文化財の「見方」が変わる

早大・凸版印刷 バーチャルリアリティ(VR)表現の有効性を検証

発表のポイント

  • 文化財VRコンテンツの鑑賞によって文化財の見方が変化、興味・関心が促進されることを検証
  • VRコンテンツの対象以外の文化的類似性を有した対象への波及効果も認められた
  • VRをコミュニケーションツールとして活用し、グローバルな文化理解促進への応用を目指す

早稲田大学理工学術院の河合隆史(かわいたかし)教授の研究室と凸版印刷株式会社の研究グループは、文化財VRコンテンツの鑑賞によって、鑑賞者自身の文化財に対する「見方」を変化させ、興味や関心を増進させる影響源となり得ることが示唆されました。今後、この研究で得られたVR表現の有効性をコミュニケーションツールとして活用し、異文化間でのグローバルな文化理解の促進に応用してまいります。本研究成果は、2019年9月11日、日本バーチャルリアリティ学会 第24回年次大会にて発表しました。

本研究グループは、これまでも立体視映像(3D)化技術を用いた文化財の新たな鑑賞方法の提案・評価を行ってきました。今回の研究では、VRコンテンツの鑑賞者に対する影響の可視化を目的とし、VR空間内に東京国立博物館に併設されている「TNM & TOPPAN ミュージアムシアター」を構築し、同博物館に収蔵されている国宝「八橋蒔絵螺鈿硯箱」を対象としたVRコンテンツを表現しました。そして、VRの鑑賞前後に日本文化の特徴の含まれた静止画像を呈示し、視線計測機能付きVRヘッドセットを用いて注視点を測定するとともに、美しさや興味深さについて質問紙を用いて回答を求めました。すると、視線計測の結果からVR鑑賞後に静止画像の特徴領域への注視時間の延長が、質問紙の回答結果からVR鑑賞後の静止画像に対する興味深さの上昇が、それぞれ認められました。さらに、実験後のインタビューでは、VRコンテンツの対象以外の文化的類似性を有した対象への波及効果も認められました。

(1)これまでの経緯

早稲田大学理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 河合隆史教授の研究室と凸版印刷株式会社は連携し、立体視映像(3D)化技術を用いた文化財の新たな鑑賞方法の提案・評価を行ってきました。具体的には、歴史的な映像資料や絵画を空間的に表現することで、その理解を深め、興味や関心を増進する方法を提案し、その実施例として記録映像「坪内逍遙 最終講義」や葛飾北斎の浮世絵「富嶽百景」の3Dコンテンツを試作しました。こうした研究を通して、文化財の3D化による視覚表現の特性や、その鑑賞者に対する影響などについて知見を蓄積してきました。

(2)今回の研究の目的

今回の研究では、これまで蓄積した知見や技術をVRに適用し、文化財VRコンテンツの鑑賞者に与える影響について検証を行いました。特に、文化財のVR表現による興味や関心、理解などへの影響を実験的に検証することで、文化を伝達するコミュニケーションメディアとしてのVRの有効性を評価することを目的としました。

(3)そのために構築した新たなアプローチ

今回の研究では、凸版印刷株式会社が長期にわたり数多くの文化財VRコンテンツを制作・公開してきたプラットフォームである、シアター型のVR表現を対象としました。そして、VRの鑑賞前後に日本文化の特徴を含む静止画像を呈示し、「見方」や主観的な好ましさが、どのように変化するかを測定・解析しました。

実験では鑑賞条件を統制するため、東京国立博物館に併設されている「TNM & TOPPAN ミュージアムシアター」を360°撮影し、VR空間内にVRシアターを構築しました。視線計測機能付きVRヘッドセットを用い、VRおよび静止画像鑑賞中の実験参加者(15例)の注視点を測定・解析しました。また、静止画像の鑑賞後に、美しさ、好ましさ、興味深さについて質問紙を用い回答を求めました。

実験では、同博物館に収蔵されている国宝「八橋蒔絵螺鈿硯箱」を対象としたVRコンテンツを選定しました。本コンテンツでは硯箱の外観や内部構造に加え、硯箱の内側から外観を透過して鑑賞するといったVRならではの視点を、ナレーションと共に表現しました。また、日本文化の特徴を含む静止画像には、和舞踊、和食器、和室の3種類を選定しました。

(4)今回の研究で得られた成果

視線計測の結果から、VR鑑賞後は画像に含まれる特徴領域への注視時間の延長が認められました。実験後のインタビューからも、VR鑑賞後に和服や食器のテクスチャに気づき、見るようになったという意見が聞かれました。質問紙の回答結果からは、VR鑑賞後の静止画像に対する興味深さの上昇が認められました。

これまでの研究では、VRコンテンツと同一の対象の静止画像を呈示し、VR鑑賞後に注視時間の延長などが認められました。これに対して今回の研究では、VRコンテンツの対象以外の文化的類似性を有した対象への波及効果が認められました。このことは、VR表現が文化財の「見方」を変化させ、「興味や関心」を増進させる影響源になり得ることを示唆しています。換言すれば、文化財とのコミュニケーションにおけるVR表現の有効性を示していると考えられます。

(5)今後の展望

早稲田大学理工学術院の河合隆史研究室では、VRをはじめとする先進映像システムと人間とのインタラクションに関する研究に従事し、生体計測を用いたユーザ体験の評価に加え、その知見や手法を活用したコンテンツ制作やシステム設計にも取り組んでいます。また、凸版印刷株式会社は、文化財のデジタル化およびVR化の取り組みを長年にわたって蓄積しています。今後もこのような共同研究を通じて文化財VRの特徴を引き出すコミュニケーション手法を駆使し、文化財の表象や意味がどのように鑑賞者に伝達されうるかの研究開発を進めてまいります。

特に、インバウンド・観光などの領域においてグローバルな文化理解が必要とされるシーンにおいて、VRの持つコミュニケーションツールとしての側面に着目し、日本文化の魅力発信での活用や、世界の多様な文化を理解する手段としての活用を進めてまいります。

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