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つねに最先端のその先へ-次への一歩が研究のモチベーション 創造理工学部・滝沢研二教授

※滝沢教授は、独立行政法人日本学術振興会の「第15回(平成30年度)日本学術振興会賞」の受賞が決定しました。

“Highly Cited Researchers”(論文が頻繁に引用される研究者)に選出されるなど、世界からその研究が注目されている滝沢研二教授が今、取り組んでいる最先端の研究に迫る

「流体-構造連成」問題の数値解析について、最先端の研究者と目されている滝沢教授。その研究方法の特徴とは何か。研究におけるこだわりとは?次の研究対象は何か?つねに最先端の研究を続けるために必要な意識とは。そのモチベーションは何か。

流れの中に物があると、流れに変化が起こる。それと同時に、その物体が形を変える構造であれば、流れに押されて形を変える。こうした相互作用を起こす現象が「流体-構造連成(FSI: Fluid‒Structure Interaction)」だ。一般的には聞き慣れない言葉だが、この現象は世の中にありふれている。舞い落ちる枯れ葉や風にはためく旗は、空気と構造とのインタラクションだ。海の中で揺らめく海藻や海上で揺れる船は液体と構造との相互作用にあたる。滝沢研二教授は、この流体-構造連成の数値解析のスペシャリストだ。

「まず、流体と構造がどのような相互作用を起こすのかを支配方程式で表現します。そして、その支配方程式を解けるようにして、コンピュータ上に再現し、シミュレーションを可能にすることです」

流体-構造連成は動きが一定ではなく、特定の傾向があるわけでもない。どのように動くかを予測するのは困難だ。だから、数値解析も難しい。だが、座して待つこともできない事情がある。

「今、NASAのオリオンプロジェクトで使う予定の降下用パラシュートのシミュレーションに携わっていますが、25メートル直径のパラシュートを3基使う予定です。かなりの大きさですから、そう簡単に実験するわけにはいきません。そこでシミュレーションが求められるのです」

オリオンとは、スペースシャトルの後継として開発されている宇宙船のことだ。流体-構造連成の数値解析の手法が向上し、コンピュータ上でのシミュレーションがより正確にできれば、実験を減らし、費用を少なくすることが可能だ。オリオンのパラシュートのように、実験できないほど規模が大きいものを研究したり、生体現象の研究を進めたりすることもできるようになる。

このように流体-構造連成の数値解析が産業界をはじめ、多くの業界から求められているなかで、今、滝沢教授は「流体-構造連成」の計算方法を示す権威の一人と目されている。2013年、滝沢教授は他2人の専門家とともに”Computational Fluid‒Structure Interaction: Methods and Applications”(邦訳『流体-構造連成問題の数値解析』)を上梓。この本は出版社から「この分野における世界で最初の教科書」と位置づけられた。

「共著者であり、一緒に研究させていただいているテズドゥヤー (Tayfun E. Tezduyar) 先生がこの分野の世界的権威なので、このような本を出すことができました。僕にとっては、これがスタート地点でした」

その後、滝沢教授は世界的な情報サービス企業トムソン・ロイターから”Highly Cited Researchers 2015″を、同社の科学部門が運営する論文データベス”Web of Science”から”Highly Cited Researchers 2016 “を授与されている。Highly Cited Researchersとは「頻繁に引用されている研究者」のことで、世界中の研究者の学術論文によく引用される、お手本の論文を書いた研究者のことを示している。滝沢教授は世界最先端の研究を行う先導的な研究者なのだ。

恩師であるテズドゥヤー先生と

自分がより貢献できるのはどこかその発想が道を拓く

滝沢教授は自らの研究の特徴を「機械系だが、数学者と仲良くしているところ」と表現する。「機械系は長い歴史があり、経験豊富な優れた人がたくさんいます。そのなかで、(経験の少ない)僕が貢献できるとしたら、数学を用いた研究だろうと考えました」

もちろん、機械系の研究者たちも数学を活用している。だが、機械系の研究者の場合、当然のことながら、専門としている機械やジャンルがある。だから、ひとつの機械、ひとつのジャンルに特化して、数学を活用することが多い。一方、より数学的である滝沢教授の研究は、ある物理現象に対して数学を応用し、支配方程式で表現しようとしている。つまり、より抽象的なところから、具体的な現象を表現しようとしているのだ。

「数学的に妥当であるというところを前提に、現実に実証することを目指すわけですから、そのままほかの現象に応用することができます。ですから、こだわっているのは『適用範囲の広さ』です」

