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土木工学、地盤工学の視点で震災からの復興を担う 創造理工学部・小峯秀雄教授

福島第一原子力発電所の廃止措置(廃炉)から、中間貯蔵施設建設、放射性廃棄物の地層処分まで
土木工学、地盤工学の視点で震災からの復興を担う

文部科学省の原子力技術人材育成事業に、土木分野の地盤工学会と共同して早稲田が採用された。

なぜ原発や放射性廃棄物処分に土木なのか。その背景には何があったのか。

日本でも有数の専門家である小峯秀雄教授が原発と「土」について語る。

小峯教授

たとえ誰が見ていなくても、批判されても、「責任」と「覚悟」で社会を支える人材に

「僕がやっているのは、ちょっと高級などろんこ遊びです。子供のころ、砂場で山を作ったり、そこに水を流してダムを作ったり。楽しかったですよね、どろんこ遊び」。

と言って、小峯秀雄教授は笑う。

「ダムが崩れたら、頑丈にするために叩いて固めたり、水分を加えたりする。子供はそんなことを自然に学びます。もちろん、僕らは失敗できませんから、物理や化学の知識に基づき、数学を使って崩壊しない設計をするわけです」。

ありふれた存在である「土」一一それは知れば知るほど興味深い性質を持つ。

そもそも土とは、土の粒子一つひとつを指すのではない。「土粒子の集合体」を指す。粒子と粒子の間隙には、空気や水分が入っているが、それも土に含まれる。つまり、土とは、固体・液体・気体の集合体なのだ。だから、土は強く固まることもあれば、液体のような挙動をし、気体のように動くこともある。たとえば砂時計は液体のような動きだし、気体の挙動の典型例は「黄砂」だ。土粒子と空気と水の割合によって、土の性質は変化する。

このような複雑な性質をもつ土だが、普段の生活で私たちが土の存在を意識することは少ない。「人聞社会をつねに支えているのは地盤、つまり土です。感謝すべきでしょう。でもそれが当たり前になっているから、感謝はもちろん関心すら持たない。だから、何か起きた時に対処できない」。

小峯教授はそこを危倶する。

「誰かが土のありがたさに気づいて、地盤の状態を把握し、整備しなければなりません」。

請け負いではなく、対話を通して理解し合い、得意分野を活かす「協働」を

2014年から翌年にかけて、文部科学省は大型研究プログラムを立ち上げた。その名も「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」。目的は、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故にどう対処するか。応募した学術機関は、原子力の専門ばかりだった。

「だいたい17校の応募で、16校までが原子力だったらしい。土木が専門なのはうちだけでしたね」。

原子力発電所の廃止措置(廃炉)や放射性廃棄物の処分に、なぜ土木分野の小峯教授チームが応募したのか。それは原発の解体により発生する廃棄物が最終的に処分されるのが地中だからだ。

「いくらロボットを使って原発の様子を見て、今の状態がわかっても、どう処分するかを導き出せるわけじゃない。地中に処分することを考えるなら、土木工学の知見が絶対に不可欠。その中でも『土」の知識です」。

紙粘土を思い出せばわかるが、土は種類によっては、コンクリートのように不可逆的に硬化させずに固めることが可能で、なおかつ、水分を加えて柔らかくすることもできる。埋めた放射性廃棄物に何かが起きた時、土であれば対処できるのだ。

もともと震災以前から、小峯教授の研究は知れ渡っていた。ベントナイト(膨潤性粘土)という種類の土が放射性廃棄物処分に有効だとわかっていたが、水を含みやすく地すべりの原因となる等やっかいな土と恩われていた。小峯教授はベントナイトがいかに膨潤・透水するかのメカニズムを世界に先駆けて解き明かし、実用化の道を聞いたのだ。それゆえ、いくつかの原子力専門チームから参加要請を受けていた。しかし、その要請をすべて断り、早稲田と地盤工学会を中心とする土木の専門家チームを結成する。

その理由を「協働」が必要だったからと小峯教授は説明する。

「個人で助っ人のように参加すると、請負のような感じになって、言われたことをやるだけになりがちです。でも、それだと今回のケースは大きな事故につながりかねません。土木については、原子力チームよりも我々が専門家だからです。ですから、彼らの指示を請け負うだけではなく、『何をやりたいのか』『どうしたいのか』までを聞ける関係になる必要があったのです」。

