2017年5月27日、本学西早稲田キャンパスにて「ソフトロボット:メカニカル材料シンポジウム」が開催されました。シンポジウムでは特別講演、基調講演に続いて、第一線でご活躍の研究者11 人による斬新な研究成果が発表されました。
これからの社会では人に寄り添うロボットの必要性が高まっており、ソフトロボットは近年とても注目を浴びています。ロボットと聞くと、「金属でできている」「カクカク動く」というイメージがありますが、最近は金属部品からなるロボットではなく、柔らかい素材を用いた「ソフトロボット」が注目されています。光や熱などで材料自体が動く「メカニカル材料」を用いたソフトロボティクスが実現すれば、私たちの社会に様々な形で応用され、利便性等の面で大きな役割を果たします。本シンポジウムでは、ソフトロボットの研究の発展を目指し、研究者のコミュニティ形成を目的として開催されました。
最初の特別講演では、早稲田大学副総長の橋本周司教授より、「心を持った機械は作れるか?」と題して、長年のロボティクス研究の実績に基づき、これからのロボット分野では、化学が必要とされるとの話がありました。立教大学の入江正浩教授からは、「光駆動変形応答する分子材料—−フォトメカニカル効果」と題して基調講演があり、ゲルからジアリールエテン結晶まで、世界初のフォトメカニカル材料の研究について述べられました。
その後、各研究者が各々の研究内容について熱く語りました。横浜市立大学の高見澤聡教授は、「有機超弾性研究の紹介」の演題で、世界で初めて発見した超弾性を示す有機結晶、すなわち形状記憶合金ならぬ形状記憶有機体について言及しました。名古屋大学の関隆広教授は、アゾベンゼン液晶膜の研究で長年トップを走っておられ「高分子液晶薄膜での分子配向と表面形態の光誘起」と題して、最新の研究も交えて語りました。大阪市立大学の北川大地助教は、「フォトクロミックジアリールエテン単結晶のフォトメカニカル挙動」と題して、ジアリールエテン結晶の多彩なメカニカル運動について話されました。産業技術総合研究所の則包恭央研究グループ長は、「アゾベンゼン結晶のガラス基板上および水面上における移動現象」の演題で、アゾベンゼン結晶に紫外光と可視光を逆側から同時に当てると、融解固化により基板上をゆっくりと進んでいく現象について述べました。立命館大学の堤治教授は、「ソフトロボティクスを志向した応力・ひずみセンシングポリマーの開発」の演題で、ソフトロボット用のコレステリック液晶ポリマーを用いた応力・ひずみセンサーの開発について述べ、立命館大学でのソフトロボット研究の取り組みについても紹介されました。芝浦工業大学の前田真吾准教授は、「化学反応で動くシステム」と題して、周期的に反応を繰り返すB-Z 振動反応により膨潤・伸縮するゲルを用いて、自立的に蠕動運動するアクチュエータを作製したことを話されました。東京工業大学の宍戸厚教授は、「ロボティクスに資するソフトメカニクスの攻究」の演題で、分子性フィルムの湾曲による表面ひずみの新しいリアルタイム測定法を開発したことや、新しい分野として、「力化学」を提唱されました。京都大学の齊藤尚平准教授は、「柔軟な光機能分子の動きに基づくナノ力学の探究」と題して、光で剥がれる液晶接着材料を開発したこと、また、微弱な張力分布を可視化するための張力プローブ分子群の開発についても述べました。北海道大学の景山義之助教は、「定常状態でリミットサイクル振動を実現したアゾベンゼン含有分子集合体の自律的メカニカル運動」と題して、アゾベンゼン含有分子集合体の光励起振動現象について話されました。
早稲田大学側からも先進理工学研究科の下嶋敦教授は、「自己組織化による光応答性アゾベンゼン−シロキサンメソ構造体の合成」の演題で、アゾベンゼンとシロキサンの無機有機ハイブリッド体の光屈曲について話されました。また高等研究所の藤枝俊宣講師は、「ソフトロボティクスに向けたナノ・バイオ・エレクトロニクス融合システムの開発」の演題で、皮膚に貼付して測定するナノシート状のひずみセンサーの開発、および、筋細胞からなるシート状アクチュエータについて話しました。
其々の研究者は、短い講演時間だったにもかかわらず、有機系、有機無機ハイブリッド系、バイ
オ系材料の光、熱、圧力、電気、化学反応によるメカニカル運動について、およびメカニカル材料の力学特性の評価について、最新の研究のエッセンスを述べられ参加者にとって満足度の高いシンポジウムとなりました。
シンポジウムを企画した早稲田大学の小島秀子研究院客員教授は、「この分野が社会的に注目を浴びています。この集まりを核として、研究の輪を広げていきたいと思います。ぜひ若い研究者たちにこの分野を牽引していってもらいたいと思います」と語っています。ソフトロボット研究の発展をめざし、研究者のコミュニティ形成とともに、本学もますます貢献していきたいと思います。