これまで研究してきたパラシュートの動きも、意外なことに応用できる。「今、取り組んでいるのは、心血管です。パラシュー トと同じプログラムで計算することができます。心臓の血管も、血液という流体が流れて、血管が動く相互作用で、流体-構造連成の一つだからです」。もちろん、両者の動きは異なるため、計算手法を発展させる必要はある。「パラシュートは大きく、空気の渦がたくさんできるから、現象を再現するのが難しいのですが、心血管も、心拍によって、血流の大きさが急激に変わるという現象があるので、そう簡単ではありません」。また、心血管の場合、血管の強度や血流の大きさなど、個体差が大きい。しかも、その個体差が決定的な要因となる。精度の追求は今後も続く。

心臓弁の計算(左)、心臓弁の開閉に伴う流れ(右)をシミュレーションしたもの。大動脈弁の開閉に伴って生じる複雑な流れの様子が再現されている(滝沢研究室提供)

最先端の研究を続けるためのコツと次の研究対象

滝沢教授は適用範囲が広く、様々な現象に応用できる数値解析の方法を研究しているわけだが、発表してしまえば、ほかの研究者でもその手法を利用できるようになる。

「僕が使っている計算手法の詳細はすべて論文に示しています。計算アルゴリズムとは、やり方さえ理解すれば誰でも真似できてしまうものです」。だから、滝沢教授の論文の被引用回数が多いのは、その計算方法の有効性が高いことの証明となる。しかし、誰でも利用できるようになれば、優位性は損なわれる。だから、新たな研究に取り組まざるを得なくなる。滝沢教授は「そこが研究のモチベーションになるところです。つねに最先端にいなければならないわけですから」と語る。

「新しい研究のためには、どういうことが求められているのか、何が必要とされているのかをよく知っておかなければなりません。それも『100年後には何とかなるかも』というものではなく、今の時点で『できそうでできないこと』を把握することです」。つねに最先端にいて、そこからできそうなことを見渡す。最先端の知識・技術をもってしてもできないこと、でももう少しでできるかもしれないこと。滝沢教授の立ち位置からは、どのような景色が見えているのだろうか。

「物と物とがぶつかる直前の流体を把握することです。拍手する時の空気の動きだと、ゆっくり手を合わせるだけなら特別な動きはありませんが、風が出るくらい強く叩いた時の現象は現在の数値解析ではまだ十分表現できません」。これまでも、こういう現象を含む数値解析は行われてきたが、細かい部分については支配方程式で表現することなく、省略されていた。その部分を表現できれば、より適用範囲が広がる。

「たとえば、心臓の弁が開閉する動きです。弁の周辺で血液がどう動くかを解明できれば、手術等に役立つはずです。ほかに、車のタイヤが路面に接地する直前の空気の動きとか、逆にタイヤが路面から離れる動きについても研究しています」。すでに数式で表現することはできており、今は現象との整合性やどこまで正確性を求めるかを検討しているところだという。近い将来、大きな成果を得られるかもしれない。

研究室の一角に飾られた賞状の数々

物事を本質的に考えることは眼前の課題解決にも役立つ

数学の話が多かったが、滝沢教授は数学者ではなく、あくまで機械系の研究者を自認している。機械系の数学・物理は、高校の数学 ・物理が基本だ。「機械系の数学・物理はその対象のほとんどが解明されていることです。ただ、何かに応用した時にわからないことが出てきます。そこが研究対象になるのです」。新しい物理現象を探求しているわけなく、あくまで既知の学問を応用することがメインなのだ。数学もあくまでその物理現象を表現するための道具である。

数学が好きだが、学科選びに悩んでいる生徒には次のようにアドバイスする。「数学のどこが好きなのかです。もし『数学を使って、○○をしてみたい』と思うなら、その○○を扱う学部・学科に進んだほうが良いでしょう。たとえば、数学を使って身近にある物理を理解したいと思うなら機械工学科に入るべきということです」。逆に研究してみたい具体的な対象がなく、数式だけで満足できる抽象的思考の持ち主は数学科に進んでも良いのかもしれない。

受験そのものについては、「本質的な部分も忘れずに学ぶことが結果的に役立つ」と考えている。

「合格だけが目標になりがちだが『今、 学んでいる数学や物理が何の役に立つのか』『数学・物理をどんなことに役立てたいか』を考えながら勉強して欲しい。こうした本質的なところを考えることは、入学後、確実に役立つだけでなく、試験の点数にもつながるはずです。なぜなら、そもそも受験問題を作っている人が、数学や物理を何らかのことに役立てようとしている人だからです」

この考え方もほかの教科にも応用可能だ。滝沢教授の研究と同じように。

早稲田大学創造理工学部・研究科広報誌「創造人」22号より転載

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