対等に話し合う関係になるために、土木の専門家たちが一つの主体となって取り組む必要があったのだ。

教授にとって「協働」とは、知識や価値観のベースが異なる者同士が、対話を通じて理解し合い、互いの得意分野でカを発揮して、目的の成就を目指すことだ。

しかし言うほど簡単なこととは思えない。実際、小峯教授も「相当やりあった」と笑う。

「しつこく質問し、提案する。その繰り返し。実際には対等とは言えないかもしれないけれど、存在感を示したい。名バイプレーヤーになれれば良いですね」。

千年、一万年の先を見据えて。これからの土木工学に求められること

海水が侵入する条件下での実験が可能な装置

これまでの土木工学に求められていたのは防災の視点だ。地震や災害が起きたらどうなるかを想定すればよかった。だが、今、小峯教授が携わる復興のための土木工学には、新しい知識が求められている。

たとえば、放射性廃棄物が半減期を迎えるまでには、1000年、10,000年という長期間にわたるが、それまでに材料となる土(ベントナイト)がどう変化するかわからない。また、高レベル放射性廃棄物は100℃程度の状態が20年、30年にわたって続くが、それに耐えられるのか。地下深くに処分する場合や、沿岸部に処分する場合、海水の影響も考慮しなければならない。これまで取り扱つてない境界条件の下、材料としての土がどう振る舞うか。強度や変形など物理的な側面が強かった土木に、化学分野の知識が求められている。

厳しい挑戦だが、これは早稲田にとってチャンスだと小峯教授は言う。

「早稲田には、長期間、海水に浸けても錆びない実験装置があります。これはおそらく日本の大学で早稲田だけです。装置の面から見ても、早稲田は恵まれています」。

しかし、原発に対する世間の風当たりは苛烈だ。

「福島原発に関わっていると言うだけで、『原発推進派なのか?』と批判される。でも、だからと言って誰もやらなかったらどうなるんだと自問自答しながらやっています」。

良かれと思ってやることを非難されるのは辛い。それでも続けるのは、責任と覚悟があるからだ。

「いろんな経緯でこの道の専門家になったわけですが、もし、自分にしかできないことがあるのなら、やるしかない。その責任がある。好きだの嫌いだのと言っていられません。自分の責任を貫くかどうか。その覚悟しかない」。

この気持ちを伝えたいから、学生にも覚悟を求める。そして、学生たちにもその思いが届く。

福島県出身の学生が東京電力に就職 未来を担う覚悟を育ている教育を目指して

茨城大学から早稲田に移る時に、小峯研究室には修士課程の途中の学生が一人だけいた。福島県出身の女子学生だ。小峯教授は彼女を最後まで見るため、週に一度、早稲田に通ってもらう。結果、彼女は修論の優秀発表賞を授賞した。その学生はあえて東京電力への就職を決めた。

最終面接で、東電人事担当は彼女の志望に敬意を表しつつ、こう話したという。

「福島県出身のあなたが東京電力に就職するということは、加害者の側になるということです。お父さん、お母さんも後ろ指をさされるかもしれない。だからよく考えてください」。

彼女も悩んだだろう。だが両親は「福島のために頑張れ」と送り出した。

「彼女はいつか東電で原子力の研究をやりたいと言っています。きっとすごい人になりますよ」

と小峯教授は目を細める。

「土は嫌われ者です。どろんこ遊びをすると『汚い」なんて叱られますし。でも、汚いのは土ではない。たとえば、土はガラスとほとんど同じ成分ですが、指でガラスにさわるとどうなりますか?」

指紋が付く。

「そう。あなたの皮脂が付着します。つまり、土はほかの物質から汚れを取って、きれいにしているのです。おいしい地下水が育まれる仕組みもそう。土は自らを汚して浄化するのです」。

誰に何を言われようとも、必要なことであればやる。汚れ役になっても、自分の信念を貫いていく。そして社会を変えていく。そんな土のような生き方が小峯教授の信念。その信念もまた、千年万年を超えて受け継がれるだろう。

早稲田大学創造理工学部・研究科 広報誌 「創造人」2017年 19号より転載

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