成功。
  • 独自に開発した金属触媒を用いて効率的なエステル転移を実現。
  • 有毒ガスを用いない新たなエステル合成の標準手法を提供。

早稲田大学理工学術院の山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう)教授らの研究グループは、独自に開発した脱一酸化炭素金属触媒により、芳香族エステル(※1)のエステル骨格を異なる芳香族化合物へと移動させるエステル転移反応の開発に世界で初めて成功しました。

これまで遷移金属触媒を用いて芳香族ハロゲン化物から芳香族エステルをつくる場合、過剰量のCOガス(一酸化炭素ガス)を使用する手法が一般的でした。しかし、その毒性と煩雑な操作を必要とする点から一酸化炭素ガスに代わる試薬の開発が望まれており、精力的に研究されています。

今回の研究では、独自で開発したニッケル触媒を用いて、芳香族エステル(Ar3–COOAr2)からエステル骨格(COOAr2)を取り除いて、別の芳香族化合物(Ar1–X)へと移動させるエステル転移反応の開発に成功しました。芳香族エステルのエステル部位(COOAr2)をそのままエステル化剤として用いることのできるユニークでシンプルな反応です。

今回の研究により、20種類以上の芳香族化合物をエステルへと変換できることがわかっており、有毒ガスを用いない新たな芳香族エステル合成の標準手法を提供することとなります。

本研究成果は、アメリカ化学会誌『ACS Catalysis』のオンライン版に2020年2月25日(現地時間)に掲載されました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

遷移金属触媒を用いて芳香族化合物を自在に変換する手法の開発は有機合成化学における大きな目的の一つです。

遷移金属触媒を用いて有機化合物に頻出する構造の一つである「芳香族エステル」を合成する際には過剰量の一酸化炭素ガスを用いる手法が一般的でした。大変信頼性の高い手法ですが高い毒性のガスを使用する点と煩雑な実験操作を必要とする点といった改善すべき点が残されています。そこで一酸化炭素ガスに代わる試薬を用いた新たなエステル合成法の開発が望まれており、様々なグループにより精力的に研究されてきました。

(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと

早稲田大学の研究グループ(先進理工学研究科博士後期課程1年一色遼大、同修士課程1年稲山奈保実、理工学術院武藤慶講師、同山口潤一郎教授)は芳香族エステルのエステル骨格を別の芳香族化合物へと移動させる「エステル転移反応」を用いた芳香族エステルの新たな合成法の開発に挑戦しました。

(3)そのために新しく開発した手法

その方法は、芳香族エステル(Ar3–COOAr2)からエステル部位(COOAr2)を取り、芳香族化合物(Ar1–X)へと移動させるものです。芳香族エステル部位(COOAr2)をそのまま移動させるという大変シンプルな手法ですが、この反応の実現にはエステルを効率的に移動させる金属触媒が必要でした。

今回、独自で開発したニッケル触媒により、この新しい反応の実現に至りました。

(4)今回の研究で得られた結果及び知見

研究室が開発したニッケル触媒(Ni-dcypt, Ni-dcppt)をつかうと、20種類以上の芳香族化合物へ、エステル骨格を導入できることがわかりました。

この触媒で重要なのは配位子(※2)(金属以外の部位。dcypt、dcpptと呼ぶ)です。

この配位子を変更すると反応はほとんど進行しません。また、従来のカルボニル転移反応とは異なり安定で取り扱い容易な芳香族エステルを使用できるといった特徴もあります。また、dcyptは試薬会社より販売されています。

(5)研究の波及効果や社会的影響

今回開発した「エステル転移反応」は毒性の高い一酸化炭素ガスを使用しない新たなエステル合成手法を提供します。また芳香族ハロゲン化物に限らず、より低環境負荷なフェノール類を原料とすることも可能なため環境調和に優れた反応であり、研究室スケールだけではなく工業生産の手法を置き換える可能性があります。

さらに、エステル骨格がそのまま移動するというシンプルな手法であるため、特別な知識を有する化学者以外でも直截的に理解でき、誰もが利用できる「ツール」になり得る可能性があります。

(6)今後の課題

非常にユニークな方法であるものの、いまだ使える化合物が限られていること、反応には高温を必要とすることが今後の課題です。反応はまだ発見されたばかりであるため、今後、より高活性な触媒をデザイン・合成することにより、これらの課題を克服したいと考えています。

(7)用語解説

  • ※1 芳香族エステル:ベンゼン環にエステル基(COOR)がついたもの。安価な安息香酸誘導体やサリチル酸などから誘導できるため、容易に入手可能。香りのある化合物が多い。
  • ※2 配位子:金属触媒の性質を変化させることができる部位。この精密な設計により、触媒効率や反応性を劇的に変化させることができる。

(8)論文情報

  • 掲載雑誌:ACS Catalysis(アメリカ化学会誌)
  • 論文名:Ester Transfer Reaction of Aromatic Esters with Haloarenes and Arenols by a Nickel Catalyst(ニッケル触媒を用いた芳香族ハロゲン化物またはフェノール類と芳香族エステルとのエステル転移反応)
  • 著者:Ryota Isshiki, Naomi Inayama, Kei Muto, and Junichiro Yamaguchi(一色遼大、稲山奈保実、武藤慶、山口潤一郎)
  • 論文公開日: 2020年2月25日(現地時間) (Just Accepted Manuscripts)
  • DOI:10.1021/acscatal.0c00291
  • 掲載URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.0c00291
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